2017年04月12日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(2)-

中村 亮一

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3―今回の新たなUFR算出のための方法論に対する反応

1|Insurance Europeの意見
今回のEIOPAの公表資料に対しては、欧州の保険業界団体であるInsurance Europeが早速、公表当日に、以下の声明2を行って、今回の方法論の見直しに基づいての2018年からのUFR水準の引き下げに反対している。

「UFRはソルベンシーIIの評価制度の一部である。この評価制度は、保険会社の長期的な事業を正しく反映しておらず、保険会社の長期的な投資能力に有害な影響を及ぼすという懸念がすでに存在している。したがって、変更は、制度全体とその影響が評価される2020年までに完了が計画されているレビューの一環としてのみ、最終決定され、実施されるべきである。」

Comment on announcement on changes to Solvency II UFR methodology
ソルベンシーII のUFR方法論の変更に関する発表に対するコメント

2018年1月1日より、ソルベンシーIIの終局フォワードレート(UFR)の変更を予定しているEIOPAの発表に続いて、Insurance Europeの Olav Jones副事務局長は、以下のようにコメントした。

「ソルベンシーIIはすでに非常に慎重なアプローチを取っており、いくつかのセーフガードを持っているため、欧州保険業界はUFRへの急激な変更を行う必要はない、と主張する。ソルベンシーIIの下で負債を計算する際、保険者は現在の低金利が今後20年間維持されると仮定することが求められる。しかし、これは一般的には極端なシナリオであり、基本ケースではないと考えられる。その結果、保険者は現在、わずか0.6%の金利を使用して10年負債を評価しなければならない。50年負債の場合であっても、その率は2.7%を下回っている。」

「保険者はさらに低い金利の場合にも資本を保持しなければならない。これに加えて、ソルベンシーIIは、企業経営陣が問題に早期に対処するために行動することを確実にし、彼らが行動を起こさない場合には、監督当局が早期介入のための権限と情報を有することを保証するように設計された非常に重要なガバナンスと報告要件を有している。」

「UFRはソルベンシーIIの評価制度の一部である。この評価制度は、保険会社の長期的な事業を正しく反映しておらず、保険会社の長期的な投資能力に有害な影響を及ぼすという懸念がすでに存在している。したがって、変更は、制度全体とその影響が評価される2020年までに完了が計画されているレビューの一環としてのみ、最終決定され、実施されるべきである。」

「欧州委員会が、枠組みのこの特定の側面について、EIOPAから技術的情報を受け取ったら、ソルベンシーIIの金利への感応度と全体的な保守性を考慮し、こうした独立した変更を避けるべきである。」

 
2|AMICE(欧州相互保険会社・協同組合協会)の反応
AMICE (Association of Mutual Insurers and Insurance Cooperatives in Europe:欧州相互保険会社・協同組合協会) も、以下の声明3を4月5日にプレス・リリースして、今回のEIOPAの決定に反対する意見表明を行っている。

「EIOPAの発表が景気後退の影響を及ぼし、特に長期的な事業に関連する保険契約者の保護をさらに困難にするかもしれないというさらなる懸念がある。」

「AMICEは、EIOPAに対し、本日発表された改訂実施日を再考し、来るべきLTGAレビューの中で取り組むように要請する。」

AMICE raises concerns about EIOPA decision on ultimate forward rate (UFR)
AMICEは終局フォワード・レート(UFR)に関するEIOPAの決定について懸念を表明する

AMICEは、本日発表されたEIOPAの決定で、終局フォワードレート(UFR)に関して改訂された方法論を適用すると発表したが、ソルベンシーIIの枠組みとタイミングの問題が完全に考慮されていない。2020年のソルベンシーIIの LTGA(長期保証)レビューに先立ち、ソルベンシーIIの他の要素への直接的及び間接的な影響を考慮せずに、この時点で方法論を変更するEIOPAの決定は、不必要にソルベンシー・ポジションを変更する可能性を秘めている。

