2017年03月15日

共働き・子育て世帯の消費実態(1)-少子化でも世帯数は増加、収入減で消費抑制、貯蓄増と保険離れ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2預貯金・保険の状況~高収入の共働きで多い、預貯金は増加で保険は減少、保険を貯金へとの流れも
家計収支において、実収入から消費支出と非消費支出(税や社会保険料等)を差し引いたものが黒字となる。黒字は、預貯金純増や保険純増、有価証券純購入、土地家屋借金純減等に分解できる。なお、本稿で注目している世帯の黒字額は、2000年以降、おおむね横ばいで推移している。ここでは、黒字の7~8割を占めて多い、預貯金純増や保険純増の状況について確認する。

預貯金純増3は、高収入世帯ほど多く、最も多い共働き・妻フルタイム世帯と最も少ない 専業主婦世帯では約10万円の差がある(図表16)。収入や消費とは異なり、いずれの世帯でも増加傾向にあり、増加幅は子育て世帯以外で比較的大きい(図表16・17)。なお、黒字に占める割合も上昇傾向にある。

一方、保険純増4は、高収入の共働き世帯や子育て世帯でやや多い傾向がある(保険料が多い一方、保険金は少ないため)。預貯金純増とは異なり、いずれの世帯でも減少傾向にあり、減少幅は高収入世帯や子育て世帯で比較的大きい(図表18・19)。なお、黒字に占める割合も低下傾向にある。

2000年以降、いずれの世帯でも預貯金が増え、保険に向ける金額が減っている。両者の増減額は必ずしも一致するわけではないが、子育て世帯と共働き・妻フルタイム世帯では約2千円以内の差におさまる。よって、これらの世帯を中心に、保険離れ、あるいは、比較的保険料が安い保険への移行が進んでいる可能性もある。確かに、弊社調査においても、若い世代ほど保険加入率は低下傾向にあり、終身保険など比較的保険料の高い商品の加入率が低下しているという実態がある。

以上をあわせると、子育て世代では世帯収入の減少を背景に、保険も含めて支出抑制意識が強く、黒字分は安全性を重視し、有価証券購入等には振り向けずに貯蓄に留める様子がうかがえる。この、お金はとにかく手元に置いておきたいという意識は、将来の経済不安の強さの裏返しとも言える。
図表16 預貯金純増の推移/図表17 預貯金純増の実質増減率(対2000年)の推移/図表18 保険純増の推移
図表19 保険純増の実質増減率(対2000年)の推移
 
3 預貯金から預貯金引出を差し引いたもの。
4 保険掛金(保険料)から保険取金(保険金)を差し引いたもの。保険金は貯蓄的要素のある掛け捨てでない保険の受取金。

5――おわりに

5――おわりに

本稿では、1990年代以降、増えている共働き・子育て世帯について、世帯数や家計収支の変化を確認した。少子化で子育て世帯は減っているが、共働き世帯は増えているため、共働き・子育て世帯は、じわりと増えている。また、シングルマザー世帯も子育て世帯の1割を超えて存在感を増している。

共働き世帯と専業主婦世帯の収入と消費の状況を見ると、いずれも専業主婦世帯より共働き世帯、共働き世帯では妻がパートタイムよりフルタイムの世帯の方が多い。なお、子育て世帯では、夫の収入が専業主婦世帯で多く、専業主婦・子育て世帯の夫は雇用環境が良い者が比較的多い様子も見える。

一方、2000年以降、いずれの世帯でも収入も消費も減少傾向にある。減少幅は高収入の共働き世帯で大きく、背景には景気低迷による賃金減少の影響を受ける人数の差がある。なお、消費性向はおおむね変わらず、いずれの世帯でも同様に収入の減少にあわせて消費を抑制している様子がうかがえる。

また、2000年以降、いずれの世帯でも預貯金は増え、保険は減っている。両者の増減額の状況などから、若い子育て世帯を中心に、保険も含めてとにかく支出を抑制し、お金は手元に留めたいという意識、将来の経済不安の強まりなどがうかがえる。

よって、例えば、共働き・妻フルタイム世帯では預貯金額が月15万円ほどもあり、消費余力があるようにも見えるが、これらを消費へ向けさせることは容易ではない。これまでも指摘してきた通り、若い世代ほど、景気低迷の影響を大きく受けて雇用環境が不安定であるため、将来の経済不安が強い。

しかし、今後とも「女性の活躍促進」政策は進み、消費余力のある共働き・妻フルタイム世帯は増える見込みだ。さらに「働き方改革」においては、同一労働同一賃金や賃金引上げなどの具現化も進み、雇用環境に起因する経済不安については一定の改善が期待される。

また、今回の分析は15~20年の長期的な視点に立ったが、短期的な視点、例えば、第二次安倍政権発足以降、2012年以降の状況を見ると、共働き・子育て世帯などでは世帯収入が実質増えており、変化の兆しも見える。

経済不安が薄れた時に、どんな消費余地があるのか。次回のレポートからは、共働き子育て世帯の具体的な消費内容について見ていきたい。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2017年03月15日「基礎研レポート」)

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