2017年04月18日

欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

中村 亮一

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5|Aviva
Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド(2016年末で29億ポンド)、職員年金制度(2016年末で11億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。殆どの重要な完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、と経営は考えている。

Avivaも、2016年中に営業利益の計上やモデルの変更等で35億ユーロの資本形成を行うことで、市場の影響等のマイナス要因をカバーして、SCR比率を180%から189%へと9%ポイント上昇させた。

なお、2016年末のソルベンシーIIポジションには、(1)Crédit du Nord(Société Généraleの子会社)との生命保険ジョイントベンチャーであるAntariusにおけるAvivaの株式持分の50%のSogecap(Société Généraleの子会社)への売却(剰余が2億ポンド増加)、(2)税務上の欠損金に関する税控除を制限する英国の税制改正による将来の影響(剰余が4億ポンド減少)、という2つの見積もり調整が含まれている。

また、2016年には、Friends Life Limited とFriends Life and Pensions Limitedの無配当ファンドを含むように内部モデルの適用範囲を拡大している。
AvivaのSCR比率推移の要(因単 位:十億ユーロ)/Avivaの感応度の推移
6|Aegon
Aegonは、SCR比率の動向分析を四半期毎に説明している。

2016年上期末において、英国年金事業の売却とオランダにおいて採られた経営行動により、7%ポイントのSCR比率の改善が見られたとしていた。具体的なオランダにおける経営行動については、「(1)オランダにおける、ボラティリティ調整のより完全な適用、(2)追加的な金利ヘッジ、(3)将来の事業費水準に関連したより低いリスクマージン」と説明していた。また、金利低下による市場の影響は、一部、オランダにおけるスプレッドのタイトニングで相殺されたとしていた。「その他」には、ティアリングの制限、分散化及びFXの影響が含まれていた。

2016年第3四半期末から2016年末に向けては、信用スプレッドの動きと金利上昇により、SCR比率は3%ポイント改善した。

ただし、以上の動きを通じて、年間では2015年末の160%から159%に1%ポイント低下した。
AegonのSCR比率推移の要因
感応度は、2015年末と2016年上期末では、(1)オランダにおけるALMとヘッジプログラムの変更、(2)英国の年金事業売却、(3)さらなる金利の低下、により、かなり大きく変化したと説明していた。

AegonもUFRを変化させた場合の影響を開示しているが、2015年末では100bpsの引き下げで、6pts(オランダは18pts)の影響であったものが、2016年末には50bpsの引き下げで、4pts(オランダでは13bps)と、影響度が増加している。
Aegonの感応度の推移
なお、地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率
7|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。SST比率は2015年末に、規制の変更等により、低下している。SSTの報告は年1回である。

ZurichのZ-ECMの目標範囲は、100%~120%となっている。

資本構造は、2016年末で、株式が73%、ハイブリッド債務が19%、優先債務が9%となっている。
ZurichのRBCのリスク別内訳/ZurichのRBCの事業別内訳
Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、金利低下の影響を受けて、2016年上期末に、他社のSCR比率に比べて、割合的に大きく低下していた。ただし、金利が上昇したことに加えて、株式市場の好転や農業再保険会社からの資本送金やモロッコと南アフリカ事業の売却等により、2016年末に向けては、大きく比率を回復させた。
Zurichのソルベンシー比率推移の要因
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。
Zurichの感応度の推移

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2016年末のSCR比率の状況等について報告してきた。

今回の決算発表においても、SCRの算出方法等の説明は一定程度行われているが、具体的な内部モデルの説明等についての開示は行われていない。

加えて、課題とされていた各国監督当局間の整合性の問題も、完全には解決せずに、引き続き未解決のまま残されており、大手会社間の取扱いも統一されているわけではない。

前回のレポートでも述べたように、5月下旬以降、SCSR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)が作成され、パブリック・ディスクロージャ―資料として、一般に公開されてくることから、より詳細な情報が得られることが期待されている。

いずれにしても、欧州の大手保険グループを中心とした各社の内部モデル等に基づくSCRの算出方法等については、今後の日本におけるソルベンシー規制やその中での各社のソルベンシー管理等を検討していく上において、大変参考になるものがあることから、継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年04月18日「保険・年金フォーカス」)

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