2016年12月30日

製造業を支える高度部材産業の国際競争力強化に向けて(前編)-エレクトロニクス系高度部材産業の現状と目指すべき方向

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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2高い競争力を誇る機能性部材産業

機能性部材では、主として大企業が手がける半導体・液晶ディスプレイ用材料やリチウムイオン電池用材料などの電子材料が代表例である。

日本企業の世界シェア(日本企業の合算シェア、2014年)を見ると、半導体用材料(プリント配線板材料を含まない)では、主要製品22品目のうち、17品目が50%超のシェアを確保している(図表2①)。例えば、ArFフォトレジスト(フォトリソグラフィ工程3用感光性樹脂)は490億円の世界市場規模に対して86%、封止材料(トランスファモールド4用)は1,590億円の市場に対して65%、シリコンウエハー(基板材料)は8,050億円の市場に対して53%を占めている。また、半導体用材料主要22製品を合算した世界シェアを試算すると、3.1兆円規模の世界市場に対して56%に達する。

液晶ディスプレイ用材料では、主要製品35品目のうち、16品目が50%超のシェアを確保している(図表2②)。例えば、補償機能付き位相差フィルム(偏光板保護フィルム)5は1,290億円の市場に対して96%、反射防止フィルム6は1,090億円の市場に対して89%、大型液晶パネル用偏光板は6,620億円の市場に対して67%を占めている。また、液晶ディスプレイ用材料主要35製品を合算した世界シェアを試算すると、7.8兆円規模の世界市場に対して29%となる。

リチウムイオン電池用材料では、主要製品11品目のうち、3品目が50%超のシェアを確保している(図表2③)。すなわち、負極用バインダー7が50億円の市場に対して84%、リチウムイオンポリマー電池用電解質8が9億円の市場に対して53%、セパレーター9が1,300億円の市場に対して52%を占めている。また、リチウムイオン電池用材料主要11製品を合算した世界シェアを試算すると、1.2兆円規模の世界市場に対して34%となる。
図表2 機能性部材産業の主要製品分野の世界市場規模と日本企業の世界シェア(2014年)①半導体用材料
図表2 機能性部材産業の主要製品分野の世界市場規模と日本企業の世界シェア(2014年)②液晶ディスプレイ用材料/③リチウムイオン電池用材料
図表2に3分野における世界市場規模と日本企業の世界シェアの関係を示したが、いずれの分野においても、両者はおおよそ右下がりの関係となっている。すなわち、当該製品の世界市場が小さいほど、日本企業の世界シェアが高くなり、逆に世界市場が大きいほど、日本企業の世界シェアは低くなるということが、大雑把な傾向として見られる。
 
 
3 半導体製造工程においてスキャナーと呼ばれる露光装置により半導体基板上に回路パターンを描く工程。ArFフォトレジストは半導体の量産レベルでの最先端の露光光源であるフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザーに対応したレジスト。
4 ICチップをプラスチックで封止するための主流の技術。
5 偏光板(光の透過を制御することで、液晶ディスプレイの表示を人が見えるようにする光学フィルム)を保護するフィルムに、液晶表示装置の視覚特性、着色ムラなど固有の光学特性から生じる欠点を補う機能を持たせたもの。
6 ディスプレイの最表面に搭載され、外光の反射や映り込みなどを抑える光学フィルム。
7 リチウムイオン電池の負極を形成する際に、金属製の基板に負極材(充電時にリチウムを蓄える)を固定するための材料。
8 リチウムイオン電池の一種であるリチウムイオンポリマー電池では、電解質にゲル状の高分子(ポリマー)を用いる(通常のリチウムイオン電池では有機電解液)。
9 リチウムイオン電池の正極・負極間に位置する多孔質膜で、正極・負極間でリチウムイオンを透過させる機能を有するとともに、正極と負極の接触を遮断しショートを防止する部材。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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