2017年06月16日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~輸出の好調と投資の復調で回復が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2.各国経済の見通し

(図表7)マレーシアの実質GDP成長率(需要側) 2-1.マレーシア
マレーシア経済はここ数年、コモディティ価格の下落やリンギ安および物品・サービス税(GST)の導入による物価上昇に苦しむ減速局面が続いたが、直近3四半期は持ち直しの動きが続いている(図表7)。実質GDP成長率は16年4-6月期(前年同期比4.0%増)を底に緩やかな回復基調が続くなか、17年1-3月期は同5.6%増と民間部門を中心に成長ペースが加速した。民間消費は同6.6%増と、インフレ圧力が高まるなかでも低所得者向けの現金給付策(BR1M)の支給額引上げや雇用環境の回復を受けて堅調な伸びを続けるとともに、海外経済の回復を受けてマレーシアの主要輸出品である電子製品(プリント基板や半導体など)、パーム油、原油、石油製品を中心に輸出(同9.8%増)が急拡大するなか、民間投資(同12.9%増)が製造業を中心に拡大した。

17年は、1-3月期から成長ペースが落ちるだろうが、景気の回復基調は続くと予想する。まず民間消費は引き続き高水準の家計債務が足枷となるものの、BR1M の支給額の引上げやゴム・パーム油の価格上昇と農業生産の回復による農業所得の増加、そして製造業の雇用・所得環境の改善などから堅調な伸びを維持し、景気の牽引役となるだろう。

一方、1-3月期に急伸した輸出と民間投資は減速するものと予想する。輸出は海外経済の回復が続いて足元でも好調を維持しているが、年末にかけて半導体や一次産品需要が落ち着いていくなかで増勢が鈍化するだろう。また昨年のコモディティ価格の上昇によって資源関連産業の業績は改善したほか、企業景況感も回復基調にあることは民間投資の押上げ要因となるが、建設投資の回復は遅れている上、1-3月期の民間投資を押し上げた設備投資は振れが大きく、今後の反動減が予想される。民間投資は底堅く推移するだろうが、伸び率は低下するだろう。

17年度予算では、18年の総選挙を前にインフラ投資や低所得者対策など景気に配慮した歳出の見直しを図っているものの、財政健全化を続けるなかでの歳出の伸び(前年度比3.4%増)は小さい。また年明けから原油価格は上昇が一服しており、政府の資源関連収入の増加を通じた財政余力の回復による補正予算の編成に対する期待感も薄らいできており、公共部門が景気の牽引役とはなりえないだろう。

金融政策は昨年7 月に政策金利を0.25%引き下げて以降、据え置いている。インフレ率は1-3月期に上昇したものの、今後は食品価格の安定やエネルギー価格の上昇一巡によって鈍化するものと見込まれ、政策金利は現行の水準(3%)で据え置かれるだろう。

結果、実質GDP成長率は、16年の4.2%から17年が4.7%、18年が4.6%と緩やかな景気回復を予想する。
(図表8)タイの実質GDP成長率(需要側) 2-2.タイ
タイ経済は14年5月の軍事クーデター後に政治が安定して以降、緩やかな回復傾向が続いている(図表8)。景気の牽引役は政府の景気刺激策と外国人観光客の増加であり、民間部門の勢いは弱い。1-3月期の成長率は前年同期比3.3%増と、10-12月期の同3.0%増から上昇した。この景気回復は、10-12月の景気を押し下げたプミポン前国王崩御後の服喪による民間消費の落ち込みや違法格安ツアーの取締りによる中国人観光客の減少が和らいだこと、そして農業生産の改善および農産品価格の上昇によって農業所得が大きく増加(1-3月期:同20.1%増)した影響が大きい。

17年は、堅調な消費と外国人観光客数の増加、公共・民間投資の復調で3%台半ばの緩やかな成長が続くと予想する。まず民間消費は高水準の家計債務が重石となるものの、農業生産が昨年前半の干ばつ被害からの回復が続いて農業所得の増加が見込まれるほか、昨年のショッピング減税策による所得税還付、そして上向きに転じた消費者心理も追い風となって堅調に推移しよう。

輸出は海外経済の回復によって外国人観光客数が10%近い成長まで拡大して再び景気の牽引役になるほか、財輸出も電子製品や化学製品、ゴム製品を中心に増加傾向を続けるだろう。

