2017年04月10日

介護の国際数量比較-日本の介護は、他国よりも優れているのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、高齢化が進み、高齢者の医療や介護への関心が高まっている。日本の公的介護保険制度は、2000年に開始された。公的介護保険のサービス利用者は、年々増加している。それに伴って、介護施設や介護を担う人材が不足したり、介護の社会保障費が増大するなど、問題が生じている。

高齢化は、先進国を中心に世界的に進みつつあり、各国で介護制度について議論や制度改正が行われている。そこで、本稿では、各国の介護の現状を比較し、日本の介護の特徴を見ることとしたい。
 

2――数量比較に際しての留意点

2――数量比較に際しての留意点

介護の評価は、そもそも要介護状態に至るまでの、医療サービスのクオリティーに影響を受けると考えられる。また、介護サービスの支出や、利用状況も、評価要素として欠かせないものと思われる。そして、各要素を支える基盤として、スタッフや設備の整備状況も、重要な要素と見られる。各国の比較分析にあたっては、これらの要素を念頭に置いておくことが有効であろう。

介護は、各国ごとに発展の歴史が大きく異なり、サービスの対象者も一様ではない。このため、本来は、そうした違いを踏まえた比較が望ましい。しかし、本稿は、各国の介護制度の詳細な分析をすることは、目的としていない。数量比較により、日本の介護の特徴を大づかみすることを主眼に置く。

通常、介護サービスは、医療と連動して行われる。例えば、高齢者が脳梗塞で入院し、リハビリテーションを経て退院したとする。症状が軽快して退院したとしても、病気が完治した訳ではなく、ケアが必要となる。介護サービスは、このような状態で行われることが多い。そこで、介護の比較では、医療の結果、介護を必要とする人がどの程度出現するか、というところから見ていく必要があろう。

本稿では、5つの評価要素を設定して、7種類の統計指標を取り上げて、データを比較していくこととしたい。なお、比較には、各国のデータをまとめた、世界保健機関(WHO)の World Health Statistics 、および経済協力開発機構(OECD)の Health Statistics もしくはHealth Data を用いることとする1
図表1. 比較に用いる統計指標
 
1 図表2-1、2-2では、WHOのデータ(アドレスはhttp://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/2016/en/)、図表3以降では、OECDのデータ(同http://www.oecd.org/els/health-systems/health-data.htm)等をグラフ化して表示する。
 

3――介護データによる数量比較

3――介護データによる数量比較

この章では、実際に、介護について、各国の数量比較を行っていく。

1日本は、欧米主要国に比べて、潜在介護期間が短い
まず、平均寿命を見ていく。日本は、女性で世界トップとなっている。男性も、トップ層に位置する。ヨーロッパでは、女性はスペイン、男性はスイスの平均寿命が長い。アメリカは、相対的に短い。

次に、健康度調整平均寿命を比較する2。この寿命で見ても、日本は、欧米主要国よりも長い。2000年から2015年にかけての変化を見ると、2つの平均寿命は同じように伸びている。その結果、2つの平均寿命の差として、介護を要する可能性がある期間(以下、「潜在介護期間」3と呼ぶ。)を計算すると、この期間の長さは、15年間であまり変化していない。この傾向は、他国でも同様となっている。

潜在介護期間は、女性で9.6~11.4年程度、男性で8.0~9.6年程度となっている。日本は、男女ともこの期間が短い。一方、女性はスペイン、アメリカ、男性はスイス、スウェーデンで、この期間が長い。潜在介護期間において、ケアの提供を通じて、QOL(Quality of Life)の改善を進めることは、各国共通の課題と言える。
図表2-1. ①-1平均寿命、健康度調整平均寿命、潜在介護期間 [女性] 
/図表2-2. ①-2平均寿命、健康度調整平均寿命、潜在介護期間 [男性]
 
2 比較には、WHOが2000年に提唱した健康度調整平均寿命(Healthy life expectancy, HALE)を用いる。これは、病気やケガのために健康を損なう期間を考慮して、「完全な健康状態」で生活できる平均年数(Average number of years that a person can expect to live in "full health" by taking into account years lived in less than full health due to disease and/or injury.(WHOのホームページに記載の定義))を意味する。厚生労働省公表の、日常生活に制限のない期間、という意味での健康寿命とは異なる。
3 「潜在介護期間」は、本稿における造語であり、一般に浸透している用語ではない点に、ご注意いただきたい。
2日本は、高齢化により介護支出が増加しており、主要国の中位まで上昇
次に、国内総生産(GDP)に対する介護支出の割合を見てみる。その水準は、数%程度にとどまっており、医療費に比べて小さいと言える。日本は、2008年にはGDPの1%と、その割合は小さかった。しかし、人口の高齢化が進むとともに、割合が上昇し、直近では主要国の中位となっている。ヨーロッパでは、オランダや、スウェーデン、デンマークの介護支出割合が高い。アメリカは、介護施設関係の支出のみのデータであり、単純な比較はできないが、支出割合は低いものとみられる。
図表3. ②介護支出割合 (GDPに対する割合)
3日本は、介護施設の入居者割合が、主要国の中位に位置
続いて、介護サービスの利用状況を見てみる。まず、介護施設への入居の状況。日本は、介護施設入居者割合が、イタリアやカナダと並び、中位に位置する。急増する介護施設の需要に対して、供給が追いついていないことが考えられる。主要国では、オランダ、スウェーデンの割合が高い。一方、アメリカやスペインは、割合が低い。
図表4. ③介護施設入居者割合 (人口に対する割合)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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