2017年05月19日

【マレーシアGDP】1-3月期は前年同期比+5.6%-予想上回る成長で3期連続の景気回復

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2017年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.6%増と前期の同4.5%増から上昇したほか、Bloomberg調査の市場予想(同4.7%増)を上回った。

需要項目別に見ると、民間部門を中心に成長率が上昇したことが分かる(図表1)。

民間消費は前年同期比6.6%増と、食料・飲料や情報通信、住宅・共益を中心に前期の同6.1%増から上昇した。低インフレ環境が続くなか、低所得者向けの現金給付策(BR1M)の支給額引上げや最低賃金の10%超の引上げといった政策要因によって可処分所得が向上したことが消費の支えとなった。

政府消費は前年同期比7.5%増(前期:同4.2%減)と、公務員給与や物品・サービスの購入費を中心に大きく上昇した。

総固定資本形成は同10.0%増(前期:同2.4%増)と大きく上昇した。設備投資(21.8%増)が急伸したものの、建設投資(同3.8%増)は伸び悩んだ。なお、投資のうち民間部門が同12.9%増(前期:同4.9%増)と大きく上昇するとともに、公共部門も同3.2%増(前期:同0.4%減)と緩慢ながらも3期ぶりのプラスに転じた。

純輸出については、輸出が同9.8%増と、財輸出が好調で前期の同2.2%増から大きく上昇した。一方、輸入も同12.9%増(前期:同1.6%減)と上昇した結果、純輸出の成長への寄与度は▲1.2%ポイントとなり、前期の+0.5%ポイントから減少した。
マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/マレーシアの実質GDP成長率(供給側)

   5月19日、マレーシア統計庁は2017年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成長率は1.8%増と、前期(同1.4%増)から上昇した。
 
供給側を見ると、農業の急回復と製造業・サービス業の堅調な拡大が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

全体の5割強を占めるサービス業は前年同期比5.8%増と、前期の同5.5%増から上昇した。卸売・小売(同6.7%増)、情報・通信(同8.2%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.3%増)が堅調な伸びを続ける一方、金融・保険(同3.5%増)と政府サービス(同5.1%増)は緩慢な伸びに止まった。

鉱工業をみると、製造業は同5.6%増(前期:同4.7%増)と、3期連続で上昇した。石油、化学、ゴム・プラスチック製品(同3.1%増)が伸び悩んだものの、主力の電気・電子製品(同7.5%増)や動植物性油脂・食品加工(同8.2%増)が高成長を記録するとともに輸送用機器等(同3.5%増)が4期ぶりのプラスに転じた。また建設業は同6.5%増(前期:同5.1%増)と3期ぶりに上昇した一方、鉱業は同1.6%増と天然ガスの生産が急増した前期(同5.0%増)から低下した。

農林水産業は同8.3%増と、エルニーニョ現象の影響を受けて低迷していた前年同期(同2.5%減)から天候の回復と海外需要の拡大を受けてパーム油やゴムを中心に大きく上昇した。
(1-3月期GDPの評価と先行きのポイント)
マレーシア経済は、2014年の原油価格下落を背景とする減速局面が昨年半ばで終わり、その後は緩やかな回復基調が続くなか、1-3月期は民間部門と輸出が好調で成長ペースが加速した。1-3月期のGDPは、景気の最悪期だった昨年同期の水準が低かったことが成長率(前年比)を押し上げた面もあるが、前期比(季節調整済)の成長率が1.8%増(前期:同1.4%増)と上昇したことも確かだ。今回の結果はポジティブサプライズと言える。

1-3月期は民間投資と輸出の急伸が目立った。海外経済の回復を受けてマレーシアの主要輸出品である電子製品(プリント基板や半導体など)、パーム油、原油、石油製品などの輸出はそれぞれ二桁増に拡大している。鉱工業生産指数を見ると、製造業生産は輸出関連産業を中心に高く伸びており、輸出の大幅な増加が企業の設備投資に繋がったものと考えられる(図表3)。また消費の堅調な伸びもサービス業の投資に繋がっている。企業景況感指数も1-3月期に急上昇したが、今後も輸出の大幅な増加が続くかどうかは疑問も残る(図表4)。4-6月期には半導体の不需要期に入るほか、安定成長を望む中国が景気減速に向かうと見込まれるためだ。従って、足元の輸出と設備投資の高い伸びは年末にかけて落ち着いたものとなると予想する。また石油関連企業は原油価格の回復とコストカットによって業績が改善し始めたが、冷え込んだ設備投資の再開にはもうしばらく時間が掛かるだろう。

また公共部門は年内まで緩やかな成長が続くと予想される。景気回復による税収増を受けて17年度補正予算が組まれれば、政府支出の拡大が景気を押し上げることになるが、原油価格は年明けから上昇が一服しており、政府の石油関連収入は17年も低調と見込まれる。現時点で政府は17年度補正予算を念頭においていないようだ。

一方、GDPの5割強を占める民間消費は堅調な伸びを維持するだろう。雇用・所得環境が安定するなか、17年度予算における低所得者向けの現金給付策(BR1M)の増額や最低賃金の引上げなどの政策要因が消費をサポートしている。足元の景気回復によって今後は消費者信頼感も改善に向かうだろう。インフレ率は1-3月に燃料価格の値上げを受けて一時5%まで上昇して消費の重石となったが、昨年の資源高の影響が一巡することから6月のラマダン(断食月)後には落ち着きを取り戻すものと予想される。

マレーシア経済が「緩やかな成長」から「堅調な成長」へと移ったかには疑問が残るが、まずは輸出の好調がどこまで続くかに注視したい。
マレーシアの鉱工業生産指数/マレーシアの企業景況感、消費者信頼感
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2017年05月19日「経済・金融フラッシュ」)

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