2017年05月12日

予算編成、税制改革の動向-未だ詳細は不明。議会共和党からの支持が鍵だが、政策協調の可能性は低い。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.税制改革の動向

(1) 税制改革骨子:個人、法人所得税率の大幅な引き下げ方針も、詳細な制度設計は不明

4月26日に、満を持して発表された税制改革の骨子は、メディアに対して配布された1枚ものの資料に留まっており、内容に乏しいものであった。さらに、記者発表を行ったムニューシン財務長官や、コーン国家経済会議委員長の質疑応答は歯切れが悪く、具体的な政策立案作業が進んでいない印象を与えた。
(図表4)税制改革骨子(4月26日発表) 今回発表された税制改革骨子では、税制改革目標として、経済成長及び雇用創出などが明記された(図表4)。

個人向けには、所得税率の区分を現在の7から3(10、20、35%)に削減するほか、基礎控除額を2万4千ドルに倍増する方針などが示された。

法人向けには、法人所得税率を現行の35%から15%に引き下げるほか、課税方式を海外子会社の配当等にも米国の税率が適用される全世界所得課税方式から、海外利益に対しては、米国の法人所得税が免除される源泉国課税方式に変更する方針も示された。全世界所得課税は、米国での課税回避のために海外利益の本国回帰を妨げている要因として問題視されてきた。

一方、ライアン下院議長を中心に下院共和党が求めていた、消費国で課税する仕向地主義のキャッシュフロー課税方式については採用が見送られたほか、直接税として課税所得から輸出分を除く一方、輸入分を加える国境調整税(BAT)についての言及も無かった。BATは、WTO規約違反や、国内物価上昇、ドル高懸念など、様々な物議を醸しており、動向が注目されていた。

今回発表された税制改革骨子は、あくまで税制改革議論のためのたたき台と位置付けられており、既に共和党議員からは、「税制の構造改革」を伴わない「単純な減税」は認めらないとの声が挙がっている。
(2) 債務残高の見通し:今後10年で6.2兆ドル(GDP比22%)の増加見込み
(図表5)トランプ政権の税制改革案の債務残高への影響試算 今回発表された税制改革案を実行した場合には、債務残高の大幅な増加が見込まれている。米シンクタンクの試算7では、27年までの今後10年間で支払い利息を含めた債務残高は6.2兆ドル(GDP比22%)増加すると見込まれている(図表5)。

このうち、個人所得税率の変更に伴う増加分が1.5兆ドル、法人税率引き下げに関する増加分が2.2兆ドルなどとなっている。もっとも、同シンクタンクは税制改革案として提示された情報が限定的であることから、試算結果には相当程度不確定な要素が入っているとしており、精緻な分析が困難な状況となっている。
(図表6)債務残高見通し(GDP比) 米国の債務残高(GDP比)は、現行の予算関連法が今後も継続すると仮定(ベースライン)した場合に、16年度の77%から27年度には89%に増加することが見込まれている(図表6)。このため、トランプ政権が掲げる税制改革が実現する場合には、さらに22%増加した111%まで上昇するとみられる。

昨年春の17年度予算審議において、下院共和党は10年後の債務残高を60%弱の水準まで削減する方針を示していた。下院共和党は、減税による債務残高の増加に対して否定的な立場を堅持していることから、トランプ政権と税制改革に対する考え方の開きは依然として大きい。

一方、トランプ政権は、税制改革に伴い成長率を3%超に加速することによって、長期的な債務残高の増加を抑制できるとしているが、シカゴ大学がエコノミスト42を対象にした調査8によれば、今回提示された税制改革案について、政権が説明するように成長加速によって減税などによる税収減を補うことが可能との見方に対して、賛成との回答割合は僅か5%に過ぎず、17%が反対、67%が強く反対としており、成長加速によって債務残高の増加を抑制できるとの見方は少ない。  

4.今後の見通し

4.今後の見通し

18年度の会計年度開始まで5ヵ月を切る中で、予算編成作業は大幅に遅れている。今年は政権交代があったものの、予算編成作業の起点となる予算教書は、例年2月の第1月曜日までに議会に提出することになっているため、本稿執筆時点(5月11日)でも通常の予算教書が提出されていないことは異常である。予算を審議する議会は、7月末から9月上旬まで休会となるため、予算審議に割ける審議日数は、下院の休会前までの審議日数が39日と、極めて限られていることが分かる。一部報道では、トランプ政権の関係者の話として通常の予算教書を5月23日に公表するとしており、税制改革をどの程度歳入に織込んでくるか注目される。

一方、トランプ大統領の支持率は、足元で3割台後半から4割台と歴代大統領と比較して低い支持率に喘いでいる。また、大統領選挙期間中のロシア政府の関与について上下院で調査が行われているなど、議会共和党からトランプ大統領が信頼されているとは言い難い。

トランプ政権が目指す予算編成や税制改革の実現のためには、議会共和党は勿論、一部民主党の支持が必要になるが、現在の政策案では民主党からの支持が期待できないほか、議会共和党とも考え方に開きがある。さらに、これまでの予算編成や税制改革議論の大幅な遅れにみられるように、政権運営の稚拙さもあり、議会共和党との政策協調が円滑に進む可能性は低い。このため、トランプ政権が掲げる予算編成や税制改革は今後大幅な軌道修正が不可避だろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年05月12日「Weekly エコノミスト・レター」)

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