2017年03月03日

平成29年度税制改正について

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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平成29年度の税制改正は、昨年12月8日に与党税制改正大綱が了承・公表されて大枠が決定した。その後、それを受けた政府税制改正大綱も12月22日に閣議決定され、現在開催中の第193回通常国会で、予算全体の中で議論され、通常は、このまま正式決定されるはずである。

まず予算全体を眺めてみると、歳出総額が97兆4,547億円と、5年連続で過去最高を更新する水準となっている。歳出の約3割を占める社会保障費は、高齢化の進行により医療分野・年金分野とも1~2%増加して、昨年より約5,000億円増加の32.5兆円となっている。また直接の給付だけでなく、保育士の処遇改善といった人件費にあたるような財源も増やした。昨夏の概算要求の時点では、「高齢化による自然増は6,400億円」と見込まれていたので、これでもかなり圧縮された水準となっている。その他、主な分野を見ておくとミサイル防衛などを強化する防衛費は過去最高の5.1兆円、国から地方に配分する地方交付税交付金も15.6兆円と1.9%増加した予算案になっている。一方で国債費については、国債の想定金利を過去最低の1.1%にしたことにより、▲0.4%の減少となっている。

対する歳入は、税収が57.7兆円と0.2%増に留まる見通しとなる一方で、外国為替資金特別会計の運用益など税外収入が14.7%増と見込まれている。その結果、財源不足を埋めるための新規国債発行額は34.4兆円と、前年度をわずかに下回る水準に留まる見通しとされている。税収の前提となる税制改正の中身として今回最も注目されたのは、配偶者控除見直しである。「所得控除38万円の対象となる配偶者の年収要件を、103万円から150万円に引き上げる一方、世帯主の年収が1,220万円を超える世帯は対象外」となる(当初は、女性の労働参加を促す目的で「配偶者控除を廃止する」という話だったはずだが)。また酒税改革についても、ビール、発泡酒、新ジャンルの税率を10年かけて(平成38年10月に)一本化することが盛り込まれている。こうした点が注目された主な改正であった。

さて、ここでの本題である年金税制とその周辺を見てみよう。今年は特別法人税の凍結期限が終了する年度であったが、これは大方の予想通り、3年延長という、大綱記載となっている。これで年金資金を積み立てる側からみると3年間は安心であり、その後も超低金利状況が続いているならば、まさか凍結解除して課税されることはないとは思われる。しかし、時の政治情勢に左右されるかもしれないし、今後金利が充分上がってくるようなことになれば、復活するかもしれない。積立サイドのそうした不安の芽を摘んでおくためにも、来年以降も「撤廃」要望が出されることになるだろう。

また確定拠出年金分野においては、退職所得控除に係る勤続年数の算定の見直しについて、厚生労働省の要望通り、例えば60歳以降の加入期間も勤続年数に算入することが大綱に記載され、これにより退職所得控除枠が拡がることで税金メリットが拡大されることになる。

さらに、毎年の話ではあるが、与党税制改正大綱における今後の主な検討事項のトップには、下記のようにいつも年金課税の総合的な検討をすることが挙げられている。

第三 検討事項
年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意して、年金制度改革の方向性も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。

今後も積立サイドの税金メリットが拡大される方向で、様々な検討が進められるのではないかと思われる。しかし、配偶者控除の件で高収入世帯が除外されたように、全体の税収を確保するために、別の思わぬところで増税(税制優遇が無くなる)される項目も出てくるかもしれない。

年金ではないが、その周辺分野での税制改正における今回の「目玉商品」は、「積立型NISAの創設」であろう。これまでのNISAは「年間投資上限120万円、非課税期間5年、2023年までの期限付き。ジュニアNISAは20歳未満が利用可能で年80万円」というものであった。これに加えて、「年40万円、非課税期間20年、2037年まで」という「積立NISA」が、2018年から創設されることになりそうだ。現行制度に比べて投資枠は1/3だが非課税期間が4倍に、ということはざっくり言って非課税枠が1.3倍になるということだ。現行NISAについても5年後のロールオーバーする金額の制限120万円が撤廃されるなどのマイナーチェンジがなされる予定である。

当初、金融庁は現行NISA・積立NISAとも恒久措置を要望していたが、税収減が恒久化するような制度は認められなかったとのことである(「20年」でさえ、前例の無いほどの長期間らしいが、今回認められようとしているところに、力の入れ具合が伺えそうだ)。今後もこうした複数の制度が選択制となっているものを一本化するなど、少額からの積立、分散投資に適した簡素な制度へという検討がなされることになっている。

貯蓄・投資目的の仕組としては、先に創設された個人型確定拠出年金(iDeCo)もあるわけだが、ひとくちにいって、短期の貯蓄・使用が目的ならNISA、老後の年金資金の積立が目的なら個人型DCということになろうか。といっても、これは全く別の制度であり、選択しなければならないものではないので、人によっては両方利用することも可能である。

以上、平成29年度税制改正大綱のうち、主に年金や貯蓄に関係ある項目について見た。例年はほぼ大綱通り決定しているので、既に決定したような書きぶりに見えるかもしれないが、正式には今の国会で審議されている最中だと念を押しておこう。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年03月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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