2017年01月18日

ますます巨大化する米国の大手医療保険会社~国民に医療保障を届ける唯一無二の存在へ-オバマケアの帰趨に左右されない強さ-

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   松岡 博司

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(1)米国の医療保障体系
米国には、65 歳以上の高齢者と障害者を対象とするメディケア(Medicare)、低所得層を対象とするメディケイド (Medicaid)という公的医療保険があるが、65歳未満で一定以上の所得がある一般の人々向けの公的医療保険は存在しない。そのため、ほとんどの米国民にとっては民間の医療保険会社が提供する医療保険が唯一の医療保障獲得手段となっている。

メディケア、メディケイドは、公的な医療保険であるが強制加入ではない。
 
【メディケア】
メディケアは高齢者用の公的医療保険である。65歳以上の米国市民もしくは永住者が対象となる。運営主体は連邦政府である。

メディケアはパートAからパートD までの、4つのパートで構成される。

パートAは医療施設への入院費用を保障する。本人または配偶者がメディケア税を納め終わると、65歳で自動的にパートAに加入できる。この場合、保険料は無料である。ただし税の支払い期間が少ないなど要件未達の場合には、月々の保険費を支払う必要がある。

パートBは診療費を保障する。加入者は収入に応じた保険料を支払う。パートA加入者の大多数がパートBにも加入する。

パートAとパートBに加入することにより総医療費の70%~80%が保障される。ちなみに残る自己負担分を保障する民間保険商品は、メディギャップまたはサプリメンタルと呼ばれる。

パートCは、認可を受けた民間医療保険会社がメディケアの保障を代替するプランである。メディケアアドバンテージという商品名で呼ばれる。メディケアアドバンテージに加入すれば、保険会社が契約を結ぶ医療ネットワーク内でパートAとパートB相当の保障を受けることができる。またパートD相当の処方箋薬の保障も含むものが多い。

パートDは処方箋薬を保障する。これも民間の医療保険会社の商品に加入する形をとる。保険料は平均月20~50 ドル程度であるとされている。
 
【メディケイド】
メディケイドは低所得者対象の公的医療保険である。一定収入以下の米国市民、永住者を対象とする。保険料の支払いは必要なく、全額公費で賄われる。運営主体は州政府であるが、その財政は州の予算だけでは足りず連邦からの補助が前提となっている。連邦政府は州に補助を与える上で満たさなければならないガイドラインを設けており、州がこれを遵守することによって、メディケイドのレベルが全米で担保される。ただし実態的には州ごとの制度の格差は大きいとされる。

受給資格者の要件等も州ごとに異なるが、加入資格を得るには世帯収入や保有資産等の厳しい条件を満たさなければならない。
 
 (2)各医療保険への米国民の加入状況 
グラフ2の下段にある通り、2015年の民間医療保険への加入率は67.2%である。民間医療保険の内訳を見ると(重複加入はあるが)、勤務先で提供される団体医療保険(グラフ中の雇用主提供団体保険)に加入している人が55.7%、個人で購入した医療保険に加入している人が16.3%いる。民間医療保険会社は医療機関と契約を結んでネットワークを形成しており、それぞれの保険商品ごとにネットワーク内で利用できる病院、医師、薬局などが定められている。

米国には、努力したものが報われる一方で努力なきものは救済されないとする「自由と自助の精神」を尊ぶ風潮がある。医療保障も例外ではなく、連邦、州の介入は出来る限り排除されてきた。しかし現実問題として医療保障は必要である。そこで妥協的に、政府と個人の中間にある勤務先企業が保険会社と団体医療保険を締結して従業員およびその家族に医療保障を提供するようになり、米国の人々の医療保障獲得方法として中心的な役割を担うようになった。

メディケイド、メディケアの対象要件を満たさない人のうち、従業員に医療保障を提供する体力のない中小企業の従業員・家族や自営業者、65歳未満の早期退職者、無職者等は自力で個人契約の民間医療保険を手当てしなければならないことになるが、勤務先からの補助のない個人契約の医療保険に加入するには相応の資力が必要である。

その結果、メディケアに加入するほどには困窮していないが、所得が少ない人々は無保険者として医療保障の体系からはじき出されることとなり、これが米国における深刻な社会問題となった。

無保険者問題を解決するため実施されたオバマケアでオンライン医療保険加入サイトであるエクスチェンジが開設され(後述)、従来の無保険者がエクスチェンジで販売されている個人医療保険に加入するようになって、個人医療保険の加入率が高まって来ている。

