2017年06月07日

オフィス・ホテル・物流市場では供給消化が好調維持の鍵ー不動産クォータリー・レビュー2017年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.243]

加藤 えり子

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堅調な国内景気と入込客数の増加によるインバウンド効果に支えられ、不動産市場は好調を維持してきたが、オフィス・ホテル・物流市場では好調であったがゆえに新規供給が顕著に増加してきた。今後は供給消化が好調維持の鍵となろう。

1―経済動向と住宅市場

2017年1-3月期の実質GDPは1次速報値で前期比0.5%と5四半期連続のプラス成長になった。景気の先行きは企業収益の改善に伴う設備投資の持ち直しなどから堅調な推移が続くことが予想される。2017年3月の日銀短観では、業況判断指数(DI)が大企業製造業・非製造業ともに上昇した。大企業不動産業は、2015年に入って以降30を上まわる高い水準にあるが、3ヵ月後の見通しは28で、大企業非製造業平均に比べ高水準ながらも先行きは好調維持を不安視する傾向が見られる[図表1]。
[図表1]日銀短観業況判断指数推移
住宅市場では、全国の新設住宅着工戸数が前年同月比でややプラスの堅調な推移となっているが、その牽引役は貸家であり、個人がアパートローンを借入れての貸家着工については警鐘を鳴らす報道も散見され、採算性への注視度が高まっている。分譲マンションについては、首都圏の新規発売戸数の1-3月合計は7,102戸と前年を106%上回ったものの、各月とも契約率が70%を割り込み、販売在庫数が増加傾向にある[図表2]。
[図表2]首都圏 分譲マンション新規販売戸数と販売在庫数

2―地価動向

3月に公表された2017年1月公示地価は、全国全用途で+0.4%となり、8年ぶりにプラスに転じた昨年に続き上昇した。商業地、住宅地の双方で上昇地点割合は増加し、下落地点割合が減少した[図表3]。三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)と地方四都市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では全ての用途で平均変動率がプラスとなったが、地方圏平均では改善はみられたものの全ての用途で昨年同様マイナスとなった。
[図表3]地価公示上昇地点割合の推移

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックス1によると、2017年第1四半期の東京都心部オフィス賃料は、Aクラスビルで33,398円/坪、前期比-1.1%、前年同期比-1.8%となった[図表4]。景況や企業業績は良好であるが、2018年に約140万m2の新規供給が見込まれることから、テナント優位の状況が作り出されている。Bクラスビルの成約賃料インデックスは前期比+7.4%・前年同月比-1.1%、Cクラスは前期比+2.8%・前年同月比+2.0%となった。一方、東京以外の主要都市では新規供給が抑制され、概して空室率の低下傾向が継続している[図表5]。
 
1 三幸エステート株式会社『オフィスレント・インデックス』
 http://www.sanko-e.co.jp/data/rentindex/publish-2017
東京都心部:都心5区および周辺区オフィス集積地域
A クラスビル:延床面積:10,000坪以上、基準階貸室面積:300坪以上、築年数:15年以内
B クラスビル:基準階貸室面積200坪以上でAクラスに該当しないビル(築年数経過でAクラスの対象外となったビルを含む)
C クラスビル:基準階貸室面積100坪以上200坪未満のビル(築年数による制限はなし)
[図表4]東京都心A-Cクラス成約賃料インデックスの推移
[図表5]主要都市のオフィスビル空室率
2│賃貸マンション
主要都市の賃貸マンションの賃料は、概ね上昇基調を維持している。東京23区のマンション賃料インデックスは、2016年第3四半期に一旦下落したものの、第4四半期は再び上昇に転じた[図表6]。
[図表6]主要都市のマンション賃料
3│商業施設
業態別の商業販売額は、百貨店で前年同月比マイナスが13ヶ月続いているが、2017年1-3月はマイナス幅の縮小が見られた。スーパーも前年同月比マイナスの月が散見されるが、下落幅は百貨店ほどではなく、相対的に安定した水準を維持している。業態の中ではコンビニエンスストアは堅調な推移となっている[図表7]。
[図表7]百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの販売額(前年同月比)
4│ホテル
過去1年間のホテル平均客室稼働率を2017年3月時点と2016年3月時点で比較すると、東京・大阪を含む多くの都市で低下が見られる[図表8]。とはいえ主要都市の多くでホテル稼働率は過去平均より高い水準にあり、堅調な需要を背景に引き続き既存ホテルへの投資が活発で、新規開発計画も相次いでいる。2016年度の宿泊業用建築物の着工床面積は、前年比+89%、着工棟数は+40%の大幅増となった[図表9]。今後は立地やグレードによっては需給が緩む可能性もある。
[図表8]主要都市のホテル稼働率(過去1年の平均)
[図表9]宿泊業の建築着工動向
5│物流施設
大規模物流施設の供給は、eコマース需要の拡大による需要増などへの期待を背景に、首都圏・近畿圏において高水準が続いている。首都圏では2016年に過去最高の供給があったが、需要も高水準で空室率上昇は抑制された。一方、近畿圏では、2016年の供給量が経済規模に比して大きく、空室率は大幅に上昇した。CBREによれば3月末時点の近畿圏の空室率は17%を超えた[図表10]。2月に埼玉県で火災事故があった影響で、今後は防災や消火活動について、物流施設所有者や運営者の対応がより高いレベルで求められるだろう。
[図表10]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場

2017年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、年初から弱含みで推移し昨年末比4.3%下落した。セクター別ではオフィスが5.1%、住宅が2.1%、商業・物流等が4.1%下落した[図表11]。分配金利回りは3.7%で10年国債利回り(0.0%)とのスプレッドも3.7%である。

J-REITによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,612億円(前年同期比+2%)となった。引き続き物件の取得環境は厳しいものの、J-REITの外部成長ペースは昨年と同水準を維持している。また、2/7に森トラスト・ホテルリート投資法人が運用資産4物件・1,020億円で新規上場し、銘柄数は58社に増加した。
[図表11]東証REIT指数
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加藤 えり子

研究・専門分野

(2017年06月07日「基礎研マンスリー」)

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