2017年05月17日

【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状- 2016年のデータを中心に -

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――はじめに1

韓国では少子・高齢化の急速な進展に伴い、社会保障に対する韓国政府の支出が継続的に増加している。そこで、社会的リスクに対する政府の公的制度と共に、自助努力としての民間保険の必要性に対する認識がますます広がっている。韓国の高齢化率は2016年現在13.5%でまだ日本より低い水準であるが、その進行速度は日本より速い2。2060年には高齢化率が39.9%に到達し、日本の高齢化率と変わらなくなることが予想されている。韓国政府としては、老後所得保障の2階部分として生命保険を含む民間保険の活性化を望んでいるが、最近の景気低迷などにより、とくに若年層の生命保険離れが進んでいる。さらに、昨今の経済成長率は2%まで低下しており、今後も低い成長率が維持されることが予測されている。

本稿では、韓国の保険研究院が毎年実施している「保険消費者アンケート調査」や、韓国生命保険協会の「2016年生命保険FACT BOOK」等を用いて韓国における生命保険市場の現状について紹介したい3
 
1 本稿の内容は、金明中(2016)「韓国における生命保険市場の現状- 2015年のデータを中心に-」を修正、補完したものである。
2 韓国の高齢化率に関しては、金明中(2015)「日韓比較(3):高齢化率 ―2060年における日韓の高齢化率は両国共に39.9%―」を参照。
3 2017年2月末現在、韓国において営業活動をしている生命保険会社は総25社である。
 

2――加入状況

2――加入状況

韓国保険研究院が2016年に実施したアンケート調査4の結果によると、2016年における生命保険の世帯加入率は81.8%で、2015年の87.2%に比べて5.4%ポイント減少した。また、生命保険加入世帯の平均加入件数も3.4件で2015年の3.5件に比べて0.1件減少している。生命保険の加入率が前年に比べて大きく減少した理由としては、郡地域(2015年95.8%→2016年66.0%)や60歳以上年齢階層(2015年84.1%→2016年66.1%)の加入率が大きく減少した点が挙げられる(図表1)。
図表1 韓国における生命保険の世帯加入率や生命保険加入世帯の平均加入件数の動向
2015年における生命保険の商品別世帯加入率は、疾病治療重点保障保険5が78.7%で最も高く、次が終身保険(34.6%)、年金保険(23.8%)、致命的疾病保険6(12.3%)、貯蓄性保険(13.6%)、変額保険(5.3%)、教育保険(4.2%)の順であった(図表2)。

疾病治療重点保障保険の加入率が高い理由としては、早いスピードで高齢化が進展していることや公的医療保険の自己負担率が高いことが挙げられる。つまり、年齢が上昇するとともに病気にかかる確率も高くなり、一度病気にかかると治療期間も長期化していくが、公的医療保障制度である「国民健康保険」の重大疾病に対する保障性が低いために、人々が疾病治療重点保障保険への加入を高めたと考えられる。

2016年からは商品の基準が変わったので、2015年以前と比較することが難しくなったものの、疾病治療重点保障保険に近い疾病保障保険の世帯加入率が69.4%で最も高く、次は実損医療保険(28.5%)、死亡保険(21.9%)、災害(傷害)保険(17.4%)の順であった(図表3)。
図表2 生命保険の商品別世帯加入率の推移/図表3 生命保険の商品別世帯加入率(2016年)
一方、生命保険の個人加入率は2015年の78.9%から2016年には73.4%に大きく減少した。2016年の既婚者の加入率(75.1%)や加入件数(1.6件)はそれぞれ、未婚者の加入率(67.2%)や加入件数(1.1件)を上回った。2015年調査と比べて、既婚者の加入率や加入件数がともに減少したこととは対照的に、未婚者の加入率や加入件数はともに小幅増加した。また、既婚者の中では子どものいる世帯の加入率が70%以上で、子どものいない世帯の加入率62.2%より高いという結果となった(図表4)。
図表4 韓国における生命保険の個人加入率や個人加入件数の動向(婚姻状態や子どもの数別)
男女別の個人加入率は、女性(76.9%)が男性(69.9%)より高く、所得階層別には高所得層(81.4%)の加入率が中所得層(76.4%)や低所得層(57.1%)の加入率を上回った(図表5)。一つ注目すべきことは2012年以降、継続的に増加傾向であった低所得層の加入率が2016年には大きく減少したことである7。最近、韓国経済の低迷が低所得層の所得減少に繋がった結果ではないかと判断される。
図表5 所得階層別個人加入率
年代別の個人加入率は、40代(82.2%)が最も高く、次は50代(82.1%)、30代(78.8%)、60代以上(61.5%)の順であった。一方、20代の加入率は62.4%で、2015年の67.2%に比べて4.8%ポイントも減少した。最近の若者の深刻な就職難が原因であると考えられる。

学歴別の個人加入率は、学歴が高いほど、加入率や加入件数が高いという結果が見られた。特に中卒以下の個人加入率や加入件数はそれぞれ43.6%、0.7件で、高卒の77.0%、1.6件と大学在学以上の78.2%、1.6件を大きく下回った。
 
 
4 韓国保険研究院(2016)「保険消費者アンケート調査」、調査対象:全国(済州道を除く)の満20歳以上の男女1,200人、 調査期間:2016年5月18日~2016年6月17日。
5 癌、過労死関連特定疾病、脳血管疾病、心臓疾患、糖尿病、女性慢性疾患、婦人科疾患などのような疾病の発病および治療にかかる医療費や生活費を保障する保険。
6 被保険者が致命的疾病(Critical Illness)にかかった時、死亡保険金の一部を生活費として支給する保険。被保険者や家族は、受領した一部の保険金を被保険者が亡くなる前の高額の治療費、生活費、看病費などとして使い、被保険者が亡くなると残った死亡保険金は遺族に支給される。
7 2012年62.5%、2013年67.5%、2014年68.7%、2015年71.1%。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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