2017年01月05日

日本のインバウンド~魅力ある世界都市へのプロセスと課題 1/4

【ポスト2020、魅力ある世界都市へ 訪日客数4000万人時代への挑戦】

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2-1.量から質へ

今、申し上げましたとおり、外国の方が日本で大量に爆買いするようなことで、メディア等で盛んに話題になったのは昨年です。今年の大手百貨店等の発表によりますと、この爆買いが若干下火になったというお話も聞かれますが、一方で多くの外国人が東京や大阪あるいは京都のみならず、地方に直接周遊に出るようになってきております。
 
最近、旅行会社の方とお話しする機会があったのですけれども、中国から日本に来られるお客さまの人気のツアーを聞きました。

今までは東京の銀座あるいは新宿、秋葉原などに行って、大量にブランド品や化粧品といったものを買い付けていた方々が、徐々にリピーターが増えてきて、日本のおいしいもの、あるいは良い土産品を求めて地方を周遊するようになってきたそうです。
 
最近の中国人旅行客の人気ツアーナンバーワンは田植えだそうです。

中国にも田んぼがたくさんあるではないかと私も思うのですが、日本で田んぼに行って田植えをしたいという体験型ツアーが人気なのは、私は仕事で上海などへよく行くのですが、上海は東京に引けも取らぬ大都会だからです。
 
ここで育った若い方や子どもたちは、日本の農村に来て田植えを体験するのが誠に楽しいということで喜々として田んぼに入っています。このように、以前では考えられなかったような観光の仕方が出てきております。
 
それから、アジアの地区は、皆さま方もあまり想像がつきにくいと思うのですが、富裕層の方が大変増えてきております。

こういった富裕層の方々が日本に2度目、3度目の観光をするとなると、しばらく滞在して日本を楽しもうという動きも出てきます。
 
今はどうしても、アジアから来られるお客さまは1~2泊で帰ってしまわれる方が多いのですが、今言ったように、地方に行って田植えをしたり、あるいは日本の秘境に行ってみたいということになれば、宿泊日数もプラス1泊、2泊という感じで、最終的に消費額の増加につながったり、消費内容がより高度化したりする効果が期待できるわけです。
 
このように、ここ数年で急速にインバウンドが増えてきた日本ですが、世界的に見て日本のインバウンドの数がどのぐらいの位置にあるか、2014年のデータで世界順位を見ると、日本はまだまだインバウンドの後進国であります。
 
写真22
2014年現在、外国人訪問者数は世界22番目です。

ちなみにトップはフランスの8300万人超であります。アジアでは中国の5500万人、あるいは香港、マレーシア、タイといったところが日本よりも多くの観光客を集めています。
 
先ほどご案内しましたとおり、日本のインバウンドはアジアからが多く、欧米からは少ないというふうによく言われます。

これは地政学的にアメリカやヨーロッパから日本に来づらいからではないかと言う方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。
 
実はタイなどを調べますと、欧米からたくさんいらっしゃっています。隣にいらっしゃるコールさんがまだまだ普通でない人と思っていると、日本は駄目です。

もっと欧米にとって魅力的な国になるためには、日本の観光資源であるとかインフラというものを、今後もっともっと整えてあげることが必要なのではないかと感じています。
 
今日の基調講演で青山先生からもご指摘いただいたとおり、羽田空港は滑走路が4本なのに鉄道が2本しかないというのは、目からうろこだったのですが、もっと外国人が旅行しやすい整備の仕方もあるのではないでしょうか。
 

2-2.インバウンドの受け皿

インバウンドは2020年の東京五輪までではないかとおっしゃる方もいらっしゃいます。これも少し意見が違うのではないかと思っております。

なぜなら、今は2000万人の外国人が東京にいらっしゃっていますが、まだオリンピックは開かれておりません。
 
さらに、これはJETROのデータなのですが、2020年に向けて中間所得層と呼ばれる教育やサービス、旅行にいそしむ方の人口が、中国では現在の3億人から6億人、ASEANでは1億人から1億8000万人に延びるだろうと予想されています。
 
日本はだんだん高齢化してしまって、高齢化するとなかなか旅行してくれないという一方、少し目を移すと私たちの国の外側では、日本に旅行できる方がたくさん増えてきているわけです。
 
そういった意味では、わが国では今後、MICEといわれるような会議場の施設であるとか、大型の観光施設を伴った大型の施設といったものを、東京あるいは大阪といった所にもっと整備する必要があるのではないかと思っております。
 
一方、これだけの数のお客さん、2020年で4000万人を受け入れることを考えれば考えるほど、羽田や成田、関空だけでなく地方空港が大きな威力を発揮してきます。実は日本国内に空港は97もございます。
 
今、この地方空港に外国から直接、飛行機がやってくるような仕掛けをすることによって、4000万人あるいは2030年の6000万人という目標をぜひ達成しようではありませんか。
 
一方、もう一つの玄関口が港であります。このパネルにありますとおり、大型の客船が日本に続々やってきています。
 
写真23
昨年、クルーズ船によって日本にやってきた数は110万人を超えました。政府の目標では2020年に500万人を目指しております。
 
実は、クルーズ船は大変な威力を持っております。日本が誇る豪華客船の飛鳥IIはわずかに5万t、日本にやってくる最大の客船Queen Mary2はその3倍の15万t、2500人のお客さんが一斉に港に降りてきます。

この方々は、1人当たり1回の寄港で3万~4万円をお使いになるそうですので、1回の寄港で何と1億円のお金を港に落としていきます。現代の宝船といってよいのではないでしょうか。
 
私は、こういった方々がこれから日本の地方で旅行されるときに有力な切り札になるのが民泊であろうと思っています。民泊は、都市で行う場合には既存のホテル・旅館との軋轢も多いのですが、逆に今、地方は大型の旅館あるいはホテルが代替わりできず、続々と廃業しています。
 
そんな中、日本の民家であるとか、空き家になってしまったところをどんどん民泊に利用して、外国の方でも気楽に地方の山奥や海のふちを訪れていただければ、こんな活用の仕方も考えられるのではないかと思います。
 
一方、日本では外国人留学生の方がますます増えています。
 
例えば別府の立命館アジア太平洋大学であるとか、秋田の国際教養大といった優秀なアジアの留学生をたくさん輩出している学校が出てきているので、日本で若者が少ないのであれば、どんどん外国から若者に来ていただいて、日本でもっと仕事をしてもらうような作戦も有効かと思っています。
 

2-3.陸海空をゲートウェーに

さらに、中国、アジアのみならず、欧米からも富裕層を引き付けられるような超高級リゾートであるとか、日本は水面の多い国ですので、交通機関も例えば水上飛行機などを使ってコミューターで運んであげるといった発想も求められるわけであります。
 
日本は今までは大変恵まれた国でした。わが国の人口は戦後どんどん増え、1億人を超えました。そんな中、田中角栄さんではありませんが、新幹線、鉄道、高速道路といったものが日本の発展を支えてきました。
 
ところが、これからの日本が外国人を迎え入れようとするならば、これに加えて空である空港、海である港のゲートウェーを整備することによって、陸海空の三軍体制でわが国の第2の開国ともいうべき外国の方々のゲートウェーを作ってみてはいかがでしょうか。
 
私が冒頭で申し上げたように、都市の活力は新陳代謝にあるので、陸海空を整備することによって外国の方が大勢いらっしゃるようになり、日本全体の新陳代謝につながればと思って、私の最初のご提案とさせていただきたいと思いました。ありがとうございます。
 
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(2017年01月05日「その他レポート」)

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