2017年01月17日

「保険」との適切な距離感とは-「生活保障調査」からみる若年加入者の加入状況の変化

生活研究部 井上 智紀

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■要旨

他の業界同様、保険においても若年層の「○○離れ」が喧伝されてきた。一方で、各種調査にみられるように結婚や出産といったライフイベントを経験した層では、従来と同様に保障準備に向けて行動している。家族形成にまつわるライフイベントは依然として生命保険加入の契機となっているものと思われる。では、生命保険の加入者は、従前と同様、十分な保障額の生命保険に加入しているのだろうか。本稿では、生命保険の加入金額に焦点をあて、家族形成期にある20~40代の加入状況の変化について概観した。

その結果、死亡保険金額についてみると、男女とも年代によらず2007年をピークとして減少傾向にあり、共働き世帯、特に常雇同士の世帯においては、夫婦ともに保障の圧縮を進め、死亡保障から離れつつある様がみてとれた。一方、入院給付金日額については、男性が横ばいもしくは僅かながら減少する傾向がみられるのに対し、女性ではむしろ増加していた。このように、男性では伝統的な専業主婦世帯を中心とする子どもがいる片働き世帯を除いて死亡保険金額の大幅な減少傾向が続くなか、女性では、死亡保険金額を圧縮しつつ未婚女性を中心に医療保障を充実させる動きがみられた。

このような加入状況の変化に対し、年間支払保険料についてみると、一部の層を除けば、2016年時点の年間支払保険料は5時点間でもほぼ最低水準にあり、特に男性の既婚(子あり)の常雇・非正規、女性の既婚(子なし)では、それぞれ最高額であった2004年に比べ10万円近く減少していた。

子どもがいる片働き世帯を除き、死亡保障を圧縮する動きは鮮明である。男女とも子どもがいる共働き世帯の死亡保険金額が減少していたことは、世帯における死亡保障の意味合いや重要度が低下しつつあることを示している。一方で、未婚女性を中心に医療保障を充実させる動きがみられたことは、「保険」そのものから離れているわけではなく、家族のあり方や、「保障」そのものの意味合い、優先順位が変化しつつある可能性を示している。

このように、消費者は「保険」から距離を取りつつあるものの、多くの消費者が保険について十分な知識を持ち合わせていない中では、適切な距離感を見失い、必要以上に距離を取っている場合もあろう。多様なライフスタイルに応じた「保険」との適切な距離とはどのようなものか、売り手、買い手双方ともに、改めて考える必要があろう。

■目次

1――はじめに
2――生命保険加入者の加入保険金額
  1|死亡保険金額
  2|入院給付金日額
3――生命保険加入者の年間支払保険料
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