2017年03月14日

海外資金による国内不動産取得動向(2016年)~アベノミクス開始以前の状況に後退~

増宮 守

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5――米国資金およびアジア資金による取得

最後に、海外資金による国内不動産取得額を資金の出所別でみた。まず、最大の比率を占める米国資金は、落ち込んだ2015年に続いて2016年の取得額もやや減少したものの、全体に占める比率は持ち直した(図表-9)。一方、アジア資金による2016年の取得額は、2015年にCIC(中国)による目黒雅叙園(約1,170百万米ドル)の取得という例外的に巨大な取引があった反動もあり、大幅な減少となった(図表-10)。ただし、米国資金、アジア資金ともに、取得額が直近のピークであった2014年からほぼ半減しており、概して、海外資金による日本国内での不動産取得は、資金の出所にかかわらず減少したといえる。
図表-9 米国資金による国内不動産取得額と全体に占める比率/図表-10 アジア資金による国内不動産取得額と全体に占める比率
こうした中、アジア資金の中で中国資金の存在感が目立ってきており(図表-11)、今後、中国が牽引し、再びアジア資金による取得額が増加する可能性も考えられる。特に、近年、中国の保険会社による不動産投資の拡大が顕著となっており7、今後日本でも不動産取得を本格化する可能性が高い。実際、2016年11月には、中国安邦保険が、米ブラックストーンが有する巨大な住宅ポートフォリオ8(約2,500億円)の取得を検討中との報道もあり、今後の動向が注目される。
図表-11 中国資金による国内不動産取得額とアジア資金に占める比率
また、米国資金による取得額も、米国大統領選以降の円安推移を受け、今後、ある程度回復するとみられる。ただし、米国経済が金融市場の期待通りに拡大する場合も、本格的な米国資金の流入は期待し難い。近年のメーカー各社の生産拠点の現地化に加え、保護主義の台頭も懸念される中、対米輸出主導による日本経済の拡大は大きく期待できない。また、アジア全体をみても、減速する中国経済を筆頭に、以前のような高い経済成長が見込めなくなっている。このような中、日本を含めたアジア地域に対して米国資金の流入が加速する状況は想定しづらい。
   

6――おわりに

6――おわりに

2016年は、不動産価格の上昇期待が薄れる一方、マイナス金利環境下で代替となる運用手段も乏しい中、買い手と売り手が共に積極的な取引を控える形で不動産投資市場の活力が減退した。スポンサーからの取得が多いJ-REITや私募REITによる取得額は増加したものの、海外資金などのその他の投資主体による取得額は大幅に減少した。

しかし、2016年11月の米国大統領選以降は、一転して円安が進み、株価も強含みで推移するなど、金融市場ではリスク許容度の改善が進んだ。2017年1月にニッセイ基礎研究所が実施した不動産市況アンケート9でも、当面の不動産価格の推移は横ばいあるいは上昇とする見方が多く、下落懸念は限定的であった(図表-12)。

ただし、今後、不動産投資市場が活力を取り戻し、不動産価格の上昇が続くか否かについては慎重に見る必要がある。アベノミクス開始以降の不動産価格の上昇は金利低下が牽引してきたものであり、日銀が長期金利操作目標を「ゼロ%前後」としている現在、さらなる金利低下による不動産価格の上昇余地は限定的といえる。当面、米国新政権の政策運営も見通し難い中、不動産価格動向については方向感を掴み辛い状況が続くとみられる。引き続き、価格変動の原動力になることが多い海外資金の動向には十分に注意しておきたい。
図表-12 東京の不動産価格推移見通し
 
 

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増宮 守

研究・専門分野

(2017年03月14日「基礎研レポート」)

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