2017年01月23日

長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

はじめに-少子化社会のもつ少子化トラップから抜け出すために

日本の合計特殊出生率1(以下、出生率)は1975年以降、実に40年間もの間、恒常的に2.0を切る状態が続いている。つまり男女2人から産まれる子どもの数が2人をきるような状態が40年間継続している、という長期少子化社会である。

ただ単に出生率が2.0を切っているというだけではなく、日本は1993年以降、出生率が常に1.5をきるという低出生率社会に突入し、それがもう20年以上継続している。

わかりやすく言うならば、日本の出産可能年齢の女性から、ほぼ2名ではなく、ほぼ1名の子どもしか産まれない社会である(図表1)。
【図表1】日本における合計特殊出生率の推移 (縦軸:% 横軸:年)
社会とは、主にそこに住む人が作り上げている環境の産物であり、ゆえに一定の形にとどまることはなく、そこに生きる人々の生き様ともに移り変わってゆく。
当然のことながら、長期にわたる低出生率社会は、30年、40年前とは全く異なる現在の日本社会を作り上げたことは想像に難くない。

そしてこの長期にわたる低出生率社会が今、さらに少子化を進行させる「少子化ループ社会」を日本にもたらそうとしている。

「少子化ループ社会」
それは他でもない、日本に住む子どもたちの成長過程に大きな影を落としている。

本稿は、長期の少子化社会が日本の子どもたちにもたらしてきた負の心の環境と、それに対するこれからの対応策について考察したものである。
 
 
1合計特殊出生率 Total Fertility Rate(TFR):
15歳から49歳の女性のそのエリアにおける人口の年齢の偏りによる影響を排除した統計上の出生率。単純な出生数/女性の数ではないため、単年度の狭い年齢層の社会的な人口流出入による増減にTFRは左右されにくい。よく記事などにみられる「昨年は○○県で女性の流入人口が増えたため、出生率が上がった(下がった)のではないか」などという表現は統計的には正しくない。
 

1――出生率が1.5を切る「きょうだいの赤ちゃん時代を知らない」社会

1――出生率が1.5を切る「きょうだいの赤ちゃん時代を知らない」社会

1|「大人目線」ではなく、「子ども目線」で考える少子化社会の意味

出生率が低いことについて、なぜか「女性が子どもを産まなくなった」「結婚しない人が増えた」といった結婚・出産の状況ばかりがクローズアップされてきた。これは全て大人の目線である。
しかし、少子化を「子どもの目線」から見るならば、それは「きょうだいがいない」「年の離れたきょうだいがいない」社会なのである。
日本はいま「きょうだいがいなかったり、いたとしてもきょうだいの赤ちゃん時代をしらなかったりする」子どもたちの状況が長期にわたって続いている社会となって長い国である。
ここで、一人っ子ならば「きょうだいがいない」は理解が容易であるので省略し、例えきょうだいがいても「きょうだいの赤ちゃん時代をしらなかったりする」状況についてデータで示してみたい。

女性の第1子平均出産年齢が上昇し続けているというデータを知っている人は多い。しかし、第1子以降の第2子・第3子の出産年齢の動向についてはあまり取り上げられているのを見ない。そこで、日本における1950年以降の65年間にわたる母親の出産年齢の推移を第1子から第3子まで見たものが図表2である。

この65年間の推移を見てみると、第1子と第2子の平均出産年齢の差は徐々に縮小しているとはいえ、2.5歳から1.8歳へとほぼ2歳前後で推移してきている(図表3)。
この2歳前後、という数値には女性の生物学的な問題が絡んでおり、非常に納得感のある数値である。
聖路加国際病院 女性総合診療部塩田恭子医長によれば、産後、女性の子宮が完全に出産前の形に回復するにはおよそ2年かかるということである。つまり、母親本人の自覚があるかどうかはさておき、子宮が元の状態にほぼ戻ったところで、次の子を希望する女性は出産する傾向にある、と推定される。この出産間隔を無理に縮小しようというのは、生物学的には女性の身体に負担増となる。
【図表2】女性の第1子・第2子・第3子の平均出産年齢の推移 (縦軸:歳 横軸:調査年)/【図表3】 第1子と第2子、第2子と第3子、平均出産年齢差(縦軸:人 横軸:調査年)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-のレポート Topへ