2017年06月07日

人手不足はどこまで深刻なのか

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.243]

経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任   斎藤 太郎

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1―労働需要の強さが人手不足の主因

失業率が完全雇用とされる3%程度を下回る2%台まで低下するなど、労働需給は極めて逼迫した状態が続いている。スーパーや百貨店の営業時間短縮、宅配業者のサービス縮小などが相次いだこともあり、ここにきて人手不足が日本経済の制約要因となりつつあるとの見方も増えている。

人手不足は労働市場の需要が供給を上回る状態を示すため、需要の拡大によって生じる場合と供給力の低下によって生じる場合があるが、最近は労働需要の強さが人手不足の主因となっている。就業者数の伸びは自営業者の減少によって抑えられているが、労働需要の強さをより敏感に反映する雇用者数の伸びは高い。2012年10-12月期を起点とした今回の景気回復局面における雇用者数の増加ペースは1990年以降では最も速い[図表1]。
[図表1] 景気回復期の雇用者数の推移

2―労働力人口は大きく上振れ

日本は少子高齢化が進む中で人口減少局面に入っており、人口動態面から労働供給力が低下しやすくなっていることは確かだ。生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年以上減少を続けており、団塊世代が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが加速している。しかし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。労働力人口は生産年齢人口に含まれない65歳以上の人がどれだけ働くかによっても左右されるためだ。

1990年代後半から減少傾向が続いていた労働力人口は2013年から4年連続で増加している。高齢化の進展が労働力人口の押し下げ要因となっているが、女性、高齢者を中心とした年齢階級別の労働力率の大幅上昇がそれを打ち消す形となっている。少なくとも現時点では労働力人口の減少が経済を下押しする形とはなっていない[図表2]。
[図表2] 労働力人口の増減要因
団塊世代が2007年に60歳に到達することが意識され始めた2005年頃から、労働力人口の急減少を懸念する声が急速に高まった。しかし、65歳までの雇用確保措置を講じることが義務付けられた「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたこともあり、団塊世代が一気に退職するような事態は起こらなかった。女性の労働参加拡大が進んだことも労働力人口の減少に歯止めをかけた。

10年前の2007年12月に公表された厚生労働省の雇用政策研究会の報告書では、2017年の労働力人口は「労働市場への参加が進まないケース」で2006年と比べ440万人の減少、「労働市場への参加が進むケース」でも101万人の減少が見込まれていた。

しかし、実際の労働力人口は予想を大きく上回り、2016年には6673万人と2006年の6664万人から9万人の増加となった。「労働市場への参加が進まないケース」の見通しと比較すると2016年の労働力人口は400万人以上も多い。さらに、「労働市場への参加が進むケース」の見通しと比べても100万人程度上回っている[図表3]。
[図表3] 労働力人口は10年前の見通しを大きく上回る

3―潜在的な労働力の活用

現時点では労働供給力の低下は顕在化していないが、将来的には労働力人口の減少が人手不足の深刻化を招く恐れがある。これに対応するためには潜在的な労働力の活用が不可欠だ。

潜在的な労働力として考えられるのは、就業を希望しているにもかかわらず求職活動を行っていないために非労働力人口とされている人である。2016年の非労働力人口は4432万人だが、このうち就業希望者が380万人( 女性:274万人、男性:106万人)いる。

就業希望者の非求職理由をみると、女性は「出産・育児のため」が全体の3分の1を占めている。このことは育児と労働の両立を可能とするような環境整備を進めることにより、女性の労働参加をさらに拡大することが可能であることを示している。実際の労働力人口に就業を希望する非労働力人口を加えて潜在的な労働力率を試算すると、女性は20~54歳の年齢層で80%台となる(2016年時点では概ね70%台)。

男性については、25~59歳の労働力率が現時点で90%台となっているため上昇余地は小さいが、60歳以上の労働力率はさらなる引き上げ余地がある。

4―労働力人口の先行き試算

国立社会保障・人口問題研究所の最新の将来推計人口をもとに、今後10年間の労働力人口を試算した。男女別・年齢階級別の労働力率が2016年実績で一定とすると(悲観ケース)、高齢化の影響で全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には57.4%へと低下する。15歳以上人口の減少ペースは今後加速するため、15歳以上人口に労働力率を掛け合わせた労働力人口は2026年には6200万人となり、2016年よりも473万人減少する[図表4]。

一方、男女別・年齢階級別の労働力率が10年後には現在の潜在的労働力率まで上昇すると仮定すると(楽観ケース)、全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には62.1%まで上昇する。15歳以上人口は大きく減少するものの、2026年の労働力人口は6706万人となり、2016年よりも33万人増加する[図表4]。
[図表4] 労働力人口の先行き試算
労働力率を潜在的な水準まで引き上げれば、今後10年間は少なくとも量的な労働供給力は低下しない。もちろん、就業を希望している非労働力人口を全て労働力化することは現実的には厳しいかもしれない。ただ、過去を振り返ってみると、女性は現実の労働力率の上昇に伴い潜在的な労働力率も上昇している。このことは現時点の潜在的労働力率が必ずしも天井ではなく、様々な施策を講じることによりさらなる引き上げが可能であることを示している。

5―労働時間の増加も人手不足解消には有効

雇用者数の高い伸びにもかかわらず人手不足が解消されない一因は、雇用者数に一人当たりの労働時間を掛け合わせた労働投入量があまり増えていないことだ。雇用者数の伸びは1990年以降の景気回復局面で最も高いが、非正規化の進展などにより一人当たり労働時間が減少しているため、労働投入量の増加ペースは1990年以降で最も低い。

この問題を解決するためには、一人当たりの労働時間を増加させることも考えられる。働き方改革で長時間労働の是正が大きな課題となる中で、労働時間を延ばすことはこれに逆行する動きと思われるかもしれない。しかし、長時間労働の問題は一部の産業でフルタイム労働者を中心に過剰な残業をしていることで、パートタイム労働者などの非正規労働者の中には就業時間の増加を希望する者も少なくない。労働力調査によれば、就業時間の増加を希望する就業者は全体では6%に過ぎないが、非正規の職員・従業員は13%が就業時間の増加を希望している。また、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由による不本意型の非正規労働者も全体の15%程度存在する。

すでに就業している人の労働時間の増加や、非正規から正規への転換は雇用者数には影響しないが、一人当たりの労働時間が増加することによって労働投入量を拡大させる効果がある。

一部の業種で人手不足が事業の継続や拡大の支障となりつつあることは事実だが、当面は賃上げによる人材の確保、非正規労働者の正規労働者への転換などで対応することが可能だろう。

人口の減少ペースは今後加速するが、潜在的な労働力を十分に活用できれば10年程度は現在の労働力人口の水準を維持することができる。人手不足による経済成長への悪影響を過度に悲観する必要はないだろう。
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経済研究部   経済調査室長・総合政策研究部兼任

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2017年06月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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