2017年02月16日

ペットとまちづくり~被災時の対策から考える~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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1――はじめに

平成23年3月11日の東日本大震災では、津波の発生や原子力災害によって、人々は着の身着のまま、緊急に避難することを余儀なくされた。昨年の4月14日に発生した熊本地震の際も同様である。人間社会に対する被害は甚大ですさまじいものだったが、取り残された動物に対する被害も広範に渡っている。被災エリアでは、保護活動を行いつつも、家畜や飼い主からはぐれた多数のペットが放浪状態のまま置かれる状況が発生した。
図1 放浪状態となった犬(福島県)/図2 熊本地震による迷子の犬
(資料)左:環境省自然環境局「東日本大震災における被災動物対応記録集」平成25年6月から転載。
    右:https://inumagazine.com/feature/pray-for-kumamoto/kainushi-search より転載。

 
こうした経験をまとめ、環境省は「東日本大震災における被災動物対応記録集」を平成25年6月付けで公表するとともに、自治体等が地域の状況に応じた独自のマニュアルや動物救護体制を検討する際の参考となるように「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を同日付で公表している。

東京都は、三宅島の雄山の噴火災害の経験をもとに、平成23年10月から平成25年9月まで東日本大震災東京都動物救援センターを設置し、動物救済支援活動を展開してきた経緯がある。この際の体制づくりや経験をまとめた「東日本大震災東京都動物救援本部活動報告書」は、上述の環境省の記録集とともに、現場写真も含めた多数の解説を含み、支援時の課題や今後のあり方も示した大変貴重な資料である。

さらに、東京都福祉保険局は、被災時や被災後の対応だけではなく、普段からの人と動物との調和のとれた共生社会の実現を目ざして、「東京都動物愛護管理推進計画-ハルスプラン」 (Human and Animal Live Together in Harmony: HALTH)を平成26年4月にまとめ、国の法改正にも対応した指針としている。

熊本地震の際にも、迷子のペットや救助場面、避難所での様子がメディアにより報じられた。東日本大地震の経験を活かし、2週間後の28日には従来よりも迅速に熊本県や熊本市、熊本獣医師会による「熊本地震ペット救護本部」が設置され、支援活動が開催されたが、それでも被災地ではペットの取扱いを巡る難しさがあり、引き続き多くの課題が残されたという。
図3 保護された白内障を患った子犬 食欲なし/図4 熊本市動物愛護センターへの行方不明ペットの問い合わせボード
このレターでは、何故今、ペットの被災時対策が必要なのか、国と都のガイドラインや経験をもとに、個々の自治体では公共としてどのように対応しているのか(公共としてどこまで対応できるのか、できない部分はどうすべきなのか)、災害に対しペットと生活する消費者はどのように日頃から準備しておくべきなのか、まちづくりの観点からはどのような展望があるのか等々について、筆者が住む武蔵野市の場合も含めてまとめてみた1。ペットと過ごしている方もそうではない方も含め、この機会にご参考にしていただければ幸いである。
 
 
1 本レポートの執筆にあたり、「NPO法人 市民まちづくり会議・むさしの」の仲間である山田 朗氏に助言をいただいた。深謝申し上げる。
 

2――何故今ペットの被災時対策が必要なのか

2――何故今ペットの被災時対策が必要なのか

ペットを飼っていない場合、災害時には何故ペットに対する救援活動が必要なのかと疑問を持たれる方も多いだろう。ペットを飼っている場合、災害時にはどう対処すべきかを問われても、どうすべきか迷う方も多いはずである。そこで、何故今、ペットの被災時対策が必要なのかについて整理した。
 
1| ペット数は既に子ども数を上回る規模
最初にペットの飼育状況の実態の確認が重要である。ここでは人々が飼育しているペットのうち最も多い、犬と猫について取り上げる。

犬については、狂犬病予防接種の必要性もあり、買主には市町村に対する登録義務がある。厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、平成26年度における全国の登録済み犬の頭数は662.7万頭である。

「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、平成26年1月1日時点の15歳未満人口(ほぼ中学生まで)は全国で1,649万人なので、この約40%の犬が全国で飼育されているという見方ができる2。未登録の犬も含めると(後述の調査結果を参照)、実態としては、さらに多くの犬が全国で飼われているはずである。

総務省の「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等」によると、東京都の場合は平成26年度で51.8万頭が登録されている。同じようにみると、15歳未満人口は155万人なので、全国の場合とはやや異なり、約33%に減る。東京都のような大都市部では地方に比べて人口が多いことと、ペット可能な共同住宅が増えているとは言え、犬を飼う環境は地方部に比べると厳しい点があることから、このような違いがあるものと考えられる。

東京都福祉保健局による平成26年度の「犬の登録頭数等」によると、武蔵野市の登録頭数は4,859頭である(武蔵野市の地域防災計画によると、未登録犬を含めると、実際には1万頭近く飼われていると推定されている)。15歳未満人口は15,708人なので、東京都の場合に近い31%という状況が把握できる。

猫の場合は買主による登録義務はない。調べた限りでは公共機関による公式な実態調査はないが、一般社団法人ペットフード協会が消費者に対するアンケート調査に基づき実施している平成28年「全国犬猫飼育実態調査結果」(表1)によると、猫の全国の飼育頭数は984.7万頭と推計されている。
表1 平成28年(2016年)における全国の犬と猫の推計飼育頭数
この調査によると、登録されているかどうかは別として、飼育されている犬の頭数は987.8万頭なので、犬と猫を単純に合計すると、1,975.2万頭となり、全国では東京都の人口(1,341万人強、平成27年12月)を大きく超える犬と猫がペットとして飼育されているという実態が見えてくる。

大きな災害が発生し、ペットとして飼育されている犬・猫が仮にこうした規模で行方しれずになったり、失われたりした場合の悲しみは、多くの世帯にとっては大きな痛手になるだろう。ペットを飼っていない人々にとっても、これらの犬と猫が被災後に放置され野生化して放浪を続けることは望ましいことではないはずである。
 
 
2 子どもとペットは、本来、単純に比較するものではないが、ここでは人が世話をしている犬の数がどれほど多いのかを判断するための参考として試算してみた。
2| ペットの需要は今後も続く
前述の「全国犬猫飼育実態調査結果」によると、犬の飼育頭数は2012年以降2016年まで減少傾向、猫の飼育頭数は横ばい傾向となっている。これは人口の減少傾向や2011年以降の世帯所得が伸び悩み飼育費用の負担感が上昇していることなど、さらに犬と猫の住宅内での飼育のしやすさの違いを勘案すれば頷ける傾向である。
図5 犬の飼育頭数の推移(千頭)/図6 猫の飼育頭数の推移(千頭)
しかし、平成28年における犬の飼育世帯率が14.16%であるのに対し、同調査によると、今後飼育したいという意向を持つ世帯率はまだ23.1%という水準にある。また、猫については同じく9.93%と16.9%という結果となっている。これらの数字をみる限り、環境が整えば、犬や猫を飼いたいという潜在需要は人口減少社会の中でも続くものと考えられる。
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

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