2017年03月24日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~17年は輸出・投資の復調で成長率は若干上昇

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.東南アジア・インド経済の概況と見通し

(図表1)実質GDP成長率 (経済概況:堅調な消費を支えに緩やかな成長が持続)
東南アジア5カ国およびインド経済は、堅調な消費を支えに緩やかな成長が続いている。

ここ数年は低調な世界貿易と資源価格の低迷を背景に輸出と設備投資の回復が遅れる一方、低インフレの継続と安定した雇用・所得環境による家計の実質所得の増加を受けて民間消費が堅調に推移したほか、インフラ整備や低所得者対策など景気に配慮した財政政策と緩和的な金融政策が経済を下支えてきた。

しかし、16年に入って資源価格が底打ちし、中国経済も底堅い推移を続けるなか、10-12月期には東南アジア・インド諸国で輸出の回復が強まり、冷え込んだ民間投資にも持ち直しの動きが出てきている。一方で民間消費は農業生産の改善による農業所得の増加を追い風に底堅さを維持しつつも、インフレ率の上昇を受けて若干鈍化している。各国の成長率の水準に大きな動きはないものの、需要構造には変化が見られる(図表1)。
(図表2)消費者物価上昇率 (物価:資源高と通貨安を背景に上昇基調が続く)
消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は依然として低水準にあるものの、エネルギー価格を中心に上昇圧力が強まっている。

エネルギー価格は14年に資源価格が急落してから物価を大きく押し下げてきたが、16年に入って原油価格が上昇に転じてガソリン価格や電気・ガス料金などが値上げされるようになり、足元では物価を押し上げるようになってる。なお、先行きの原油価格(WTI先物)については、当研究所は16年末の53ドルから17年末が57ドル、18年末が60ドルと予測しており、OPECが減産に動く一方で米シェールオイルが増産するなど需給の改善が進まず、上値は重くなると見込んでいる。従って、各国のエネルギー価格の物価上昇圧力は当面強い状況が続くものの、徐々に落ち着いていくと予想する。

また為替は今後も通貨安が進み、輸入インフレが物価上昇要因となると予想している。16年は資源価格の反転上昇によって新興国へのマネーの流入が続いたことから、アジア新興国通貨は総じて堅調に推移してきたが、昨年11月の米大統領選をきっかけに米国の保護主義的な通商政策や拡張的な財政政策などトランプ・シフトに反応してドル高・新興国通貨安が進むなど、国際金融市場は不安定化しやすい状況にある。当研究所では、米国の利上げペースは17年が2回、18年が3回となり、過去2年間の1回と比べて利上げペースは早まると予想している。これに伴いドル需要が高まり、アジア新興国通貨は緩やかに下落するだろう。

従って、17年の消費者物価上昇率は資源高と通貨安に伴う輸入インフレを主因に上昇基調が続くだろう。もっとも経済は緩やかな成長に止まるほか、原油価格の上値が重たいことから年後半には物価の上昇ペースが落ち着いたものとなると考えられる。その後は、輸出の増加傾向と資源価格の上昇を受けた企業業績の回復が徐々に賃金上昇と雇用環境へと反映されるなか、18年のインフレ率は17年に対して小幅に上昇すると予想する(図表2)。
図表3)政策金利の推移 (金融政策:緩和的から中立へ)
東南アジア5カ国およびインドの金融政策は、低インフレ環境が続いたことや米国の利上げ観測が後退したことから、15~16年にかけては金融緩和に踏み切る傾向が見られた(図表3)。直近では10月にインドネシアとインドがそれぞれ追加的な利下げに踏み切っている。しかし、1-3月期はインフレ率が下げ止まり、米国の追加利上げ観測が高まるなか、自国の金融緩和が資本流出と通貨下落を引き起すリスクを警戒して、インドネシアとインドでも政策金利は据え置かれるようになった。各国中銀の政策スタンスは緩和から中立に変化してきている。

先行きについては、上述のとおり物価の上昇傾向が続くとともに、米国の利上げペースの加速や欧州の政治情勢の混乱など新興国からの資本流出のリスクは燻り続けることから各国中央銀行は当面政策金利を据え置くだろう。もっとも国内経済は緩やかな成長に止まり、インフレ率の上昇も警戒レベルには達しないことから、緊縮的な金融政策には転じないだろう。なお、フィリピンは力強い内需を受けてコアインフレ率も上昇傾向にあることから17年後半には政策金利を小幅に引き上げる調整を行うと予想する。
(図表4)実質GDP成長率 (経済見通し:輸出・投資の復調で成長率は若干上昇)
東南アジア5カ国およびインド経済の先行きは、引き続き内需主導の緩やかな成長を予想する。10-12月期はタイは国王死去による自粛ムードの広がり、フィリピンは選挙特需の剥落、インドは高額紙幣の廃止など各国固有の要因から景気減速する国が多かったが、こうした景気の下押し要因は17年に入って和らぐなか、成長率は若干上向くだろう(図表4)。

海外経済は米国を中心とする主要先進国の緩やかな成長と資源価格の上昇による資源国経済の持ち直しにより、世界経済は緩やかに成長すると見込まれるが、足元で底堅さを見せる中国経済が減速するなか、10-12月期にアジア新興国で目立った実質輸出の回復は短期的な動きに止まるだろう。もっとも中国からの生産拠点の移転や通貨安による価格競争力の向上、外国人観光客の増加は引き続き輸出をサポートするものと見込まれ、年間を通じて輸出の増加傾向は続くと予想する。一方、輸入は国内需要が底堅く推移して現行水準の拡大基調を維持するだろう。結果、17年の純輸出の成長率寄与度は16年に比べて若干改善すると予想する。
内需は引き続き底堅い成長が見込まれる。民間消費は、今後も継続的な賃金上昇と良好な雇用環境を背景に中間所得層が増加することから底堅く推移するが、物価上昇で実質所得が目減りすることから民間消費の伸びは16年と比べて若干鈍化するだろう。また民間投資は、先行き不透明感が払拭されないことから当面低調に推移するものの、輸出の増加傾向や資源価格の上昇などを追い風に企業業績が改善するなかで持ち直していくだろう。公共部門はインフラ整備の進展や消費刺激策といった景気に配慮した財政運営を続けるものの、緩和的な金融政策が中立化されることから政策面での景気押上げ効果は期待しにくくなるだろう。
 
先行きの下方リスクについては、国内要因よりも海外要因に注意する必要があるだろう。まずは米国において保護貿易主義的な動きが強まっていることが挙げられる。トランプ大統領は即座にTPPから離脱した上、今後も国境調整税の導入や輸入関税の引上げ、為替操作国認定など保護貿易主義的な政策が進められる可能性は高い。このことは外国資本のアジア新興国への進出の動きが遅れたり、世界的な貿易取引の収縮にも繋がる。特に輸出は直接的な米国向けに止まらず、アジア域内の生産ネットワークで最終組立を行う中国を経由した間接的な米国向け輸出も落ち込むと考えられる。GDPに占める輸出と投資の割合が大きいアジア新興国にとって負の影響は大きいだろう。

また米国の利上げペースの加速や中国経済の不安定化、欧州の政治リスクの高まりなどによって国際金融市場のリスクオフの動きが強まることも、これまで以上に注意する必要があるだろう。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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