2017年01月12日

魅力ある世界都市とは~魅力ある世界都市へのプロセスと課題 3/4

【ポスト2020、魅力ある世界都市へ 訪日客数4000万人時代への挑戦】

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5.魅力ある世界都市とは

■加藤
ありがとうございました。オリンピックと文化プログラムを切り口に文化のさまざまな役割についてお話しいただきました。
 
それではディスカッションに入ってまいりたいと思います。最初のトピックは、魅力ある世界都市は何だろうということです。
 
青山先生、プレゼンテーションをいろいろお聞きして感じたこととともに、現地調査をいろいろされている中で、こういう都市はここが良いといったことをご説明いただけますでしょうか。
 
■青山
問題を単純化するために、世界都市を限定すると、東京が互いに比較するときにはロンドンやニューヨークと比較するわけです。
 
それは単純化した場合で、魅力ある都市というのは世界にたくさんあるので、それぞれに魅力があるといってもいいのですが、基本的に成熟社会にある国家の巨大都市というと、東京とロンドンとニューヨークの3都市になると思います。
 
ちなみに、先ほど紹介した2004年のロンドンプランでは、成功した世界都市はその3都市であると言っています。それからニューヨークも、統計的に比較する場合にその三つの巨大都市で比較するわけです。
 
といっても、そこに異論がある人も多いと思います。実際に東京都がパリの元都市計画局長をお呼びしてシンポジウムをやったときには、私の方でやや挑発して、「ロンドンはこの三つが世界都市だと言っているけれど、私はパリも世界都市だと思う」と言ったら、「いや、それはイギリスの人が言うことなので、私は気にしない」と軽くいなされてしまったのです。
 
それから次にロンドンの都市計画局長が来たときに、東京都の主催するシンポジウムで、「パリにそう挑発したら、パリの人はそんなふうに言っていた」と言うと、「パリはロンドンに近過ぎるので、世界都市としては要らないのだ」と言っていました。
 
その程度のものだと思うのですが、仮に東京とニューヨークとロンドンを比較した場合にどうかというと、まずニューヨークやロンドンと比較した東京という意味での魅力を考えると、一つは東京の場合は工業を持っています。
 
これは先ほど来のお話にも出てきている伝統工芸や手工芸なども含めて、そういうものを持っています。これはやはり東京の特色の一つになっていると思います。
 
それから、公共交通の利便性や、ニューヨークやロンドンに比べると交通渋滞が絶望的ではないところが良いと思います。それから何といっても治安がいいことと、それと関連して広大なスラム地域を持っていないことも、東京の強みなのかなと思います。
 
それから住宅の価格やホテルの価格は、足りる足りないは別として、広い狭いは別として、少なくともロンドンやニューヨークほどは高くないというのはあると思います。
 
それから、地域の商店街にそれぞれ特色があることも魅力の一つかと思います。同じようにコンビニがたくさんあったり、個人レストランや個人食堂のようなものが個人商店と並んでたくさんあり、それが多様であるという魅力はあると思います。
 
一方、ニューヨークやロンドンに比べて、間違いなく世界都市としてもっと頑張らなければいけないと思うこともたくさんあります。
 
まず、金融の力から言うとやはり少し弱いと思います。それから経済活動や金融に対する、あるいは為替取引に関する規制緩和がどれだけあるかというと、これも日本はやや厳しいかと思います。
  
それから、お話にありましたように、移民による活力がどれだけあるのかという点でも少し弱いと思います。
 
それは決して移民をもっとどんどん進めていこうという意味ではなくて、議論が難しいのは分かっていますけれども、結果としてそれによる活力はやや乏しいかと思います。
 
あとは建築物による都市景観という意味で、つまりデザイン性の優れたビルがどれだけあるかという点でも少し劣るかと思います。
 
さらに言うと、吉本さんの話にあったことに主として関係するのですが、プロスポーツやプロの文化、具体的に言うとコンサートやミュージカル、エンタメ、街角アート、ジャズ、演劇といった文化・芸術を楽しむ心意気はあって、アマチュアのものは楽しんでいるのですが、特にプロのものについてヨーロッパ人やアメリカ人がどれだけ東京にあるものを見に来るかというと、私たちがニューヨークやロンドンにそのために行くのに比べるとやや少ないと思います。
 
そういった意味で言うと、魅力ある世界都市という加藤さんの問い掛けに対する答えとして、文化と文明と物事を分けるとやはり、文明という点ではかなり東京はいいのだけれども、文化という面で言えばもう少し頑張ると、もっと魅力が増す面があるのではないかと思います。
 
