2017年05月30日

働き方改革の落とし穴~労働時間の一律削減は賃金の低迷を招く恐れ

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨

失業率が2%台まで低下するなど労働需給は極めて逼迫した状態が続いているが、賃金の伸びは依然として低い。労働需給をより敏感に反映するパートタイム労働者の時給は大きく上昇しているが、労働時間が大幅に減少しているため、賃金総額の増加につながっていない。
 
時給の増加を賃金総額の増加につなげるためには、労働時間の減少に歯止めをかけることも必要だ。長時間労働が社会問題となっているが、それは主として、一部の産業、企業でフルタイム労働者を中心に健康を害するような残業をしていること、残業代が支払われないサービス残業が横行していることなどだ。パートタイム労働者などの非正規労働者の中には就業時間の増加を希望する者も少なくない。
 
いわゆる「103万円の壁」など、税・社会保障制度上の問題がパートタイム労働者の労働時間を抑制する一因になっている可能性がある。共働き世帯の増加や女性、高齢者の労働参加拡大といった社会的背景を踏まえて、働き方に中立的な制度改革をさらに進めていくことが求められる。
 
「働き方改革」における長期時間労働の是正を考える上では、労働者の賃金が労働時間に連動して決まる部分とそうでない部分に分かれていることを踏まえておく必要がある。労働者の賃金総額に占める労働時間連動型給与(パートタイム労働者の現金給与総額+一般労働者の所定外給与)の割合は、パートタイム労働者比率の上昇とともに高まっている。このことは、労働時間の変動が労働者の賃金総額に与える影響が従来よりも大きくなっていることを意味する。
 
賃金変動に直結する労働時間を削減すれば、家計所得の減少を通じて経済の低迷を招く恐れがある。長時間労働の是正に関しては、メリハリをつけた取り組みが求められる。パートタイム労働者については、労働時間の削減よりも就業を阻害する要因を取り除くことによって、追加就業希望者の労働時間を延ばすような方策を採ることを優先すべきだ。

■目次

1――はじめに
2――パートタイム労働者の時給上昇が賃金増加につながらず
  1|減少する労働時間
  2|パートタイム労働者の賃金総額は減少
  3|労働時間減少の要因
3――「働き方改革」と労働時間
  1|就業時間増加希望が多い非正規労働者
  2|メリハリをつけた長時間労働の是正が重要
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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