2017年05月24日

ベトナム保険業法-特色ある保険監督法

小林 雅史

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1――はじめに

ベトナムの国情や保険監督体制などについては、小著「ベトナムの保険監督と販売動向1で、2015年ベトナム生保市場のトピックスについては、小著「2015ベトナム生保市場動向2で紹介した。

ベトナムにおいては、保険業法にもとづき、財務省(保険監督庁)が保険会社を監督している。 

保険監督については、わが国と同様、保険会社営業に免許を必要とし、監督当局が審査や認可などを通じて実体的に保険会社を監督する「実体的監督主義」が取られている。

その規定内容を見ると、保険監督に関する条項以外の、保険契約の法律関係に関する条項を規定していること、保険種類に関する規定や、ソルベンシー(支払余力)維持に向けた規定、資産運用に関する規定などについて、詳細かつ厳格な制限を行っていることなど、特徴的な条項が多い。

本レポートでは、ベトナムの保険監督法である保険業法の概要を報告することとしたい。
 
1 小著「ベトナムの保険監督と販売動向」、『保険・年金フォーカス』、ニッセイ基礎研究所、2015年6月30日。http://www.nli-research.co.jp/files/topics/42540_ext_18_0.pdf?site=nli
2 小著「2015 ベトナム生保市場動向 今後の『伸びしろ』が大きい生保市場」、『保険・年金フォーカス』、ニッセイ基礎研究所、2016年9月23日。
http://www.nli-research.co.jp/files/topics/53906_ext_18_0.pdf?site=nli
 

2――ベトナム保険業法の概要

2――ベトナム保険業法の概要

1保険業法の制定(2000年)と改正(2010年)
ベトナムでは、保険業法(Luật kinh doanh bảo hiểm、2000年12月9日制定、2001年4月1日施行)および保険業法の一部の条項を補足、改正する法律(Sửa đổi, bổ sung một số điều của Luật Kinh doanh bảo hiểm、2010年11月24日制定、2011年7月1日施行)により、保険監督が行われている3
 
2保険業法の構成と特異な条項
保険業法は、第I章(一般規定)、第II章(保険契約)、第III章(保険会社)、第IV章(保険代理店、保険ブローカー企業)、第v章(財務、会計、計算書類)、第VI章(外国企業による保険会社、保険ブローカー企業の設立)、第VII章(国家による保険業の管理)、第VIII章(表彰、罰則)、第IX章(施行)から構成されている。

このうち、第II章(保険契約)は、保険監督に関する条項以外の、保険契約の法律関係に関する条項を規定する特徴的な条項である。

同章においては、生命保険契約の当事者以外の者を被保険者とする死亡保険契約(他人の生命の死亡保険契約)に加入する際の被保険者の同意(第38条第1項)、死亡保険金を支払わない場合(第39条:被保険者の2年以内の自殺、契約者や保険金受取人による被保険者の故殺、死刑の執行。この場合、解約返戻金を支払い)など、わが国においては保険法で制定されている条項が置かれている。

また、同章第31条においては、個人保険の契約者について、被保険者自身、被保険者の配偶者、子、親、兄弟姉妹、その他被保険者が扶養する者、保険会社が被保険者との関係で保険加入を妥当と認めた者との制限があり、他人の生命の死亡保険契約に加入する際の被保険者の同意に加え、被保険利益について厳格な規定が置かれている。

さらに、同章第38条第2項においては、死亡保険契約について、成人年齢である18才未満の者(親または保護者が契約者となり、18歳未満の者を被保険者とするケースを除く)、精神に障がいのある者は、保険契約の当事者となれないとの規定がある。
 
3保険監督、業務の範囲
保険業法では、財務省(Bộ Tài chính)が保険会社の営業に対する免許を付与する権限を有している(第62条)。

保険会社の免許申請後60日以内に、財務省は免許付与または書面で理由を付した免許拒絶を行うこととされている(第65条)。保険会社は株式会社のほか、相互会社も認められている(第70条)。保険業の事業免許は、生命保険、損害保険、医療保険の3つに区分されている(2011年改正保険業法第7条、従来は生命保険と損害保険の2区分)。

生命保険の区分は、従来、終身保険(bảo hiểm trọn đời)、学資保険(bảo hiểm  sinh kỳ)、養老保険(bảo hiểm hỗn hợp)、定期保険(bảo hiểm tử kỳ)、定期支払保険(bảo hiểm trả tiền định kỳ)、その他政府の規制に服する保険(Các nghiệp vụ bảo hiểm nhân thọ khác do Chính phủ quy định)とされていたが、2011年改正保険業法により、その他政府の規制に服する保険に代えて、投資リンク保険(bảo hiểm liên kết) および個人年金保険(bảo hiểm hưu trí)が追加された。

生命保険事業と損害保険事業の兼営は禁止されているが、生命保険事業と医療保険事業、損害保険事業と医療保険事業の兼営は認められている(第60条第2項)。
 
4保険業務に関する規制
(1) ソルベンシー規制
保険会社の健全性維持のため、保険業法第77条で保険会社のソルベンシー (支払余力)維持が求められている。

詳細は政令No.46/2007/ND-CP(Số:46/2007/NĐ-CP)に規定されている。

同第15条で、保険会社は、保険事業継続のために、ソルベンシー (同第17条で、財務省の定める流動資産から負債を除いた金額とされている)を維持することが求められ、最小ソルベンシーがあればソルベンシーが維持されているものとみなされている。

同第16条で、生保会社の最小ソルベンシーは、保険期間が5年以下の保険契約の場合は責任準備金の4%と、危険保険金額の0.1%とされ、保険期間が5年超の保険契約については責任準備金の4%と危険保険金額の0.3%とされている。

同第19条で、最小ソルベンシーを下回った場合、財務省は、保険会社に対し、増資、事業の全部または一部の停止、経営統合や保険契約の移転などを要求することができるとされている。

(2) 資本規制(最低資本金)
資本規制(最低資本金)については、政令No.46/2007/ND-CPに規定されており、同第4条で、生保事業の最低資本金は6000億ドン(損保会社は3000億ドン)とされている。

(3) 外資参入規制
保険業法第59条で、保険会社は国営保険会社、株式会社、相互会社、合弁会社、100%外資出資の保険会社に区分されている。

参入の際の要件は、政令No.45/2007/ND-CP(Số:45/2007/NĐ-CP)第6条に規定されている。

第一に、本国の保険監督当局から、ベトナムで営業予定の保険事業について認可を取得していること、第二に、本国で10年以上保険事業を継続していること、第三に参入前年の総資産が20億ドル以上であること、第四に3年以上、重大な法令違反をしていないことである。
 
3 損害保険事業総合研究所 研究部『アジア諸国における損害保険市場・諸制度の概要について(その2)』、2015年3月。
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小林 雅史

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