2017年04月05日

標準利率の引き下げと生保会社の対応-経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制

  小林 雅史

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1――はじめに

2017年4月に、標準利率が、現在の1%から0.25%に引き下げられた。2013年4月の引き下げ(1.5%⇒1%)以来、4年ぶりとなる。

標準利率とは、1996 年の保険業法改正により導入された標準責任準備金制度において、責任準備金を積み立てる利率である。

この標準利率と、保険料計算上の予定利率とは別の概念であり、標準利率の引き下げは予定利率の引き下げと必ずしもリンクしない。

一方で、保険料計算上の予定利率のみを据え置いた場合、生保会社において予定利率以上の資産運用が困難となるのではないかとの懸念もあり、従来の標準利率引き下げ時には、保険料計算上の予定利率も連動して引き下げられる例が多かった。

予定利率を単純に引き下げると、以降の新規契約の保険料が引き上げられることとなるが、従来の標準利率引き下げ時には、生保各社のさまざまな創意工夫により、保険料の単純な値上げを抑制する取り組みが行われてきた。

今回の標準利率引き下げ時にも、保険料計算上の予定利率を引き下げる一方、従来にも増して、さまざまな工夫により、新規契約に対する保険料の引き上げをなるべく抑制する取り組みを行う会社がある。

本レポートでは、標準利率と保険料計算上の予定利率との関係を示した上で、プレス発表資料をもとに、生保会社の標準利率の引き下げに伴う対応を紹介することとしたい。
 

2――標準利率とは

2――標準利率とは

1996 年の保険業法改正で、顧客保護のために標準責任準備金制度が導入され、責任準備金の積立基準を定めて、保険会社に対して標準責任準備金の積立が義務付けられることとなった。

保険契約は長期にわたるものであり、保険会社は、顧客から受け取った保険料を、将来の保険金や給付金を支払うために積み立てる必要がある。

この将来の保険金や給付金を支払うために積み立てる金額が責任準備金であるが、十分な金額を積み立てておかないと、将来の保険金や給付金の支払いに支障が生じる懸念がある。

標準責任準備金度については、大蔵省告示で定められているが、予定死亡率(性別・年齢別に将来の死亡率を予測した数値)は日本アクチュアリー会が作成し、監督当局が検証したものとされている(標準死亡率)。

予定利率(責任準備金を運用する将来の利率を予測した数値)は、毎年10月時点での、10年国債の応募者利回りの過去3年間の平均値と過去10年間の平均値の低い方に安全率係数を乗じて算出することとされ、その時点で適用されている利率と0.5%以上乖離した場合に、0.25%の整数倍の利率に変更する(翌年の4月1日以降の新契約に適用)とされているが、これが標準利率である。

標準利率は、1996年4月時点で2.75%だったものが、1999年4月には2%に、2001年4月には1.5%に、2013年4月には1%に引き下げられ、さらに今回0.25%に引き下げられたものである。

保険期間が1年以下の保険契約、変額保険や予定利率変動型保険、外貨建保険などは標準責任準備金制度の対象外となっている。

なお、標準利率算出ルールについては、2014年6月、一時払契約の設定方法の新設(平準払契約は従来どおり、毎年1回、10月に見直しが行われるが、一時払契約は毎年1月、4月、7月、10月の年4回見直し。また、うち一時払終身は10年国債と20年国債の、一時払養老、一時払年金などは10年国債の、それぞれ過去3か月間の平均値と過去1年間の平均値の低い方に安全率係数を乗じて算出するなど。2015年4月以降に締結する保険契約に適用)などの変更1が行われている。

さらに、2016年6月、0%以下の国債利回りの平均値(指標金利)に対応する安全率係数を設定するなどの変更(即日適用)2が行われている。
 
1 「『保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)』に対するパブリックコメントの結果等について」(2014年6月20日)、金融庁ホームページ、勝野健太郎「標準利率算出ルールの見直し」『生命保険経営』第82巻第5号、2014年9月、猪ノ口勝徳「民間生保一時払保険の標準利率設定方法の変更について」『共済総研レポート』No.137、2015年2月。
2 「『保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成8年大蔵省告示第48号)等の一部を改正する件(案)』に対するパブリックコメントの結果等について」(2016年6月22日)、金融庁ホームページ。
 

