2017年03月07日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2015年度結果-

中村 亮一

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3|資産運用効率
(1)資産構成比(運用ポートフォリオ)
民間医療保険会社の総資産は、2015年度末で246.9十億ユーロとなっている。

その資産の構成比は、貸付が28.0%、住宅担保債券等が24.1%で、その他の債券等を含めて8割以上が金利資産となっている。この資産ポートフォリオの構成比については、前年度から大きな変化は見られない。

(2)運用利回り
昨今の低金利環境を反映して、運用利回りは低下してきている。2015年度は3.70%となっており、最高予定利率の3.5%を上回ってはいるが、両者の差であるマージンは殆どなくなってきている。

なお、金利の低下を反映して、2015年度末の正味の含み損益は390億ユーロで資産の16%に相当している(2014年度末はこの比率は20%だった)。
医療保険会社の資産構成比(2015年度末)/民間医療保険運用利回りの状況
4|その他の重要指標
民間医療保険連盟の資料によれば、上記に加えて、例えば、以下の比率が重要指標として掲げられている。ここに、RfB(Rückstellung für Beitragsrückerstattung:Provision for bonuses and rebates)は、将来の保険料軽減等に使用されるための準備金である。

「リファイナンス比率(Refinancing[RfB] ratio)」は、RfBを総収入(earned gross revenues)で除して得られる比率であり、会社が将来において保険料水準の軽減を提供するための追加ファンドの余地を示している。

「リファイナンス充当比率(Refinancing[RfB] appropriation ratio)」は、RfBの特別ファンドを総収入で除して得られる比率で、リファイナンス充当金のうちのどの程度が、将来において、保険料水準の軽減や現金償還を提供するための手段のファイナンスに使用されるのかを示している。

「リファイナンス解約比率 (Refinancing[RfB] withdrawal ratios)」は、現金償還と一時金償還の2つの指標に区分され、それぞれRfBからの全体の償還のうちの現金及び一時金での償還の割合を示している。

「準備金比率(Provision ratio)」は、総収入のうちのどの程度が老齢化のための準備金(老齢化準備金、保険料払戻準備金、保険監督法第150条第4項に従う保険料への使用)に繰り入れられているのかの割合を示している。

これらの重要指標の過去からの推移は、以下の通りとなっている。 
民間医療保険のその他重要指標の推移

4―民間医療保険会社の状況-財務面-

4―民間医療保険会社の状況-財務面-

この章では、ドイツの保険監督当局のBaFinのAnnual Report 2015等に基づいて、民間医療保険会社の財務面の状況について、報告する。

1|老齢化積立金の積立状況
民間医療保険連盟全社の総負債・資本251,787百万ユーロのうち、老齢化積立金が220,083百万ユーロで87.4%を占めている。

その他では、支払備金が6,442百万ユーロ(2.6%)、保険料返還等のための準備金(RfB)が15,288百万ユーロ(6.1%)となっており、資本は6,328百万ユーロ(2.5%)となっている。 
民間医療保険会社の総負債・資本構成(2015年度末)
このうち、老齢化積立金の積立額及びその給付額に対する比率の推移は、以下の通りとなっている。

高齢化を反映する形で、毎年比率が上昇してきている。2015年度末では、8.49年分の給付金額に相当する老齢化積立金が積み立てられている状況にある。
民間医療保険の老齢化積立金の積立状況の推移
2|ソルベンシー・マージン比率
全ての民間医療保険会社は、2015年12月31日時点の将来収支予測に基づいて、ソルベンシー資本要件に準拠している。医療保険部門の目標ソルベンシー・マージン比率は、約280%であり、前年度に報告された260%より高くなることが想定されている。

これにより、医療保険部門は、良好なレベルの自己資本を持ち続けている、とされている。
3|将来収支予測
老齢化積立金を設定する必要がない短期商品のみを提供している8社を除く40の医療保険会社が、2015年9月30日の基準日時点の将来収支予測を行っている。これは、医療保険会社の低金利による中期的影響を調べることに焦点を当てて行われた。この目的のために、BaFinは、異なる不利な資本市場のシナリオの下で、2014年度と引き続く4年間において予測される収支状況に関するデータを収集した。 1つのシナリオでは、新規投資及び再投資は1.08%の金利を有する10年のファンドブリーフ債5に対してのみ行われると仮定した。 2つめのシナリオでは、個々の医療保険会社の計画に基づいて、新規投資や再投資をシミュレーションしている。

当然のことながら、低金利シナリオは、新規投資や再投資のリスクの実現により、投資リターンのさらなる減少をもたらすことを示していたが、全体的な結論としては、低金利環境の継続に、経済的な観点からは、医療保険会社は耐えられるだろう、ということだった。ただし、保険料調整スキームの中で、段階的に割引率を低下させていく必要性を示唆した。保険料調整メカニズムは現在の低金利環境が持続するとしても、医療保険会社に対して重要な便益を与えることになる。
 
5 住宅ローン債券等を裏付け資産とする担保付社債(カバードボンド:Covered Bond)で、金融機関によって発行されている。
4|ACIRPAUZ-Verfahrens)の結果
ACIRP(actuarial corporate interest rate process)は、BaFinによる、「保険会社の数理計算上の割引率水準の妥当性をチェックするための、フォワード・ルッキングな予防的な監視ツール」である。保険会社は、毎年BaFinに数理計算上の割引率を提出しなければならない。これに基づいて、保険会社は、保険料を調整する時に、既存のタリフの割引率を引き下げる必要があるかどうかを決定することになる。

このプロセスでは、次の2会計年度において達成可能なリターンを予測する。資産ポートフォリオを既契約、新規投資、再投資に区分し、リスクも考慮して、それぞれから得られる投資収益を予測する。これによって得られるACIR(actuarial corporate interest rate)が3.5%より低い場合には、それがその会社の新しい最高割引率になる6

2015 年度のACIRP(2016年度の予測)では、2つの保険会社を除く全ての保険会社が、将来の計算に使用される3.5%の割引率が、要求される高度の確実性(90%)をもって達成可能なことを示すことができなかった。それゆえ、保険会社は、保険料の調整が行われる時には、タリフの割引率を引き下げるべきだということになっている7

各社のアクチュアリーが、ACIRガイドラインの中で明示的に触れられていないリスク等も考慮に入れるかどうかも検討して、割引率を決定する。どのようなアプローチに基づいて割引率を決定しているのかについて、計算を支える技術文書に分かりやすい方法で記載されなければならない。アクチュアリーは、「高齢の保険契約者に対する民間医療保険会社の保険料を、より安定的に維持するために、十分な超過利回りが確保される必要がある。」と述べられている前提等が遵守されていることを確認する必要がある。
 
6 この方式の採用により、2004年に生命保険の責任準備金評価用の最高予定利率が2.75%に引き下げられたにも関わらず、医療保険においては、2012年まで3.5%の水準が維持された。
7 医療保険の場合、(既契約も含めた)保険料の調整が行われる際には、割引率だけでなく、保険事故発生率や事業費率等の要素も含めて勘案されて、決定されることになる。
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中村 亮一

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