2017年01月12日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの報告書の概要報告-

中村 亮一

文字サイズ

1―はじめに

前回までの2回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2016年12月16日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2016(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2016)」1及び2016年12月15日に公表した「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書(2016 EIOPA Insurance Stress Test Report)」2に基づいて、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置について、全体及び措置毎・国別の保険会社の適用状況やその財政状態への影響等の分析結果について報告した。

今回のレポートは、これまでの2回のレポートを踏まえて、主要国を中心とした全体及び措置毎の適用状況やその財政状態への影響をまとめるとともに、併せて、会社別の状況について報告する3。 
 
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2016-12-16%20LTG%20Report_final.pdf
2 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2016-12-15%20Insurance%20Stress%20Test%20ResultsFinalFinal.pdf
3 以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2016」及び「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」からの抜粋及び必要に応じて筆者が付け加えた分析数値である。
 

2―措置全体の国別のSCR比率等への影響

2―措置全体の国別のSCR比率等への影響

1|SCR比率への影響 
国別のSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響については、1回目のレポート「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-」の6-4 を再掲する。

MA(マッチング調整)、VA(ボラティリティ調整)、TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)、TTP(技術的準備金に関する移行措置)のうちの少なくとも1つの措置を使用している会社ベースで、措置の非適用によるSCR比率への影響は、以下の図表の通りとなる。

EEA(欧州経済地域)全体では、SCR比率は、適用前の193%から121%に72%ポイント低下する(因みに、ストレステストのサンプルベースでは、196%から136%に60%ポイント低下する)。

これを国別に見てみると、低下する「%ポイント」が最も大きいのはドイツで、286%から134%に153%ポイント低下する。次が英国とデンマークで、英国は142%から52%に91%ポイント低下し、デンマークは283%から192%に91%ポイント低下する。

一方で、フランスは196%から152%に43%ポイント低下、イタリアは243%から224%へとわずか19%ポイントの低下に留まっている。

影響度を割合で見てみると、英国が142%から52%へと、適用時の37%の水準に低下して、最も大きな影響を受けている。続いて、ギリシャで141%から71%に50%の水準に低下する。

なお、英国とギリシャとポルトガルのSCR比率は、各種措置の非適用ベースでは、100%を下回っている。特に、英国の各種措置の非適用ベースのSCR比率は51%と加盟国中の最低水準となる。
図表 MA、VA、TRFR、TPPの少なくとも1つの措置を使用している会社のSCR比率に対する平均的影響
2|SCR及び適格自己資本への影響
SCR及び適格自己資本(Eligible Own Funds:EOF)への影響については、少なくとも1つの措置を使用している会社ベースで、国別に以下の図表の通りとなっている。

各種措置を非適用とした場合、EEA全体では、SCRは22%増加し、適格自己資本は24%減少する。国別に見た場合、ドイツや英国が、SCRも適格自己資本も大きな影響を受けている。
図表 MA、VA、TRFR、TPPの少なくとも1つの措置を使用している会社のSCR及び適格自己資本(EOF)に対する平均的影響
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの報告書の概要報告-のレポート Topへ