コールさんのお話の中に進化論がありましたけれど、そういう意味では文化と文明の違いということで、どちらをどう頑張るのかという点は意識して議論した方がいいのではないかと思います。
 
■加藤
ありがとうございます。なかなか辛口のご批判も頂いたかと思います。
 
次に吉本さん、文化についてはまだ足りない面が多いのではないかというご指摘でしたけれども、吉本さんの目から見ると文化が際立っている都市はあるのでしょうか。
 
そして青山先生からは今、プロのパフォーマンスを見るという意味での観劇が少ないのではないかというご意見もありましたが、東京に足りないものは何でしょうか。
 
■吉本
今の青山先生のお話の流れでいきますと、東京ほど世界トップレベルのオーケストラが連日やって来て、世界中の名画や印象派などを鑑賞できる展覧会が開催されている都市は、恐らく他にないのではないかと思うのです。
 
でも、それは海外の人を引き付ける魅力にはなっていません。なぜかというと、海外から招聘したものだからです。
 
ですから、都民が文化や芸術を楽しむ環境は、東京は国際的にも抜群だと思いますが、では何が足りないかというと、東京発の東京でしか見られない芸術が生み出されていないことが大きな原因だと私は思うのです。
 
先ほどロンドンの例を紹介しましたけれども、ロンドンはオリンピックが終わった翌年、世界で一番訪問者の多い都市になったと伺いました。ロンドン市の副市長の話では、その10人のうち8人は文化を目的にロンドンにやって来るそうです。
 
それほど文化が目的になるということなのですが、同時にロンドンで今何が問題になっているかというと、地価がものすごく高騰してしまって、アーティストのスタジオや住居が非常に厳しい状況になっています。
 
ですので、ロンドンの文化政策では今、アーティストの創造環境をどう整えるのかというのが非常に大きな課題だそうです。
 
それは東京も同じで、東京で新しい作品が生み出され、そういう活動が活発に行われるためには、そうした芸術を創造する環境や都市のインフラといったものをこれから整えていくことが必要です。
 
その大きなチャンスになるのが2020年の文化プログラムではないかと私は思っています。
 
■加藤
ありがとうございます。それではコールさん、欧米や他のアジアにはない日本の魅力、それから先ほど青山先生から日本は金融センターとしてはまだまだだというお言葉も頂いたので、それについても伺えますでしょうか。
 
■コール
金融センターのことは多分何回も、政府の審議会か何かで大体20年前からいろいろ議論されているのですが、これは変な話ですけれど、金融界の人によると、あまり意味がないというのです。
 
どういうことかというと、今の金融相場は技術革命で非常に早く変わっているわけです。だから、証券取引所がまだ20年後にあるのかということになるのですが、全部をコンピューターがやってくれるわけです。
 
だから、金融センターよりも、先生が言ったようにイノベーションセンターです。金融だけではなく、技術やサービス産業あるいはビジネスモデルとしては、イノベーションやアントレプレナー(起業)が重要です。
 
私の目から見ると、金融センターよりも、アントレプレナーセンターやイノベーションセンターという形でやった方がいいと思います。
 
■加藤
それが日本に合った道だということですか。
 
■コール
そう思います。だから、よく言われるのは、税制改革などはいろいろハードルが高くてできていませんが、これはあまり意味がなくて、根本的に何を目指すかということなのです。
 
そして、日本はアングロ系アメリカやイギリスのような金融相場や金融システムを多分、目指すことができません。
 
だから、これをまずやめていただいて、若い世代に向けてどうやって新しいビジネスモデルをつくり、どうやって新しい開発をし、どうやってテクノロジーと文化を結び付けるかがこれからの大きな課題になるのです。
 
だから、そういう面から見ていて、金融の狭い話、建設の狭い話、ロボットの狭い話はやめていただいて、本当にアントレプレナーシップやイノベーションについて考えていただきたいのです。
 
■加藤
ありがとうございます。本当に用意していた質問は、東京の魅力あるスポットということなのですが、そちらも伺っていいですか。
 
■コール
Everywhere(どこでも)。
 
でも、今は文化と文明の話で、これは非常に難しい哲学的なことがいろいろあるのですが、西洋人の目から見て、なぜ東京に来るのか、何が珍しいかというと、歌舞伎を見たいというよりも、渋谷の赤ちょうちんやジャズクラブに行きたいわけです。
 