3――標準利率と保険料計算上の予定利率との関係

3――標準利率と保険料計算上の予定利率との関係

生命保険の責任準備金については、標準死亡率や標準利率などにより積み立てることが生保会社に義務付けられているが、保険料計算上の予定利率などについてはこうした義務付けはない。

したがって、生保会社は、標準責任準備金の積立を前提に、各社の経営判断により独自に保険料計算上の予定利率を設定することが可能となっている。

この場合、標準責任準備金計算上の標準利率より、保険料計算上の予定利率を高く設定すると、顧客から支払われる保険料に比べて多くの責任準備金を計上する必要が生じ、結果として生保会社の負担が増加する(特に、貯蓄性の高い商品である一時払商品や年金保険などはこの負担が大きくなる)。

こうした点から、従来の標準利率引き下げ時には、保険料計算上の予定利率も連動して引き下げられる例が多く、その際、保険料の単純な引き上げを抑制する取り組みが行われてきたが、今回も、冒頭でも紹介した通り、各生保会社はこうした取り組みを進めている。
 

4――各生保会社の対応

4――各生保会社の対応

2016年2月に日銀が市中銀行の当座預金のうち、一定金額以上について、▲0.1%の金利をつけるという、いわゆるマイナス金利政策を発表した直後、生保各社の主な運用先であった10年国債も▲0.1%前後となり、2016年7月には▲0.3%近くまで落ち込んだ。

こうした状況から、金融庁は2016年6月、前述のとおり、マイナス金利に対応する標準利率算出ルール見直しを実施したが、一部生保会社では、2016年4月頃から一時払契約など貯蓄性商品の販売停止や、予定利率の引き下げなどの対応を行っている。

2017年4月3日現在、生保商品を販売中の40社のうち、標準利率引き下げに伴う対応として予定利率の引き下げなどをプレス発表している会社は14社で、うち予定利率を開示している会社は11社となっている。

この11社すべてが、平準払契約の保険料計算上の予定利率について、標準利率である0.25%を超える利率を設定している。

さらに、予定利率の設定について、配当方式により区分(たとえば、配当を行わない無配当契約、5年ごとに配当を行う契約、毎年配当を行う契約の予定利率を区分し、配当の有無や頻度に応じて、無配当契約、5年ごとに配当を行う契約、毎年配当を行う契約の順に高く予定利率を設定するなど)する例や、商品ごとに予定利率を設定する例がある。

また、一部商品については保険料率の改定を行わず、新規契約の保険料値上げを回避するケースや、保障性商品については逆に保険料の引き下げを実施するケースもある。

なお、うち4社は、標準利率改定時期である2017年4月を全商品一律の予定利率改定時期とせず、段階的または先行的に予定利率の改定を行っている。

一方、標準利率引き下げに伴う対応として予定利率の引き下げなどについてプレス発表が行われていない会社は26社(このほか、前述のとおり、標準利率の引き下げに伴い保険料率を改定するとプレス発表しているが、予定利率を開示していない会社が3社ある)である。

この26社については、プレス発表が行われていないことから、予定利率の引き下げなどの保険料率の改定の有無やその内容は不詳となっている。

なお、標準利率の改定が適用されない外貨建保険、変額保険などを銀行窓販を中心に販売している会社がうち数社あり、こうした会社や、保障性商品を中心に販売している会社などは、保険料率の改定が行われていない可能性もある。
 

5――おわりに

5――おわりに

生保各社は、マイナス金利など異常な低金利下においても、新規契約の保険料負担をなるべく抑制するため、さまざまな対応を行っている。

従来から行われてきた、配当方式による予定利率の区分や、一部商品について保険料率の改定を回避したり、逆に保障性商品については保険料を引き下げるといった対応が一層進み、標準利率より予定利率を少しでも高めに設定し、新規契約の保険料引き上げを回避しようとする傾向が強くなっている。

一方、2018年4月には、標準死亡率の改定による死亡保険料引き下げが想定されている3

今後も、こうした各社の保険料率の改定の実施状況などについて引き続き注視していきたい。
 
3 「生保 死亡保険料下げ 長寿化受け11年ぶり 来春にも」『日本経済新聞』(2017年3月28日)。
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(2017年04月05日「保険・年金フォーカス」)

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