コラム
2017年06月08日

不動産業へのブロックチェーンの応用可能性~不動産テックの動向とブロックチェーンの応用例~

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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2不動産業へのブロックチェーンの応用
不動産分野でのブロックチェーンの応用例としては以下3つを紹介したい。
 
  1. 不動産登記を含めた不動産情報の記録・管理
    ブロックチェーンの不動産分野への応用としては、不動産登記が有望事例として紹介されることが多い。現在は政府などが管理者となり、登記情報の正確性・安全性を担保している。しかし、ブロックチェーンを活用することで、管理者が不要となり、コスト削減や登記手続きを効率化できる。また不動産登記システムのセキュリティが高まることで、不動産取引の安全性が向上する可能性もある。

    海外では、すでに実証実験などの取り組みが見られる4。一方、日本での動きは、やや遅れているが、今年4月の規制改革推進会議の投資等ワーキング・グループでは、不動産登記にブロックチェーンを活用すべきとの提案もあり、不動産登記情報に加え、取引情報や課税状況などを含めた不動産情報プラットフォームを構築する案が示されている。不動産情報を集約したプラットフォームが構築されれば、情報の非対称性の改善につながり、中古住宅の売買活性化にも寄与するであろう。
     
  2. スマートコントラクトによる不動産取引の電子化・自動化
    スマートコントラクトは、ブロックチェーン上に契約を書き込み、設定された条件が満たされれば、契約を自動で執行する仕組みである。従来のデリバリーを約束する契約などでは、契約の執行が契約の相手方に委ねられることが多い。そのため、相手方が信頼できるか、第三者保証がないと契約は成立しづらい。しかし、ブロックチェーン上で、契約と執行をプログラム化すれば、相手方への信頼や第三者への保証は不要となる。契約内容が自動で執行されることの業務効率化のメリットも大きい。

    不動産取引には多くの契約が伴い、また紙での契約書を用いることが一般的である。スマートコントラクトを活用すれば、契約書を電子化できることに加え、契約に付随した資金決済や不動産登記などの業務を自動化・効率化することもできる5

    日本でもブロックチェーンを不動産取引に活用しようという動きが出てきている。売買契約ではエスクロー・エージェント・ジャパン社、賃貸借契約ではAMBITION社が実証実験を行っている。また積水ハウス社は2017年度内に、スマートコントラクトの仕組みによる不動産情報管理システムの運用を開始するとしており、将来的には銀行、保険、不動産登記、マイナンバーなどとの連携を図るとするなど、今後の動向が注目される。
     
  3. IoTによる不動産管理の効率化
    IoT(Internet of Things)は、パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器のみならず、身の周りのあらゆるモノがインターネットでつながる仕組みである。モノの情報を収集・分析・活用することが可能となる。例えば、IoTの先進企業であるGE社は航空機エンジンにIoTを活用している。航空機エンジンにセンサーを取り付け、その情報を収集・分析することで、故障を事前に察知し、整備・修理などのコストを削減している6

    IoTでは、常時ネットワークに接続しているため、セキュリティの確保が課題となる。その解決策としてブロックチェーンへの期待が集まっている。IoTにブロックチェーンを活用している例として、トヨタ自動車の研究機関であるToyota Research Institute社(TRI)による自動運転車の開発がある。ブロックチェーンを利用することで、自動車会社や車の所有者などが、走行実績のデータを安全に蓄積・共有することが可能になり、自動運転車の開発が加速すると期待されている。また将来的には、カーシェアリングや走行距離に応じた損害保険などのサービスを、スマートコントラクトを利用して提供することも視野に入れている。

    不動産分野におけるブロックチェーンを活用したIoTの取り組みは、世界的にも多くない。日本で不動産に関連した分野では、ディア・ライフ社がスマートロック、セゾン情報システムズ社がスマート宅配ボックスにブロックチェーンを活用しようという取り組みがある。
 
4 海外では、スウェーデン、ガーナ、ジョージア、ホンジュラス、ウクライナなど様々な国々で不動産登記のブロックチェーン化に向けた研究・実験が行われている。
5 資金決済や不動産登記などの付随する業務を自動化するためには、それらのシステムもブロックチェーンなどで構築し、連結させる必要があるため、実現のハードルは低くない。
6 GE社のIoTシステムは、ブロックチェーンを活用したものではないが、ブロックチェーンのメリットを鑑みれば今後導入される可能性はある。
3ブロックチェーン化された世界での不動産売買の仲介業務
不動産情報プラットフォームやスマートコントラクトが実用化された場合の、不動産売買の仲介業務を考えてみよう。

不動産売買の仲介をするにあたって、現在は不動産情報を収集するために複数の役所などを巡る必要があり、過去の取引価格や修繕履歴などはそもそもデータが存在しない場合も多い。しかし、ブロックチェーンによる不動産情報プラットフォームが整備されれば、スマートフォンなどから一括して情報を取得できるようになる。また、契約書はスマートコントラクトとして効率的に作成・管理することができる。各種手数料や税金、売買代金(手付金を含む)など複数にわたる資金の支払も、スマートコントラクトを利用すれば、契約に定められたとおり、自動で執行される。不動産売買で仲介会社が担ってきた情報収集や資料作成などの業務の多くが自動化・効率化される可能性がある。

消費者からは見えにくいが、不動産売買における仲介会社の事務作業は決して少なくない。これらの業務が自動化・効率化されれば、他の業務に費やす時間を捻出したり、一人の社員が多くの顧客を担当することが可能になる。例えば、顧客へのコンサルティングなど不動産の専門知識を活かした業務の比重が増えていくことが予想される。ブロックチェーン化された世界では、仲介会社の姿が今とは異なったものになるかもしれない。

3――まとめ

少子高齢化の進展により市場縮小が懸念される不動産業界では、海外事業を拡大するなどして、将来の売上減少に先手を打とうという会社も多い。しかし、少子高齢化は、物流・小売業界などで顕在化してきたように、従業員不足といった問題も引き起こす。今後は事業継続性という観点からも不動産業における生産性向上が喫緊の課題であろう。

不動産テックによるIT化の推進は対応策の一つである。特にブロックチェーンは、不動産情報管理や不動産取引、不動産管理の業務を大幅に効率化しうる技術である。

しかし、ブロックチェーンを活用する上では、課題も少なくない。そもそもブロックチェーンは技術として発展途上である。現在は、研究・実験段階にあり、海外でも不動産で実用化した例は少ない。またIT技術の活用による効果が期待される分野は、現在、効率が悪い分野とも言える。多くの人が関わっている業務と言い換えることもできる。そのためIT技術の導入には反発も予想される。そのため、いかにステークホルダーを巻き込んでいくかも重要である。

ブロックチェーンを活用した不動産サービスの創出には、腰を据えた研究・開発が必要とされるだろう。しかし、ブロックチェーンは生産性向上に大いに寄与するだけでなく、産業構造を変革する可能性がある技術でもある。不動産市況が好調な今こそ、ブロックチェーンのように、将来大きく花開くかもしれない技術への種蒔きが期待される。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2017年06月08日「研究員の眼」)

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