高齢化の進展によるメディケアの加入率上昇、経済情勢の悪化とオバマケアによる加入要件の緩和(後述)によるメディケイドの加入率上昇を受けて、公的医療保険への加入率は2000年代を通じて上昇し、2015年には37.1%にまで上昇している。

それらを受けて、オバマケアの目的の1つであった無保険者率の縮小は一定の成果を挙げ、2015年末の無保険者率は9.1%にまで下がっている。

既に見たようにメディケアには民間保険のプランを利用する制度もある。また、州政府がメディケイドの運営を民間医療保険会社に委託することも多い。このような形で、米国においては民間医療保険会社がさまざまな場面で国民の医療保障を支えるようになっており、近年、その役割はますます大きなものになってきている。
 

2――オバマケアの制度概要

2――オバマケアの制度概要

1|オバマケアの根拠法発足 
2010年3月、Patient Protection and Affordable Care Act(患者保護並びに医療費負担適正化法、PPACA)、通称Affordable Care Act(ACA)が成立し、オバマケアが発足した。

オバマケアは、「増加する無保険者」と「高騰する医療費」に歯止めをかけることを主な目的とする。

ACAに則り、2014年よりオバマケアの中核部分が本格実施された。
 
2|オバマケアの制度概要 主に民間医療保険会社との関係を中心に 4
(1)メディケイドの加入対象者を拡大
連邦貧困ガイドライン所得の100%までとされていた対象者の所得範囲を133%未満にまで引き上げ、メディケイドの対象者を大幅に拡大した。これにより低所得層の無保険者に保障を提供することが所期された。

ただしメディケイドの加入対象者の拡大については、共和党系知事の26州で訴訟が提起され、「州の自治権を侵害する」との判決が出されたため、実施するかどうか等は州の選択によることとなった。その結果、メディケイドの対象者が拡大された州と拡大されなかった州に分かれた。

(2)個人に医療保険への加入を義務付け
何らかの医療保険に加入することを個人に義務付けた。

義務に反して医療保険に加入しない場合には所得税の申告時に罰金(2016年は1人695ドルまたは年収の2.5%のいずれか高い方)を科す一方で、所定の条件の下、医療保険に加入した場合には助成金が支給されることになった(⑤医療保険取引所(エクスチェンジ)の設置の項を参照)。
 
4 山下由夏「米国医療保険制度改革と医療保険業界へのインパクト」生命保険経営第78巻第5号(2010年)
http://www.seihokeiei.jp/pdf/SK/SK7805/SK7805-02-H22.pdf
馬場邦年「米国医療保険改革の主な内容と課題」生命保険経営第82巻第5号(2014年)
http://www.seihokeiei.jp/pdf/SK/SK8205/SK8205-03-H26.pdf
田中健司「米国におけるヘルスケア改革をめぐる健康保険業界の動き」損保ジャパン総研クォータリーVol.58(2011年3月31日)http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt58-2.pdf
小林篤「米国における 2010 年ヘルスケア改革後の健康保険の新動向~ヘルスケア改革法は何を変えたか、健康保険市場はどう変化するか~」損保ジャパン総研レポートVol.59(2011年9月30日)http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt59-2.pdf
小林篤「社会保険志向の米国ヘルスケア改革と保険加入インターネットサイト“Exchange”導入の意義―保険加入システム・雇用主提供システムの変革とイノベーションへの期待―」損保ジャパン日本興亜総研レポートVol.65(2014年9月30日)http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt65-1.pdf
小林篤「米国ヘルスケア改革におけるイノベーションと健康保険者-ヘルスケア提供システムのイノベーションとしてのACOモデルへの期待-」損保ジャパン日本興亜総研レポートVol.66(2015年3月31日)
http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt66-2.pdf
小林篤「米国ヘルスケア改革の進展と健康保険者の役割―問題解決の取組、イノベーションおよび新しい事業モデルの構築―」損保ジャパン日本興亜総研レポートVol.68(2016年3月31日)http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt68-1.pdf
小林篤「米国ヘルスケア改革本格実施後の新しいヘルスケアサービス提供システムと健康保険者 ―健康保険者の事業モデル改革とヘルスケアサービス提供組織のマネジメント―」損保ジャパン日本興亜総研レポートVol.69(2016年9月30日)
http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt69-1.pdf
上野まな美「米国の歴史的医療保険制度改革、オバマケア 成果が出始めているものの、撤廃を求める声は消えていない」
大和総研リサーチ(2015年5月14日)http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/usa/20150514_009714.pdf
石橋 未来「財政依存度が高まる米国医療保険制度 高齢化や高額の処方薬が影響する大統領選後のオバマケア」
大和総研リサーチ(2016年11月1日)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

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