- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 雇用・人事管理 >
- 「利便性」はタダではない-適正な「サービス対価」は、労働生産性を向上させる
宅配便問題は、業界だけでなく消費者の問題でもある。何故なら、今日の宅配便は社会インフラとなっており、そのサービス内容にわれわれの日常生活は大きく依存しているからだ。業界の人出不足に対して、自動運転車の導入やドローンの活用、共同配送や駅の宅配ロッカーの設置促進、物流倉庫の機械化やAI化が進行している。一方、全てのモノの即日配送が必要かどうかや、配送時間帯指定や再配達を無償で行う料金体系の是非など、消費者側の意識や行動様式に関わる課題も多い。
日本では、有形無形に関わらず「サービス」とは無償を意味することが多い。しかし、本来の「付加価値の提供」であるサービスは適正価格であるべきで、無償を前提とするものではない。特に時間という無形の価値に対価を支払うことは、“Time is Money”と言われる現代社会においては当然のことだ。郵便でも速達料金があり、Amazonでは追加の配送料がかかる「当日お急ぎ便」がある。クリーニング店でも即日仕上げを希望すれば、割増料金が必要となるのが一般的だ。
また、マンションなど集合住宅が多くなった現在、各戸配送の負担も大きい。マンション居住者には玄関先までの配送は便利だが、集合郵便受けや宅配ボックスまでで十分な場合もある。「軒先渡し」か「宅配ボックス」かを選択できるようにし、宅配会社の時間と手間の軽減が図れる場合、利用者へのポイント還元などをしてはどうか。消費者は「利便性はタダではない」ことを認識し、宅配業界は負担と便益の関係を料金に適切に反映させた上で、サービス水準の維持・向上を図ることが必要だろう。
日本の労働生産性はアメリカの6割程度で、特にサービス業では低いとされる。その一因は、無償サービスの提供やサービスの過剰品質にあるのではないだろうか。付加価値の高いサービスに対して適正な対価を支払うことが、日本の労働生産性の向上と「働き方改革」につながる。外食産業の24時間営業の見直しも始まっている。われわれが幸せに暮らすためには、今、「利便性」とは何かを問うことが必要だ。それは、産業の、経済の、社会の持続可能性を考えることに他ならないからである。
(参考) 研究員の眼『拡がるネット通販~進化する物流システムと暮らし』(2012年12月3日)
研究員の眼『超高齢社会支える「I・C・T」~「I(インターネット)・C(コンビニ)・T(宅配)」は新時代のインフラ』(2013年12月30日)
研究員の眼『“暮らし”支える物流システム~災害時の「ドローン」活用』(2016年4月26日)
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2017年03月14日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年03月28日
“ガソリン補助金”について改めて考える~メリデメは?トリガー条項との差は? -
2024年03月28日
健康無関心層へのアプローチ -
2024年03月28日
中国経済:景気指標の総点検(2024年春季号) -
2024年03月28日
高齢者就業への期待と課題(中国) -
2024年03月28日
中国における結婚前の財産分与から見た価値観の変化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
-
2023年04月27日
News Release
【「利便性」はタダではない-適正な「サービス対価」は、労働生産性を向上させる】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「利便性」はタダではない-適正な「サービス対価」は、労働生産性を向上させるのレポート Topへ