一方、ロンドンはどこが素晴らしいか、どこに人がたくさん集まっているかというと、昔の文化をきちんと口伝で説明してくれるところには誰も行かないわけです。
 
東京では、歌舞伎や能、生け花、茶道などは日本人の庶民もほとんど分からないことです。でも、逆ににぎやかな新しい文化についてはもっと評価していただきたいのです。
 
■加藤
ありがとうございます。
 
それでは牧野さん、少し話題が変わりますけれど、最近の著書では高齢化する首都圏・東京についての問題を指摘されているのですが、魅力ある都市ということで、高齢化に対してどう対応していけばいいかということも含めて、都市について伺えればと思います。
 
■牧野
今、議論になっているところで一つ大きなポイントがあるような気がしています。つまり、東京という都市がロンドンになろうとか、ニューヨークになろうとかという議論は、あまり生産的ではないと思っています。
 
なぜならば私も若いときにはニューヨークが好きでした。何度行ってもエキサイティングで素晴らしい街だと思っていました。少し年を取ってきたら、ニューヨークのあの緊張感がどこかだんだん疲れてきて、時たまロンドンに行くとロンドンの何とも言えない伝統と歴史に裏打ちされた街並みが好きになりました。
 
そういった意味では、東京というものを私たちが考えたときに、私も東京がアジアの金融センターになれるかという質問に対しては、かなり疑問を感じていますし、コールさんがおっしゃったように、無理に金融センターになる必要はないのではないか。
 
つまり、ニューヨークやロンドンのような東京に対しては、世界から見たら何の魅力もありません。
 
地方創生の仕事を今やっていて非常に感じるのは、地方の発展が何だかUNIQLOが来るとか、スターバックスが最後に来たのが鳥取県らしいですが、こういったところで地元の人が喜ぶかどうかという尺度でやっている限り、地方創生はなかなかうまくいきません。
 
鳥取県に行けば鳥取県だからこそ見られるもの、体験できるもの、味わえるものを作り出せることが地方創生の一つのキーワードだと私は思っています。
 
この東京がこれから高齢化してくるのは間違いない事実ですが、東京から見ればお手本はたくさんあるのです。日本の地方都市は東京よりもはるか先に高齢化してしまっています。
 
この高齢化という事実から逃げることができないのであれば、逆に高齢化をキーワードに、例えば地方の人のみならず外国から来た人が「東京では年寄りが何と元気なのか」と思うような都市づくりも一方であるような気がします。
 
これは社会のインフラづくりもそうでしょうし、働き方、生活の仕方、文化といったところのソフトウエアの中に高齢者文化をどう育てていくのか、世界的に実験をした都市をいまだかつて聞いたことがありません。
 
高齢化社会というとどうしても、高齢者の施設や介護施設、福祉施設という現実的な問題に目が行きがちなのですが、私がお手伝いをしている高齢者施設のお年寄りはとても元気ですし、100歳でも大学の教壇に立てるような方がいらっしゃる施設をたくさん見てきました。
 
そうであれば、こうした事実をきちんと受け止めた上で、元気な高齢者がもっと都会に出てきて、若い世代の方々と交流するような東京になってくれると、世界中の人々が東京にやってきて瞠目するような都市になると思っています。
 
■加藤
ありがとうございます。
 
高齢者も含めて多様な人々が元気に生活していることが魅力の一つかと思います。先ほどの吉本さんの話に戻るのですが、アーティストが東京で場所を持とうと思うと非常に高いというのは、ロンドンなども一緒だというお話がありました。
 
青山先生のプレゼンの中では、ロンドンでもニューヨークでも、低所得者用や移民用のアフォーダブルな家が供給されているというお話がありましたが、青山先生、こういうアーティストも含めて多様な人を導き入れるために、もう少し住宅の供給方法を考えたらいいのではないかという意見はございますか。
 
■青山
大いにあると思います。
 
東京には62の区市町村があるのですが、この10年ぐらいの間でも幾つかの自治体はそういったアーティスト村みたいな試みをしていて、いずれも今のところはうまくいっていないのですが、それは方法としてあるのだと思います。
 
いずれにしろ、東京では世帯数に比べて住宅数が13%ぐらい上回っていますので、そういった空き家活用を含めてやっていくことはありだと思います。
 
そういうものは行政が音頭を取ってできるのか、それとも自然発生的に人が集まるのかという問題もあるのですが、いずれにしろ視野には入れておいた方がいいと思います。
 

第4回:ポスト2020の課題と対応策~魅力ある世界都市へのプロセスと課題 4/4
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(2017年01月12日「その他レポート」)

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