2016年12月27日

マレーシア・ジョホールバルの住宅市場~供給過剰のイスカンダル計画にさらなる巨大プロジェクトが追加~

増宮 守

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1.はじめに

マレーシアのジョホールバルは、マレー半島の最南部にあるジョホール州の州都で、海峡を挟んだシンガポールの対岸に位置している。2006年から世界的な大規模都市開発であるイスカンダル計画が進められており、一部の日本人投資家の間でも、2010年頃からジョホールバルの不動産投資に対する関心が高まっていた。短期間の住宅投資でかなりの売却益を得た投資家が少なくなかったものの、価格上昇が一巡した後は、供給過剰が顕在化して投資妙味が薄れ、最近では日本国内でジョホールバルでの不動産投資についての話題は少なくなっている。本稿では、先日訪問して確認したジョホール・バルの住宅市場について報告する。
 

2.イスカンダル計画の概要

2.イスカンダル計画の概要

シンガポール対岸のジョホールバル(イスカンダル・マレーシア)において経済特区を有する大規模複合都市の開発を進めるイスカンダル計画は、既に始動から10年を経ている。香港近隣の漁村にすぎなかった深圳が、経済特区として1千万人都市に成長したケースをモデルとし、シンガポールの3倍に及ぶ広大なエリア(図表-1)を対象に、住宅や商業施設開発に止まらず、中心部では行政、金融、さらに教育およびエンターテイメント関連施設を集積、また、郊外の工業団地に製造、物流業を誘致するなどの包括的な都市計画となっている。イスカンダル地域開発庁によると、2006~25年の20年間で3,830億リンギ(約10兆円)の累積投資額、年7.3%のエリアGDP成長を目指しており、また、2013年に180万人だった人口が2025年に300万人に、雇用も131万人に拡大すると予想している。
図表-1 イスカンダル・マレーシア全図
イスカンダル計画では、シンガポールとの連結強化によるエリアの利便性およびブランド力の向上が重要ポイントである。シンガポールのMRT(地下鉄)の延長上にRTS(高速鉄道ステム)の建設を予定しており、これにより、旧市街のJBセントラル駅(図表-2A)からシンガポールのMRTに直接の乗り入れが可能になる。開通予定が当初の2018年から2020年以降に延期されたものの、途中で頓挫する可能性は小さい。さらに、もう1つの鉄道計画は、日本の新幹線システムの輸出も期待されるHSR(高速鉄道)の建設で、2026年の開通を予定している。クアラルンプールからシンガポールまで、途中停車なしの特急が90分で結び、ジョホールバルにもHSR駅が建設され、シャトル便がシンガポールのジュロンイーストまでの1駅を結ぶ。ジョホールバルでは、イスカンダル・プテリ(図表-B)にHSR駅の建設が予定されている。

イスカンダル計画を開発エリア毎にみると、まず、コーズウェイ(土手橋)でシンガポールと連結する旧市街(図表-2A)は、RTS新駅の開発を含め、既存市街地の再開発によって貿易、金融機能やサービスセンターの集積を目指す。一方、以前はパーム椰子畑が一面に広がっていたイスカンダル・プテリ(旧ヌサジャヤ)(図表-2B)は、イスカンダル計画の核として、州政府機能やオフィスを集積し、加えて教育施設やエンターテイメント施設、医療観光施設なども誘致し、大規模住宅開発の中心エリアにもなっている。その他では、コンテナ積み替え拠点であるタンジュン・ペラパス港の周辺(図表-2C)は、セカンドリンクでシンガポールとの連結も良く、物流、製造拠点としての発展を目指している。一方、輸出入港であるパシル・グダン港(ジョホール港)の周辺(図表-2D)は、石油化学関連や各種の製造業を集積している。また、やや内陸に位置するセナイ空港の周辺(図表-2E)は、物流拠点、ハイテク産業・宇宙関連産業などの集積を目指している。
図表-2 イスカンダル・マレーシアのエリアマップ
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増宮 守

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