コラム
2017年05月23日

変わる“ファースト・レディ”の役割-「公人」と「私人」、「夫」と「妻」の間で

土堤内 昭雄

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最近、世界各国の首脳交代が相次いでいる。昨年7月にイギリスで保守党のメイ首相が、今年1月にアメリカで共和党のトランプ大統領が、5月に韓国で「共に民主党」の文(ムン)大統領とフランスで中道・独立派のマクロン大統領が誕生した。新たな首脳の登場による世界の潮流変化への期待と同時に、ファースト・レディ(またはジェントルマン)になる配偶者の人物像や行動にも注目が集まっている。

70歳のトランプ大統領の妻は24歳年下の元モデルのメラニア夫人、39歳のマクロン大統領の妻は25歳年上の元教師ブリジット夫人だ。マクロン氏の「年の差婚」は大統領選挙中からも話題だったが、今後は夫人にファースト・レディとしての公的役割を与えるとの同氏の主張を巡り、フランス国内では議論が広がっているという。世界のリーダーは夫婦同伴の行動も多く、そのあり方も興味深い。

アメリカ大統領の妻の場合、公式の位置づけではないが、ホワイトハウスでの日常生活や外交にも大きな役割を果たす。その他にも積極的に社会活動に参加したり、大統領とは異なる側面から国政に影響を与えたりもする。今回、ヒラリー・クリントン氏が大統領に就任していたら、夫の元大統領ビル・クリントン氏はアメリカ初のファースト・ジェントルマンとして、どのように振る舞っただろう。

昨年、日本で開催された伊勢・志摩サミットでは、各国首脳の配偶者プログラムが用意されていた。ドイツのメルケル首相の夫はフンボルト大学の量子化学の教授であり、唯一の男性参加者だったが、同氏はこれまでほとんど公式の場に姿を見せたことはないそうだ。元投資銀行員であるイギリス・メイ首相の夫も、基本的には首相配偶者としてインタビュー等に応じることはないという。

日本では一般的に「政治家の夫を支えるのは妻の務め」とみなされているが、妻が首相になれば夫はどのような役割を果たすのだろう。公式な位置づけがない一方で、各国首脳の配偶者が演じる役割は決して小さくない。今後も女性首脳が増加する中で、その配偶者(男性とは限らない)の役割は、「公人」と「私人」、「夫」と「妻」の間で大きく変容するのかもしれない。

将来的に首脳の妻同士によるファースト・レディ外交も、男性配偶者を交えることで変わるだろう。最近、日本でも総理大臣夫人の挙動が注目されているが、ファースト・レディ(またはジェントルマン)の年齢や性別が多様化し、その役割は単なる儀礼的アテンドにとどまらない。主要国の首脳が集まるG7・サミットの配偶者プログラムも、「おもてなし」の異文化交流イベントを超えて、世界が直面する深刻な難民問題など、政治色を帯びた社会的テーマを共有する機会になるのかもしれない。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2017年05月23日「研究員の眼」)

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