2017年03月09日

米国経済の見通し-経済への影響が大きいトランプ政権の経済政策は依然として視界不良

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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2.実体経済の動向

(個人消費)労働市場の回復を背景に個人消費は堅調

労働市場は回復基調が持続している。非農業部門雇用者数(対前月増減)は、10年10月から史上最長となる76ヶ月連続で増加している(図表5)。さらに、17年1月は16年9月以来となる20万人超のペースに加速しており、雇用者数は順調に増加している。失業率についても1月は4.8%とFRBの中期目標に一致する水準まで低下しており、雇用面でFRBの政策目標達成が視野に入ってきた。

また、回復が捗捗しくなかった労働参加率1も15年の夏場を底に反発に転じており、労働需給がタイト化していることを示している(図表6)。このようなタイト化に伴って賃金の上昇も顕著になってきており、雇用増加が賃金上昇に繋がり易い状況となっていると判断できる。
(図表5)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表6)時間当たり賃金上昇率および労働参加率
今後についても、雇用増加が持続しそうだ。企業の採用計画をみると、大企業がおよそ1年ぶりに採用増加に転じたほか、中小企業では06年以来の水準まで採用意欲が高まっていることが分かる(図表7)。とくに、中小企業ではトランプ氏が掲げる法人税率の引き下げに対する期待が強く、同氏が当選して以降、景況感の改善が顕著となっており、雇用を増やしたい企業の裾野は広がっている。
(図表7)大企業、中小企業の採用計画/(図表8)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得
一方、消費の原資となる可処分所得2は、10-12月期の実質ベースの伸びが前期比年率+2.0(前期:+2.9%)と前期から鈍化した(図表8)。名目ベースでも+4.0%(前期:+4.4%)と鈍化がみられたものの、実質に比べて小幅に留まっており、物価上昇が影響している。1月の実質可処分所得も前月比▲0.2%と15年3月以来のマイナスに転じており、17年に入っても名目可処分所得の伸びを物価の伸びが上回る状況が続いている。しかしながら、労働需給のタイト化から名目賃金は上昇し易い状況となっているほか、トランプ大統領の個人所得減税が実現すれば、税負担の軽減を通じて実質可処分所得を押上げる効果が期待できることから、足元の実質可処分所得の動向にそれほど神経質になる必要なないだろう。
(図表9)消費者センチメントおよび米株価指数 さらに、消費マインドの改善は引き続き消費の追い風になろう。株価上昇や減税政策への期待から、カンファレンスボードが公表する消費者信頼感指数が、足元で01年7月以来の水準に上昇するなど、消費者マインドの改善が顕著だ(図表9)。

トランプ大統領が掲げる個人所得減税策については、財源問題から規模の縮小は不可避とみられるものの、減税実現は消費に追い風と考えられるため、政策面からも消費主導の景気回復は続こう。
 
 
1 生産年齢人口(16歳以上人口)に占める労働力人口(就業者数と失業者数の合計)の割合
2 個人所得から社会保障支出や税負担を除いたもの。
(設備投資)資源関連の建設投資が増加

民間設備投資は、設備機器投資が前期比年率+1.9%(前期:▲4.5%)と5期ぶりにプラスに転じたほか、知的財産も+4.5%(前期:+3.2%)と前期から伸びが加速した(図表10)。一方、建設投資は▲4.5%(前期:+12.0%)とマイナスに転じた。もっとも、建設投資を仔細にみると原油価格の下落に伴い、減少が続いていた資源関連の建設投資は+23.6%(前期:▲30.0%)と、漸く14年10-12月期以来となるプラスに転じた。当研究所では、原油価格が18年末に60ドルまで上昇すると予想しており、今後も原油価格上昇が資源関連の建設投資に追い風となるほか、トランプ氏の環境・エネルギー関連の規制緩和も資源関連の設備投資には追い風となると予想している。
(図表10)民間設備投資(寄与度)/(図表11)ISM指数および実質実効レート
また、トランプ氏の当選以降、ISMが公表する企業景況感は製造業、非製造業ともに改善している(前傾図表11)。これまで製造業では、米ドル高が進行する局面で景況感が悪化することが多かった。しかしながら、足元では米ドル実質実効レートが16年2月につけた高値を更新する中でも、景況感の改善が続いており通貨高との連動が薄れている。このため、製造業景況感の改善はトランプ氏に対する政策期待が大きいと思われる。今後、経済政策が期待外れの結果に終わる場合には、ドル高の悪影響が意識され景況感が悪化する可能性には注意が必要だ。
(住宅投資)3期ぶりにプラスに転じるも、懸念される金利上昇

住宅投資は3期ぶりにプラスに転じたほか、住宅着工の先行指標である住宅着工許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、1月も+11%と2桁の伸びを示しており1-3月期の回復持続を示唆している(図表12)。

ただし、今後金利上昇が持続する場合には住宅市場の回復に水を差す可能性があろう。選挙前に3.8%近辺であった30年固定の住宅ローン金利は、選挙以降急上昇し一時4.5%近くまで上昇した後、足元は4.3%近辺と選挙前から0.6%ほど高い水準に留まっている(図表13)。抵当銀行協会(MBA)が発表する住宅ローン申請件数は、住宅ローン金利の上昇に伴い顕著な減少がみられる。住宅ローン金利の上昇スピードは一頃に比べて鈍化しており、現状の水準であれば住宅市場の回復は持続するとみられるが、今後再び急激な住宅ローン金利の上昇がみられれば、住宅市場への影響が懸念される。
(図表12)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表13)住宅ローン金利と申請件数の動向
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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