2017年03月07日

マイナス金利下における国内債券運用

千田 英明

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3――一般債への投資

現在、マイナス利回りになっている債券はほとんどが国債である。一般債(国債以外の債券)も一部マイナス利回りになっているものがあるがそのマイナス幅は小さく、概ね0%を下限としてそれ以上、金利が低下しなくなっている。一般債は何故マイナス利回りにならないのか。
図表7:スプレッドの推移
一般債の金利は国債の金利よりも通常は高く、その差(以下、スプレッド)は信用リスク(元本が返済されないリスク)や流動性プレミアム(流通量が少なく、売買時に不利な価格で取引しなければならないリスク)等と考えられている。通常、スプレッドはこれら信用リスクの変化(倒産不安の変化、景況感悪化など)や、流動性の変化(発行量減少や債券買い占めなどによる流動性低下)など、何らかの要因がないと大きく変化しない。ところが、マイナス金利導入後の2016年2月~2017年2月の間、国債と一般債のスプレッドは大きく変動している(図表7)。これは、信用力の悪化や流動性の低下が起きた訳ではない。一般債は0%付近を下限として、それ以上金利が下がらないのに対し、国債はマイナス利回りになりそのマイナス水準が更に下がったり上がったりするために、スプレッドの変化が起きている。

国債は日銀が購入するから、マイナス金利でも更に金利は低下する。しかし、一般債は一部の銘柄を除いて日銀が購入することはほとんど期待できないためマイナス利回りでは購入されず、0%付近から低下することはない。つまり、マイナス金利導入以降、信用リスクや流動性プレミアムとは別の要因でスプレッドが変動することが多くなっている。この状況は国債がマイナス利回りで推移している限り、今後も継続すると考えられる。

現在、一般債の中で最もスプレッドが低い政保債の金利は、残存0~5年あたりが0%付近で推移している(図表8)。これは国債金利がマイナス0.1%よりも低いゾーンと一致している。それよりも長いゾーンは国債に0.1%程度のスプレッドが上乗せされた金利水準になっている。この残存5年以下の0%付近で推移する政保債金利は、今後国債金利が更に低下しても0%付近よりは下がりにくく、逆に国債金利が上昇(マイナス0.3%からマイナス0.2%へなど)してもマイナス0.1%以下で推移している間は上昇しにくいと考えられる。つまり、国債の金利変動の影響が少なく、比較的安定して推移するのではないだろうか。
図表8:国債、政保債のイールドカーブ(2017年2月末)
消極的な投資にはなるが、資金余剰などで国債であればマイナス金利の年限で運用しなければならない場合、又は、既にマイナス金利で運用している国債がある場合などは、政保債・地方債など一般債の中でもある程度信用力の高い債券に投資することにより、0%付近で安定した運用をすることができる可能性が高い。
 

4――現在保有している債券の運用について

4――現在保有している債券の運用について

債券(固定利付債)は、投資した時点で将来のキャッシュ・フローが確定する確定利付証券である。投資した後に金利が低下してマイナス利回りになっても、投資した時点の高い金利で運用されていると考えることができる。しかし、この考え方は償還まで保有することを前提としている。債券は償還より前に売却することも可能なので、基本的には時価評価をするべきである。仮に償還まで保有するとしても、各運用期間の利回りを時価で細かく評価していくことで、その期間の実質的な損益への寄与度が見えてくる。

マイナス利回りの債券は、過去に高い金利で投資していても、その収益は過去の金利低下局面で享受され、将来の収益に寄与する可能性は極めて低い。図表9は10年債に5年前に2%で投資し、現在はマイナス利回りになっている状況を仮定している。この債券は10年間2%で運用されるため、合計20%の収益を得られるはずである。ところが、最初の5年間で22.8%の収益が計上されている。つまり、10年間で予定していた収益は最初の5年間で既に獲得され、更に本来得られるはずがない余分な収益までマイナス金利の影響で得られていることになる。将来はこの余分に獲得した収益を返済する期間になる。このような債券をこのまま保有し続けていても、将来実質的な収益を獲得することは非常に難しい。

図表9は将来のマイナス金利が一定のケースと、マイナス金利が更に深堀されるケースも提示している。将来のマイナス金利が一定になるケースは、その後、安定してマイナス利回りが計上される。マイナス金利が更に深堀されるケースは、その後も数年間はプラスの利回りを得られるが、その後は全てマイナス利回りとなっている。つまり、マイナス金利から更に金利が低下するという極端なケースを除き、基本的にはマイナス利回りの債券は直ぐに売却すべきであると考えられる。売却した資金は、代替投資資産がなければ、一般債のゼロ%付近で推移するゾーンに一時的に避難することなども考えられる。
図表9:マイナス金利債券の所有期間利回り
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千田 英明

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