公共投資は2.2兆バーツの大型インフラ整備事業計画の進展や1,900億バーツの補正予算による地方の産業基盤の整備などによって引き続き景気の牽引役になるだろう。民間投資は過剰設備を背景に稼働率が低迷して回復の動きは見られないが、今後は公共投資の呼び水効果や投資優遇措置の延長1、そして財輸出が増加基調を続けるなかで徐々に回復に向かうだろう。もっとも政治情勢の不透明感は払拭しておらず、来年に予定する民政移管は先延ばしされる可能性が高い。企業が政治の先行きを見極めようと慎重姿勢を続ける可能性もあり、投資の回復が遅れる展開も予想される。

金融政策は15年4月の利下げ以降、政策金利が据え置かれている。国内経済の回復ペースは依然として緩やかなものとなることから先行きの物価上昇リスクは限定的で、インフレ率は中銀目標の2.5%(±1.5%)以内で推移すると見込まれる。従って、中央銀行は政策金利を据え置き、現行の緩和的な金融政策を続けるものと予想する。

実質GDP成長率は17年が3.4%と、16年の3.2%から若干上昇するが、18年が3.4%と横ばいになると予想する。
 
1 政府は2015年11月から2016年末までに投資した企業を対して投資額の2倍の法人税額控除を認める措置を実施しており、2016年1月24日には同措置の1年間の期限延長を決定した。なお、控除額はこれまでの2倍から1.5倍に縮小した。
(図表9)インドネシアの実質GDP成長率(需要側) 2-3.インドネシア
インドネシア経済は、国際商品市況の下落や中国経済の減速を背景に2011年から2015年まで減速傾向が続いたが、16年は加速に転じ、その後は緩やかな回復傾向にある(図表9)。昨年の景気回復の原動力は予算執行の迅速化による政府支出の拡大に加え、15年9月から政府が矢継ぎ早に打ち出してきた計14本の経済政策パッケージ(許認可手続きの簡素化・迅速化など規制緩和が中心)の実施も追い風となったが、昨年後半は税収不足で政府支出が落ち込みむとともに景気浮揚に向けた政府の改革スピードも失速し、景気回復のペースは鈍ってきている。

1-3月期の成長率は前年同期比5.0%増(10-12月期:同4.9%増)となり、輸出と資源価格の回復を主因に若干上昇した。輸出は主要貿易相手国の景気回復を背景に石炭やパーム油、ゴム、ニッケルなどの一次産品を中心に拡大した。また昨年の一次産品価格の上昇を背景に消費者信頼感と企業の投資マインドが回復したほか、インフラ投資の進展や農業所得の回復なども消費と投資の下支えとなった。

17年は、輸出の増加と投資の復調によって5%台前半の緩やかな成長を予想する。まず輸出は足元の大幅な拡大ペースこそ鈍化するだろうが、海外経済の回復から増加基調は続くと見込まれる。

GDPの約6割を占める民間消費は約8%超の最低賃金の引上げなどで家計の購買力が向上しているほか、16年からの段階的な金融緩和(利下げ幅1.5%)で消費者心理も上昇傾向にあり、底堅く推移するだろう。もっとも電気料金と自動車登録料の値上げの影響などでインフレ率の上昇傾向が続くことは、消費の重石となるだろう。

投資については、インフラ予算が16年補正予算対比22%増と拡充されていることから建設投資の堅調は続くだろう。また足元では資源価格の上昇こそ一服しているものの、輸出の増加に牽引される形で企業業績が回復するとともに緩和的な金融環境も追い風となり、設備投資は底堅く推移するだろう。もっとも中国における過剰生産能力の削減や住宅バブルの抑制策を背景に資源需要が再び落ち込むリスクもあり、投資の回復が遅れる展開もあるだろう。

17年度予算では、緊縮路線を維持して歳出を前年比0.6%減とし、政府消費の拡大が期待できない状況に変わりないが、17年後半は前年同期の支出の落ち込みの反動で政府消費が上昇するだろう。また同国の財政健全化が評価された結果、5月には格付大手S&Pがインドネシア長期債を投資適格級に引き上げた。海外資本が流入しやすくなったことは、今後数年の投資の拡大に寄与しそうだ。

金融政策は、先行きの物価上昇が限定的で中銀の物価目標圏内(3-5%)で収まること、また景気回復も緩やかなことから17年内は現状維持を続けるだろう。

実質GDP成長率は16年の5.0%から17年が5.1%、18年がインフラ支出と対内直接投資の拡大で5.3%と緩やかに上昇すると予想する。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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