2017年06月06日

ブラジル経済の見通し-緩やかな回復基調も政治リスク再燃懸念あり

神戸 雄堂

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1――経済概況・見通し

(経済概況)  1-3月期の実質GDP成長率は9四半期ぶりの前期比プラス成長
 
6月1日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2017年1-3月期のGDP統計を公表した。1-3月期の実質GDP成長率は前期比1.0%増(季節調整系列)と、前期の同0.5%減から、9四半期ぶりのプラス成長となった。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率の推移 需要項目別に見ると、輸出が前期から高い伸びとなり、外需寄与度が成長率を押し上げた。一方、内需は依然としてマイナス成長が続いているが、民間消費には底打ちの兆しが見られる(図表1)。

GDPの約3分の2を占める民間消費は前期比0.1%減と9四半期連続のマイナス成長となったが、前期の同0.5%減から改善した。インフレ率の低下と金融緩和によって消費者のセンチメントが改善するなど、民間消費には底打ちの兆しが見られる。

政府消費は同0.6%減と前期の同0.0%減からさらに悪化した。16年末に成立した歳出上限法によって連邦政府は歳出の抑制を迫られている。また連邦政府並びに地方政府が17年から公務員の削減を開始したことが、政府消費を押し下げたものと見られる。

総固定資本形成は同1.6%減と前期(同1.6%減)からほぼ横ばいとなった。金融緩和にもかかわらず、銀行の貸出金利が高止まりしたことを背景に民間部門が低迷するとともに、公的部門も歳出の抑制が重石となったと考えられる。

純輸出は輸出が同4.8%増、輸入が同1.8%増となった結果、成長率寄与度が0.4%ポイント(前期:同▲0.6%ポイント)と大きく改善した。海外における資源需要の回復が財輸出の増加につながった。
(図表2)【供給項目別】実質GDP成長率の推移 供給項目別に見ると、農牧業が急進するとともに、鉱工業とサービス業もプラス成長に転じた(図表2)。

農牧業は前期比13.4%増と前期の同0.2%減から大きく改善した。天候に恵まれ、大豆やとうもろこしを中心に穀物生産が増加した。

鉱工業は前期比0.9%増と前期の同0.9%減から改善した。鉱業が同1.7%増(前期:同0.6%増)、製造業が同0.9%増(前期:同0.7%減)、電気・ガス・水道が同3.3%増(前期:同0.0%減)、建設業が0.5%増(前期:同2.4%減)と全部門で改善した。

GDPの約6割を占めるサービス業は前期比0.0%増と前期の同0.7%減から改善した。金融・保険が同1.2%減(前期:同0.9%減)と悪化した以外は、小売が同0.6%減(前期:同1.1%減)、運輸・倉庫・郵便が同2.8%増(前期:同1.3%減)、情報通信が同1.6%増(前期:同2.2%減)、不動産が同0.3%増(前期:同0.2%減)、保健衛生・教育が同0.1%減(前期:同0.5%減)、その他サービスが同0.7%増(前期:同0.7%減)と全部門で改善した。
(経済見通し) 17年は緩やかな回復基調と予想も、政治不安が下振れのリスク

(下記表の見通しの数値は、先月来の政治的混乱が実体経済へ波及する影響を考慮していない)

ブラジル経済は、緩やかに回復し、2017年は3年ぶりのプラス成長と予想するが、景気回復の勢いは弱いうえ、政治不安による下振れリスクも潜んでいる。
(図表3)ブラジル経済の見通し
銀行貸出金利の低下及び消費者と企業のセンチメントの改善、失業者向け基金の引出要件緩和やコンセッション方式のインフラ投資プログラムの始動などの政策効果によって民間消費と総固定資本形成は徐々に持ち直し、内需は回復していくと見られる。しかし、足元では依然として経済指標が弱く、景気回復の勢いは弱いものとなるであろう。

外需は世界経済が回復基調にある中、資源需要が拡大して輸出が好調に推移しているが、輸出を牽引する鉄鉱石の需給が足元では緩んでいる。今後さらに鉄鉱石価格の下落が予想される中、輸出は減少すると見られる。輸入は、緩やかながらも3年ぶりとなる内需回復で増加することから外需寄与度は減少するだろう。ブラジル経済は最悪期を脱しつつあるが、今後は景気の踊り場を迎えるだろう。
 
政治不安の再燃によって景気が下振れする懸念が燻っている。5月17日にテメル大統領に新たな汚職疑惑が浮上すると、翌日のボベスパ指数は大きく下落し、為替も年初来最安値を更新した。テメル氏は自身の汚職疑惑を否定したが、野党は弾劾に向けた動き1を進めているほか、24日には首都ブラジリアで抗議デモがエスカレートし、省庁の施設が破壊されるなど、大統領の辞任を求める国民の声は高まっている。足元の政治不安でテメル政権の推し進めてきた社会保障や労働市場などの構造改革の審議は先送りされる懸念が高まっている。ブラジルでは社会保障費が中央政府の支出の約4割を占めており、財政再建には社会保障改革が避けられない。また現行の労働法は労働者保護が手厚く、労働コストの高さが企業収益を圧迫してきた。

ブラジル国内では、4月末に構造改革に反対するゼネストが21年ぶりに実施されるなど国民の反発は強いが、海外投資家はテメル政権の改革姿勢を好意的に受け止めているだけに、改革の遅れはレアル安の圧力となり得る。中央銀行が為替介入を行い、政府も6月上旬に社会保障改革案の審議を行う旨を発表したことで、レアル安こそ緩和されたが、依然としてレアル相場の先行きは不透明となっている。また大手格付会社S&Pは、政治不安によって財政再建が遅れる懸念が高まったとしてブラジルのソブリン格付けを格下げ方向のクレジットウォッチ2に指定したと発表した。格下げによって国債金利が上昇し、財政にもさらなる悪影響を与える懸念も生じている。今後の展開によっては、最悪の場合レアルが大幅に下落し、インフレ率の上昇と金融緩和の後退を通じて内需が縮小する恐れがあり、リセッションへの逆戻りもあり得るだろう。
 
1 6月6日から選挙高等裁判所で、2014年大統領選当時のルセフ元大統領及びテメル元副大統領の汚職疑惑を巡って当選の無効を訴える裁判が再開される。
2 短期的(通常は90 日以内)に格付けに影響を及ぼす重大な出来事が予定されている時に、クレジットウォッチへの指定が行われ、状況や動向が見極められる。
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神戸 雄堂

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