2017年05月08日

オフィス・ホテル・物流市場では供給消化が好調維持の鍵-不動産クォータリー・レビュー2017年第1四半期

加藤 えり子

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4. J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

2017年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、年初から弱含みで推移し昨年末比4.3%下落した。セクター別ではオフィスが5.1%、住宅が2.1%、商業・物流等が4.1%下落した(図表-23)。需給要因では海外勢の売りが目立っており、1月から3月にかけて「海外投資家部門」は累計285億円の売り越となった。3月末時点のバリュエーションは、純資産8.3兆円に保有物件の含み益1.9兆円を加えた10.2兆円に対して時価総額は11.9兆円でNAV倍率は1.2倍、分配金利回りは3.7%で10年国債利回り(0.0%)とのスプレッドも3.7%である。

J-REITによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,612億円(前年同期比+2%)となった(図表-24)。引き続き物件の取得環境は厳しいものの、J-REITの外部成長ペースは昨年と同水準を維持している。また、2/7に森トラスト・ホテルリート投資法人が運用資産4物件・1,020億円で新規上場し、銘柄数は58社に増加した。

市場では米国の金融引き締めに伴い将来は日本の長期金利も上昇するとの警戒感が台頭している。しかし、現時点では日銀による「イールドカーブ・コントロール」が功を奏し、10年国債利回りは0%近辺で推移しデット資金も好条件で調達できている。

1~3月にJ-REITが発行した投資法人債(320億円)の利率は平均0.32%となり、昨年1年間の0.51%から一段と低下した(図表-25)。およその利回り目線は3年債で0%、5年債で0.2%、10年債で0.5%となっている。昨年はマイナス金利の導入により10年国債利回りもマイナスとなるなか、満期までの平均年限は初めて10年を超えた。今年は長期金利がプラス圏に浮上する一方で、中期ゾーンの金利がなおマイナスであることから、平均年限は7.8年に縮小している。J-REIT各社はより有利な調達コストを求めて発行要件を柔軟に見直して調達コストの低減を図っている。なお、現在のJ-REIT 全体の負債コスト(融資関連費用を除く)は0.8%で、仮に負債コストが0.5%まで低下した場合5%の増益要因となる。
図表-23 東証REIT指数(配当除き、2016年12月末=100)
図表-24 J-REITによる物件取得額(四半期毎)/図表-25 投資法人債の発行状況(平均利率、平均年限)
昨年のマイナス金利導入以降、国内不動産取引市場では、さらなる利回りの低下が続いている。CBREによる投資家調査(2017年1月時点)によれば、東京オフィス(大手町)のNOI利回りの平均値は3.6%で、前期から0.05ポイント低下し、前回市況がピークだった2007年~2008年の3.9%を0.3ポイント下回った。

価格の上昇にともない、企業、上場リートによる売却も見られる。2017年1-4月に公表・報道されたJ-REIT以外の取得者による大型取引を図表-26に示した。みなとみらい、品川シーサイド、天王洲など湾岸部の築浅大型ビルの取引が複数見られた。大型でグレードは高いが都心周辺部に位置するビルについても投資需要が高い状況になっている。物流施設については、2016年後半に物流開発会社がこれまで保有・運営していた物件を売却する事例が見られたが、今期は物流リートによる売却も見られた。J-REITによる1-3月の取得のうち、4%未満の鑑定キャップレートであった物件は図表-27のとおりであり、都心の優良物件であれば3%台での取引も珍しくなくなってきている。
図表-26 J-REIT以外が取得した主な大型物件 (2017年1-4月)/図表-27 J-REITによる低利回り取得物件 (2017年1-3月)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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加藤 えり子

研究・専門分野

(2017年05月08日「不動産投資レポート」)

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