2016年12月06日

年金改革ウォッチ 2016年12月号~ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   中嶋 邦夫

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■要旨

1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。
なお、11月30日は厚生労働省が定めた「年金の日」、11月は「ねんきん月間」でした。厚生労働省と民間金融機関との協働イベントなどが行われました。

2 ――― ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

先月は、野党から「年金カット法案」と呼ばれた国民年金法等改正案(2016年3月11日国会提出)の審議が国会で進められました。本稿では、同法案のうち「年金カット法案」と呼ばれた部分を確認し、その示唆を考えます。

  1|何が見直されるのか:年金額改定ルールのうち、本則の特例部分。
  2|なぜ見直されるのか:特例ケースが頻発して年金財政に悪影響。
    その結果、将来の給付に悪影響。
  3|どう見直されるのか:将来世代への影響を中立的に。
    年金受給者も現役世代の痛みを共有。
  4|法案からの示唆:将来の給付も大事だが、
    現在の受給者の調整余地の小ささにも配慮が必要。
 

1 ――― 先月までの動き

1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。

なお、11月30日は厚生労働省が定めた「年金の日」、11月は「ねんきん月間」でした。厚生労働省と民間金融機関との協働イベントなどが行われました*1
 

2 ――― ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

2 ―― ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

先月は、野党から「年金カット法案」と呼ばれた国民年金法等改正案(2016年3月11日国会提出)の審議が国会で進められました。本稿では、同法案のうち「年金カット法案」と呼ばれた部分を確認し*2、その示唆を考えます。
1|何が見直されるのか:年金額改定ルールのうち、本則の特例部分。

同法案の内容は年金制度関連と積立金運用関連とに大きく分かれ、前者の中には産前産後期間の保険料免除など複数の項目が含まれています*3。このうち野党から年金カット法案と呼ばれた部分は、年金額改定の本則ルールに関する見直しです。
図表1 現在の年金額改定ルールの概要 現在は年金財政を健全化している最中なので、年金額の改定率は本則の改定率と財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を組み合わせたものとなっています(図表1)。このうち本則の改定率は、財政健全化中か否かに関わらず常に適用されるものです。近年はマクロ経済スライドが注目され、本則の改定率はほとんど話題になっていませんでした。今国会で注目されたことは、年金改定の基礎を知るための良い機会といえるでしょう。

現在の本則の改定ルール(図表2)は2004年改正で導入されたものです。2004年改正前は、どのような状況でも図表2の(1)~(3)の場合と同様に改定されていましたが*4、2004年改正では賃金上昇率が物価上昇率を下回る場合((4)~(6))には受給者に配慮して特例的なルールを適用することになりました。今回の見直しの対象は、この特例的なルールのうち(5)と(6)の部分です。
図表2 本則改定ルール
2|なぜ見直されるのか:特例ケースが頻発して年金財政に悪影響。その結果、将来の給付に悪影響。

公的年金財政の主な収入は保険料で、保険料は現役世代の賃金に応じて変動します。見直し対象の(5)と(6)では、収入(保険料)の伸びを上回る形で支出(年金給付)が伸びることになるため、年金財政の悪化要因となります。マクロ経済スライドによる給付調整(実質的な削減)は年金財政が健全化するまで続くので、年金財政が悪化すると実質的な削減が長引いて、より将来の給付水準が予定より低下することになります。(5)や(6)のケースがまれに起こるのであれば大きな問題はありませんが、2004年改正後はこれらのケースが頻発したため(図表3)、今回見直されることになりました。
図表3 近年の賃金上昇率や物価上昇率の推移
3|どう見直されるのか:将来世代への影響を中立的に。年金受給者も現役世代の痛みを共有。

今回の法案は、(5)や(6)のケースで賃金上昇率に合わせて年金額を改定する内容になっています。この結果、(5)や(6)でも(4)と同様に年金財政への影響が中立的になり*5、将来給付への悪影響がなくなります。

一方、(5)や(6)では賃金上昇率がマイナスでかつ物価上昇率を下回っているため、名目の年金額が前年度より下がり、実質的にも年金受給者の購買力が低下します*6。これが、野党から「年金カット法案」と批判されている理由です。しかし、年金額の改定率が賃金上昇率ということは、現役世代の賃金の伸びと同じということです。つまり、受給者も現役世代も同様の痛みを共有する形です。

4|法案からの示唆:将来の給付も大事だが、現在の受給者の調整余地の小ささにも配慮が必要。

この見直しの興味深い点は、施行時期が2021年4月と比較的遅めに設定されていることです*7。将来給付への悪影響を緩和する観点からは、なるべく早期に見直しが実施されるべきです。しかし、現在の受給者は既に退職しているため、制度改正で予定外に年金給付が目減りしても家計をやりくりする余地が小さくなっています。遅めの施行時期は、将来への配慮と現在への配慮のバランスが重要であることを示唆している、といえるでしょう。
 
*1 「年金の日」の認知度等については、日本生命が実施したアンケートの結果を参照。
*2 詳しい説明は、拙稿「年金額改定ルールと年金財政への影響の再確認」を参照。
*3 法案全体の概要は、拙稿「2016年年金改革法案のポイント」を参照。
*4 このルールは2000年改正で導入。2000年改正前は基本的に全年齢の年金額が賃金上昇率に応じて改定されていた。
*5 これにより本則改定のどのケースでも年金財政へ悪影響しなくなる。本則の見直しであるため、恩恵は恒久的である。
*6 (5)や(6)では名目年金額が下がるため、マクロ経済スライドは特例により適用されない。詳細は前掲*2の拙稿を参照。
*7 同法案の他項目の施行日は前掲*3の拙稿を参照。この見直しの施行時期が2021年4月になっている理由は、保険料率引上げによって(手取り)賃金上昇率が小さめになる影響(2020年まで)を回避するため(年金部会議事録[2016/3/14])。結果として、この見直しの施行時期は低年金者への福祉的給付の導入時期(法案提出時は2017年4月、現時点では2019年10月の見込み)より後となる。なお、消費税率引上げの影響は、拙稿「消費税率引上げ再延期の影響」を参照。
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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度

(2016年12月06日「保険・年金フォーカス」)

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