2017年04月25日

欧州大手保険グループの2016年決算状況について(1)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-

中村 亮一

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(2)2015年との比較
2015年との比較では、以下の図表にある5社については、一般的に欧州、米国での進展率が低く、アジア・太平洋での進展率が高くなっている。2015年は、米ドルがユーロやポンドに対して強くなったという為替レートによる影響で、米国での進展率が高いものとなっていたが、2016年はユーロとの関係では米ドルの為替レートの影響はそれほど大きなものではない。むしろ、Brexit(英国のEU離脱)の影響で、ポンドがユーロやドルに対して弱くなった影響が出ている。

また、以下の図表にはないが、Avivaは欧州で2桁の進展となっており、Aegonも欧州での進展率が高いものとなっている。
欧州大手保険グループの生命保険料の地域別内訳(2015年から2016年に向けての増加額と進展率)
このように、会社全体の数値を前年と比較する場合においては、為替レートの変化による影響も小さくないことに注意が必要になる。因みに、主要通貨間の為替レートは、以下の通りとなっている。
為替換算レートの変化
2-2.営業利益の状況
次に、営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社毎の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等を一定程度比較できるものと考えられる。

(1)2016年の結果
営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と傾向は大きくは変わらない。

AXAは、アジアが29%とさらに高くなっており、米国と合わせた2つの地域で51%を占めている。

Allianzは、米国が23%と高くなっているが、アジア・太平洋やその他は各2%程度にとどまっている。

Generaliは、イタリアが42%と保険料の構成比以上に高くなっている。

Prudentialは、アジアが35%となり、2015年の30%に比べて、さらに高くなっている。

Zurichは、中南米等のその他が17%と、営業利益の面でも他社と比べて際立って高くなっている。

なお、以下の図表にはないが、Avivaの場合、欧州が9割、残りの1割がアジアとなっており、Aegonの基礎利益は、欧州が1/3、米国が2/3となっている。

このように営業利益ベースでみると、米国事業を有する会社においては、そのグループ内での位置付けがさらに高いものとなっている。アジア・太平洋については、保険料規模の大きいAXAやPrudentialと、これら2社までの水準には達していないAllianzやGeneraliとは状況が異なっており、先の2社では営業利益ベースでの構成比は保険料ベースよりもさらに高く3割程度となっている。

いずれにしても、営業利益においても、各社とも、自国以外での構成比が6割から8割となり、重要な位置付けを占めてきている。
欧州大手保険グループの生命保険事業の営業利益の地域別内訳(2016年)
(2)2015年との比較
2015年との比較では、AXAは微減益であるが、AXA以外の4社は順調に営業利益を増加させている。ただし、親会社国での営業利益については、Generali以外は減少している。米国ではZurich以外、アジア・太平洋地域ではGenerali以外は、営業利益を伸ばしている。なお、前年との比較を見る上においても、保険料の項目で述べたように、為替レートの影響を考慮する必要がある。

以下の図表にはないが、Avivaは欧州が好調だが、アジアでは減益となっており、Aegonも欧州と北米・中南米で増益だが、アジアでは減益となっている。
欧州大手保険グループの生命保険事業の営業利益の地域別内訳(2015年から2016年に向けての増加額と進展率)

3―欧州大手保険グループ各社の決算状況-AXA、Allianz、Generali-

3―欧州大手保険グループ各社の決算状況-AXA、Allianz、Generali-

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)5及び新契約価値の状況を地域別に報告する。

さらに、低金利環境下での投資関係損益等を巡る状況や新契約の収益率等の状況を、各社毎に得られる情報に基づいて、報告する。

1|AXA
(1)地域別の業績-2016年の結果-
AXAは、世界の64カ国で保険事業と資産管理事業を展開している。

AXAの営業利益は、1) 自国のフランス、2) 自国以外の欧州、3) 米国、4) 日本を含むアジア、の4地域でそれぞれほぼ1/4程度を占めている。

Annual Reportによれば、収入保険料や新契約保険料等の規模で、自国のフランスでのシェアは9.2%で第3位であるものの、最大の米国市場では、AXAの子会社グループは、2016年9月末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第12位となっている6。さらに、スイスでは26.0%のシェアで第2位、ベルギーでは8.6%のシェアで第3位であることに加えて、インドネシアでは9.7%のシェアで第2位、タイでは11.9%のシェアで第4位等、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。なお、ドイツでは2015年ベースで、生命保険が3.8%のシェアで第8位、医療保険は7.6%のシェアで第4位となっている。

新契約価値ベースでみると、日本を含むアジアが4割を超える構成比となっている。日本でのシェアは2.0%で第15位であるが、その市場の規模から、AXAグループ全体の中では、営業利益で16%、新契約価値でも19%と大きな位置付けを有している。
生命保険事業(Life&Savings)の地域別内訳(2016年)/うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2015年との比較-
2015年との比較では、欧州での業績は新契約価値を除いてマイナスであるのに対して、日本を含むアジアにおいて順調に業績を伸ばしている。

グループ全体として、ユニットリンク型商品の販売は思わしくなかったが、一般勘定の貯蓄商品や保障・医療商品、ミュチュアル・ファンド等において進展した。低金利の影響を受けながらも、より望まれるプロダクト・ミックスの構築とコスト削減を進めたことにより、営業利益を確保した、としている。
生命保険事業(Life&Savings)の地域別内訳(2015年から2016年に向けての増加額と進展率)
 
5 欧州大手保険グループは、EEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を公表している。
6 AM Best社のデータに基づく(以下、同様)。
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中村 亮一

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