EIOPAの発表が景気後退の影響を及ぼし、特に長期的な事業に関連する保険契約者の保護をさらに困難にするかもしれないというさらなる懸念がある。

AMICEは、EIOPAに対し、本日発表された改訂実施日を再考し、来るべきLTGAレビューの中で取り組むように要請する。

 
3 AMICEのWebサイトから入手可能
  http://www.amice-eu.org/
3|GDV(ドイツ保険協会)の反応
GDVのWebサイトによれば、会長のJörgvon Fürstenwerth氏は3月24日付けのコラムで、UFRについて、以下の通り述べており、現時点でのUFRの見直し(引き下げ)に強く反対していた。

「EIOPAはすでにUFR水準の引き下げを求めている。しかし、そのような引き下げは適切でない。必要性がないのに、保険会社の自己資本レベルを下げ、リスクポジションを高めることにつながる。したがって、我々はUFRのレビューが今から数年後に行われるべきだと考えている。」

No need to reduce the Ultimate Forward Rate at this point
この時点で終局フォワードレートを下げる必要はない

全ての逆の予測にも関わらず、保険会社は歴史的に低金利と新しい規定に非常によく適応してきている。しかし、EIOPAは、まるで安定を避けようとしているかのように、システムの基盤を再び妨害し始めた。たとえば、いわゆるUFRのレビューは、2017年中頃に予定されている。UFRは長期の利率を決定するために設計されたソルベンシーIIの要素である。現在のレベルは4.2%に設定されている。実際には、金利曲線はずっと低くなっている。EIOPAはすでにUFR水準の引き下げを求めている。しかし、そのような引き下げは適切でない。必要性がないのに、保険会社の自己資本水準を下げ、リスクポジションを高めることにつながる。従って、我々はUFRのレビューが今から数年後に行われるべきだと考えている。ところで、ソルベンシーIIの金利曲線は、すでに他の曲線、例えば IFRSに基づいた年金給付発生額の評価のためのものより、ずっと保守的だ。

しかし、それだけではない。ソルベンシーIIのまさに初年度に、欧州委員会は、EIOPAに2018年までに、保険者がSCRの標準式にどのように対処しており、どの問題を解決する必要があるかを分析した報告書を作成するように要請した。2016年12月、EIOPAは118ページのディスカッションペーパーを用意し、業界にフィードバックを求めた。この間、いくつかのディスカッション・ミーティングが開催されている。最初の勧告は10月に欧州委員会に送られる。 「標準式」という言葉は非常に誤解を招くものであることに注意すべきだ。この計算方法は、すでに多数の指示と無数のパラメータを考慮しなければならない。明らかにここでは画期的な変更は意図されていないが、いくつかの関連する詳細が議論の対象となる。例えば、EIOPAは、結果にとって重要な金利リスクのルールを厳しくすることを目指している。私たちは歴史的に低金利によって引き起こされる影響を非常に認識していることは言うまでもない。それにもかかわらず、負の範囲であっても、金利がチェックされずに引き下げられるようにすることに、GDVは強く反対している。私たちの業界では、保険者が投資を続けるのではなく現金で資金を保有するという事実上の金利の臨界値がある。

4|欧州委員会や欧州議会の反応
欧州議会の経済・金融問題委員会(Econ)委員長のRoberto Gualtieri氏は、EIOPA会長のGabriel Bernardino氏に対して、2016年11月15日にレターを送っているが、その中で、「UFRは2014年にソルベンシーIIを修正したオムニバスIIの指令で合意した妥協の一部であったため、2021年の長期保証パッケージのレビュー計画において、指令の他の要素と並行してのみ検討されるべきである。」等と主張していた。さらには、「会社の資本に与える影響を考慮して、UFR変更のより幅広い影響評価が必要である。」と主張していた。

今回の方法論は、こうした意見にも関わらず、「方法論を実施する最終的な決定は、先に述べたような広範な協議と影響分析に基づいている。」として、EIOPAは、2018年1月から新しい方法論が適用され、UFR水準の引き下げが行われていくべき、とした。

EIOPAは新しいUFR方法論を実施する権利を有しているが、欧州委員会は、使用されるリスクフリー・レートについて最終的な発言権を有している、とされている。
欧州委員会は、これまでUFRの早期の変更を批判してきたことから、今後どのように対応していくのかが注目されることになる。
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中村 亮一

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