2017年03月01日

札幌オフィス市場の現況と見通し(2017年)

竹内 一雅

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札幌ビジネス地区で賃貸可能面積が最も集積しているのが、駅前東西地区(全体の28.4%)で、ついで駅前通・大通公園地区(同28.0%)、創成川東・西11丁目近辺地区(同16.1%)、南1条以南地区(同14.8%)、北口地区(同12.6%)と続いている(図表-12)。

2016年の一年間に札幌ビジネス地区で賃貸可能面積は▲800坪の減少、賃貸面積は+7千4百坪の増加、空室面積は8千2百坪の減少だった。賃貸面積は駅前通・大通公園地区と駅前東西地区でともに+2千7百坪の増加になるなど、全ての地区で需要が増加した(図表-13)。
図表-12 札幌ビジネス地区の地区別賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積(2016年)/図表-13 札幌ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増加分(2016年)

4. 札幌におけるコールセンター需要

4. 札幌におけるコールセンター需要

札幌のオフィス市場を考える上で最も重要な業種がコールセンターである。すでに多くの企業が札幌にコールセンターを立地させ、日本でのコールセンターやカスタマーセンターの一大拠点となっている。札幌市の調査によると、コールセンター需要は増加を続けており、2016年はコールセンターとバックオフィスセンターを合わせて、企業数で+2社、雇用者数で+3,400人の増加だった(図表-14)。2016年は特に流通業とアウトソーサーによる雇用者数の増加がみられた。

コールセンターの札幌への立地意欲は高いが、大規模ビルの空室率が1%台に低下したほどの空室の少なさから、コールセンターの受け入れ余地が極めて限定されている。こうした、札幌市におけるオフィスビルの不足は、札幌市でのコールセンター需要の取りこぼしと、他の都市への進出増加をもたらしている可能性がある。なお、札幌では2017年から大規模ビルの新設が続くことから、再びコールセンターの新規進出や雇用者数の増加が顕在化する可能性が高い。
図表-14 札幌市内コールセンター・バックオフィス企業数・雇用者数

5. 札幌の新規供給・人口見通し

5. 札幌の新規供給・人口見通し

札幌では2017年から3年連続で大規模ビルの新規供給が予定されている。2017年は1月に札幌フコク生命越山ビルが満室で竣工しており、2018年には札幌創世スクエアの供給が、2019年には札幌大同生命ビルの建替えが予定されている(図表-15)。

住民基本台帳人口移動報告によると、2016年の札幌市の転入超過数は9,315人で、東京を除いた主要都市の中では大阪市を上回り、2年ぶりに最も転入超過数の多い都市となった8(図表-16)。

札幌市では15歳~24歳の女性の転入超過数の多さと、全年齢層で転入超過がみられることに大きな特徴がある(図表-17)。これまで20歳~24歳の男性の転入超過数が極めて少ないことが大きな課題であったが、2016年は+463人でこれまでの転入超過数と比べ(2015年2014人、2014年+49人)大幅な増加がみられた。

札幌市の人口はわずかながら増加が続いている(図表-18)。すでに2009年から自然減が始まっているが、社会増がそれを補って人口増加を達成してきた。今後は5年ごとでみると、2015年をピークに人口の減少が予測されている。
図表-15 札幌の大規模賃貸ビル新規供給計画/図表-16 主要都市の転入超過数/図表-17 札幌市男女年齢別転入超過数(2016年)/図表-18 札幌市の人口推移
 
8 ただし、札幌市では2011年以降、転入者数はほぼ横ばいで、2016年に転入超過数が増加したのは転出者数が減少したためである。一方、東京都区部、大阪市、名古屋市では、2013~2015年に転入者数の増加が転入超過数の増加につながった(転出者数も増加しているがそれを上回る転入超過数の増加があった)。福岡市でも2015年は前年と比べ転入者数が増加しており、転入者数の横ばいでの安定した推移は札幌市の特徴でもある。
 

6. 札幌のオフィス賃料見通し

6. 札幌のオフィス賃料見通し

札幌における今後のオフィス供給や人口流入、経済予測などに基づくオフィス需要の見通しから、2023年までの札幌のオフィス賃料を予測した9

札幌市では旺盛なオフィス需要から賃料は上昇すると予測されたが、すでに大幅に賃料が上昇していることと、2017年以降、三年連続で大規模ビルの供給があることから、賃料の上昇余地はさほど大きくないという結果となった(図表-19)。標準シナリオによると、オフィス賃料は2016年(下期、以下同じ)から2018年にかけて+9.0%上昇(2016年下期比)した後に下落に転じ、2023年には同▲10.2%になる。

当面の賃料のピークまでの上昇率は、楽観シナリオで+18.6%(2016年下期比)、悲観シナリオで同+2.7%、2023年の賃料水準は楽観シナリオで同+3.2%、悲観シナリオで同▲25.7%と予測された。
図表-19 札幌オフィス賃料見通し
 
9 ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2016~2026年度)」2016.10.14、斎藤太郎「2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定」2016.12.8などを基に、今後の実質GDP成長率見通しを設定した。
 

7. おわりに

7. おわりに

札幌市では築浅の大規模ビルのほぼ全てが満室という状況にあり、コールセンターなどの進出希望にこたえられない状況が続いている。こうした需給が逼迫した状況も、2017年から3年連続で大規模ビルの竣工が続くことから、多少緩和されると思われる。

本稿の予測では、新規の大規模ビルの供給等の影響で、2018年をピークに賃料はしだいに下落に転ずるという見通しとなった。今後も、コールセンターを中心に札幌市への拠点進出需要の強さから、空室率はさほど悪化せず、2023年の賃料水準も2016年下期と比べ▲10%の下落にはなるが、2016年上期の賃料よりは高い水準にとどまる。

今後、新規に供給されるビルは、立地の良さや建築コストの上昇などを反映し、ある程度高額な賃料水準になると考えられる。中期的な札幌のオフィス市場の成長のためには、コールセンターなどのさらなる高付加価値化や多様な人材確保が不可欠だろう。すでにコールセンターの一大拠点として経験者が多く存在する札幌の利点を生かした高齢者の採用や、他国言語対応などに加え、コンテンツ産業やIT系企業、バイオ産業、インバウンド関連企業などのさらなる起業・誘致・育成に期待したい。

また、札幌は都市の中でも築古ビルの比率が高い都市である。札幌におけるオフィス機能のさらなる成長や高度化・耐震性の確保、街のにぎわいづくりのためにも築古ビルの継続的な再開発の進展が望まれる。
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竹内 一雅

研究・専門分野

(2017年03月01日「不動産投資レポート」)

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