コラム
2017年01月04日

自動運転の普及と住宅-完全自動運転が普及した社会を想像する。その3

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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前回は、完全自動運転が普及すると、集客施設の駐車場が必要なくなることを論じたが、同じ理屈で個人住宅の駐車スペースも必要なくなる。

現在、自家用乗用車の保有台数は、全国で約6,090万台である1。乗用車1台当たりの駐車スペースを15m2とすると、駐車に必要な面積は約914km2に及ぶ。これが別の用途に利用できるようになる。

一戸建持ち家世帯は、敷地内に駐車場を確保しているケースが多い。一戸建持ち家の平均敷地面積は約281m2 2である。駐車場の15m2はこれの5.3%を占める。都市部になると敷地面積はもっと狭いのが普通で、東京都の平均147m2では10%を超える。自動車がない駐車スペースは結構広く感じるものだ。これが必要なくなれば、何に利用するだろうか。

建坪率、容積率の制限があるので増築するには限度がある。やはり庭を広く使うのではないか。ガーデニングや野菜作りが趣味の人にはとてもよい。街並みの向上も期待が持てそうだ。小さい子がいるお宅では、子どもたちの遊び場所にうってつけではないか。子育てにも効果がありそうである。

新たに住宅を取得する場合は、現在のように駐車スペースや駐車料金を考慮する必要がないため、取得や保有にかかるコストを抑えることができ、その分、部屋を広く取ることができる。この点は特に若い一次取得層にとってよいことと言える。自己資金に乏しく借入にも限度がある若い世帯は、延べ床面積を小さくすることで取得費を調整する傾向があるためだ。子育てや出生率にもよい影響を与えそうである。

完全自動運転の普及によって移動の制約がなくなると、駅近の便利な立地に住み替えるより、住み慣れた地域で暮らし続けることを選択する高齢層が増えるかもしれない。そこに、若い子育て世帯が、街並みや、子育てのしやすさに魅力を感じて住宅を取得するようになれば、たとえ今より人口、世帯が減少した社会になっていたとしても、地域コミュニティは活性化しているのではないかと想像するのである。
 
1 2016年8月末現在 一般財団法人自動車車検登録情報協会より。
2 「平成25年住宅・土地統計調査」総務省より。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2017年01月04日「研究員の眼」)

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