2017年01月23日

長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2|縮小してゆく 「きょうだい年齢差」

図表3から、きょうだいがたとえ2人である場合でも、平均した年の差は2歳前後であるため、弟または妹が赤ちゃんとして親に育てられている姿を姉や兄が記憶しているケースは稀有であると考えられる。
富山短期大学 幼児教育学科の石動瑞代教授2によれば、3歳児はまだ他者の視点にたって物事を見ることが出来ず、4歳以降で少しずつ他者の視点というものがわかってくる、ということであり、ゆえに思いやり(向社会行動)は乳幼児期に親など身近な存在が示す行動をモデリング(真似する)ことで徐々に身につくそうである。そうであるとするならば、赤ちゃんを慈しみ大切にする親の思いや愛されて育つ赤ちゃんの幸せなどは4歳以降徐々に感覚として理解してくることになり、2歳差のきょうだいでは赤ちゃんを慈しみ育てる親の姿やそれをうけてすくすく育つ子どもの幸福を感じることがないまま、兄や姉になっている、ということである。

さらに現在では、たとえ3子が授かったとしても、1950年には5歳あった1子と3子の差が2015年では2.8歳まで縮小しているため、やはり身近な赤ちゃんの記憶がない環境に子どもたちがおかれている。
この「きょうだいの年の差の縮小」は1子の平均出産年齢の上昇ほど、2子、3子の平均出産年齢が上昇していないことが影響している。
なぜ2子3子が1子ほど上昇しないのか。それには女性の妊孕力(にんようりょく:妊娠する力)が関係しているとみられる(図表4)。
図表4では、生物学的妊孕力の低下が35歳以降においてはっきりとみられる。それまでの年齢で、日本の女性が平均して3子までを産んでいることが図表2からはうかがえる。
つまり、晩産化により第1子の出産年齢が上昇した分、それ以降の子どもの出産年齢をはやめることで、女性は妊孕力が急低下する35歳前に希望の子ども数を達成している。生物学的な理由から、第1子と第2子以降との出産間隔が、たとえそれが母体にとって適切な出産間隔ではなくとも、結果的には狭めざるを得ない状況になってきているのである。
【図表4】 女性の年齢による妊孕力の変化
以上から、日本では長期にわたり、慈しみ育てられるか弱い赤ちゃんの存在を身近にみることがないままに、子どもたちが育っている状況が続いている、ということが言える。
 
2 石動瑞代,「乳幼児期の発達の特徴」,富山県子育て情報バンク「家庭教育講座」
3 (サイトより計算方法の説明転載) 
妊孕率は、女性1,000人あたりの出生数(17~20世紀のアメリカ、ヨーロッパ、イランなど10ヶ所のデータ:Henry, L. (1961). Some data on natural fertility. Eugenics Quarterly, 8(2), 81-91.)を元に、20~24歳を100%として計算。
年齢の増加に伴い(特に35歳以降)妊孕率の低下が認められる。
 

2――「赤ちゃんや子どもとの触れ合い体験」が未婚化を阻止するかもしれない、というデータ

2――「赤ちゃんや子どもとの触れ合い体験」が未婚化を阻止するかもしれない、というデータ

1|結婚願望・こどもをもつ願望への影響 

前章で述べたような長期にわたり子どもたちが身近に赤ちゃんが育つ様子を知らないまま育つことによって、彼らの成長後のライフコースの選択にもなんらかの影響があるのであろうか。

実はライフコース選択に影響がある、ということが国による大規模調査の結果から示唆されている。
まずは結婚の意志を持つようになるか否かと赤ちゃんとのふれあいについての関係性を見てみよう。

2015年に行われた国の大規模アンケート調査の結果では、赤ちゃんや小さい子どもとふれあう機会がよくあったとする18歳から34歳までの未婚男女の方が、なかったとする未婚男女よりも結婚願望が高く、より多くの子どもを持ちたいと希望していることが浮き彫りとなった。
【図表5】赤ちゃんとのふれあいの機会と結婚願望
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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