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1―強まる逆風
離脱交渉がまとまってもどちらも新たに得るものは無く、EUと英国との交渉は厳しいものになるだろう。EU離脱の可否を問う国民投票で、離脱派が甘い見通しで投票者の判断を誤らせたのは確かだ。しかし困難な先行きが見えてきても離脱を思いとどまるべきだという声は盛り上がらなかった。移民に職を奪われるという恐怖が人々を反グローバル化に向かわせている。
一方EUの内部でも、中東やアフリカから流れ込んでくる難民問題への対処に対する不満が高まっている。経済が好調で大きな利益を得ているドイツでさえ、格差の拡大に労働者層の不満が高まっており、9月に予定されている総選挙でメルケル首相が率いる与党が苦戦する恐れも出てきている。
2―理念と現実のギャップ
アメリカでは昨年の大統領選挙で予想外のトランプ大統領の誕生となったが、その原動力となったのはグローバル化で安定した職を奪われた工場労働者だった。国際的な公正・正義よりも自国の利益を追求すべきだという、トランプ大統領の掲げるアメリカ第一主義への共感が強いのは、貿易相手国がグローバル化の恩恵の大半を取ってしまい、自分達には恩恵が及ばないという不満が大きいからだ。
3―ユーロ危機の源泉
ドイツがマルクを使いギリシャがドラクマを使っていた頃は、ドラクマをマルクに対して切り下げるというハンディキャップの拡大で国際収支の均衡が保たれ、経済危機は回避されていた。しかしユーロを統一通貨として使うことによって、自国通貨の切り下げという手段を失ってしまったために、ギリシャなどの南欧諸国は多くの人が失業してしまうような不況を引き起こす以外に危機を回避する手段がなくなってしまった。
日本国内でも地域による経済力の格差はあるが、危機に発展することはないのは地方交付税制度など地域間の経済格差を埋める仕組みを持っているからだ。ユーロ圏各国はユーロの危機に対して「統合の深化」で対応しようとしてきたが、南欧諸国の財政危機を救うためにもっと大きな負担をしようという考えよりも、なぜ他国のために自分たちが負担をしなくてはならないのかという不満が高まっている。
4―汲み取るべき教訓
理念が先行して急いで前に進もうとしても、摩擦が大きくなってしまえば逆風が強くなり船は押し戻されてむしろ後退してしまう。グローバル化を進めるためには、それによって引き起こされる様々な摩擦へのきめ細かな対応が必要だという教訓ではないだろうか。
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2017年05月10日「基礎研マンスリー」)
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