2017年02月20日

「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて

松浦 民恵

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2――日本生命におけるアンケート調査の実施概要と分析対象者の属性

1「育児休業に関するアンケート調査」の実施概要
本調査は、日本生命において、男性の育児休業取得100%推進の取組がスタートしてから3年度が経過するなかで、これまでの取組の効果や課題を明らかにし、今後の改善につなげていくことを目的として実施されたものである。設問内容は、育児休業取得時や休業期間中の状況、育児休業取得前後の家庭や職場における変化等から構成されている。

調査対象は過去3年度(2013~2015年度)の間に育児休業を取得した同社の男性従業員で、調査は、2016年7月26日から8月8日にかけて実施された。調査方法としては、同社のイントラを通じて、人事部輝き推進室から対象者に調査の協力依頼がなされ、画面入力によって回答を得る方式がとられた。

結果として、調査対象898名(複数年度の取得の場合は重複を排除し、1名としてカウント)中、737名から有効回答が得られた(有効回答率82.1%)。本稿では、この737名を分析対象とする。

2分析対象者の属性等
コースと職種については、総合職が75.3%、営業拠点である営業部を統括・管理する営業総合職が21.2%となっている。所属は「本部」が42.1%を占めるが、「営業部」(20.6%)、「本店」(17.8%)、「支社」(17.0%)も各2割程度となっている。役職は「課長補佐クラス」が54.3%と過半数を占め、この他に営業部のトップである「拠点長」が17.5%、「課長相当職」が14.0%みられるものの、他の役職は非常に少ない。

年齢については、「30代」が63.9%を占める。「20代」は20.1%、「40代」は15.2%となっているが、「50代以上」は0.8%と非常に少ない。

配偶者が「いる」割合は99.3%で、そのうち78.0%は専業主婦である。配偶者が就業しているケースに絞って、対象者の育児休業中における配偶者の働き方をたずねたところ、「配偶者も育児休業中」が57.0%を占め、「短時間勤務」(21.5%)や「フルタイム勤務」(19.6%)は2割程度にとどまっている。つまり、対象者737名中、育児休業中に配偶者がフルタイムで働いていた割合、短時間勤務で働いていた割合は各4.2%、4.6%にとどまり、大部分は配偶者が在宅している状況で、育児休業期間中を過ごしたこととなる。

子どもの人数は「1人」(52.0%)と「2人」(40.0%)とが上位2位に続いており、両者を合わせると9割を超える。

育児休業期間(土日を含めた暦ベース)については、日本生命が推奨している「7日~9日」が58.9%と最も高く、次に「7日未満」が40.4%で続いている。一方、10日以上の取得はほとんどみられない(0.6%)。
 

3――アンケート調査の分析結果のポイント

3――アンケート調査の分析結果のポイント

次に、日本生命による育児休業取得推進の取組、男性従業員による育児休業取得経験を通じた「変化」に注目して、アンケート調査の分析結果をみていきたい。

以下、育児休業取得経験によって男性従業員自身の意識がどう変わったか(育児休業取得に対する意識の変化、家族との関係に関する変化)、働き方や職場風土がどう変わったか(働き方やマネジメントの変化、取得しやすい雰囲気等の変化)に関する分析結果を紹介する。
 
1取得経験によって高まる取得希望
「会社の育児休業取得推進の取組(男性の育児休業取得100%)がなくても、育児休業の取得を希望していたか」とたずねた結果をみると、「育児休業の取得は特に希望していなかったが、会社の方針なので取得した」が69.3%を占めたものの、4人に1人は「もともと育児休業の取得を希望しており、会社の取組が取得の後押しになった」(25.1%)と回答している(図表3)。

日本生命の育児休業取得推進の取組は、休業取得を希望していなかった男性従業員に対して、強い推進力をもって取得を促しただけでなく、潜在的な取得希望があった男性従業員にとって、希望の実現に向けた後押しになったと考えられる。

さらに、「もし機会があれば、また育児休業を取得したいと思うか」とたずねた結果をみると、「取得したいと思う」が77.6%を占めている(図表4)。「そのような機会はない」と回答した15.3%を分母から除くと、育児休業の取得を経験した男性従業員の91.7%が、機会があれば育児休業を取得したいと考えていることになる。

このように、実際に育児休業を経験した後のほうが、育児休業の取得希望が大きく高まっており、育児休業の取得経験が、機会があれば「取得したい」という思いにつながる可能性が示唆されている。
図表3:当初の育児休業取得の希望/図表4:今後の育児休業取得に対する希望
2家族関係に気づきや変化の兆候
育児休業取得によって、家族との関係で変化したと思うことを複数回答でたずねたところ、「家事・育児に積極的に関わろうと思うようになった」(42.1%)、「配偶者等の愚痴や悩みを受け止めようと思うようになった」(41.7%)が上位2位に並んだ(図表5)。育児休業の取得を通じて、男性従業員が家事・育児の大変さ、配偶者等の負担の大きさを目の当たりにしたことが、家事・育児への関与、配偶者等との関係に対する意識の変化につながった可能性がある。また、ほぼ4人に1人が「子ども(達)の様子や気持ちがよくわかるようになった」(24.8%)、「子ども(達)の面倒を1人でもみられるようになった」(24.7%)と回答しており、育児能力の向上もうかがえる結果となっている。

一方、「特に変化したことはない」という回答も32.2%みられている。もともと家事・育児に積極的に参加していて「変化したことはない」というケースもあろうが、1週間程度の限られた休業期間では、家族との関係に関する変化を実感するまでに到らなかった男性従業員も少なからず存在している可能性がある。
図表5:育児休業取得によって、家族との関係で変化したと思うこと<複数回答>
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松浦 民恵

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