コラム
2016年12月05日

デジタル・ネイティブ世代の「インスタ映え消費」~情報の流れは縦から横へ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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「インスタ映え消費」1という言葉をご存知でしょうか?最近、20代の女性を中心に、「インスタグラム」という、写真を共有するスマートフォン向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で話題になった商品が売れているそうです。スイーツやネイル、ハロウィンの仮装など、気に入った写真が投稿されるのですが、写真映えするものは「インスタジェニック」などと言われるようです。

なぜ、このような形の消費が出てきたのでしょうか?
図表1 20代インターネット利用者のインターネット利用機器(パソコン・スマートフォン)の推移 まず、スマートフォンの普及でSNS利用が増えたことがあげられます。総務省「平成27年通信利用動向調査」によると、20代のインターネットの利用機器は、以前はパソコンが圧倒的に多かったのですが、2013年にスマートフォンがパソコンを上回り、2015年にはスマートフォンが9割を超えるようになりました(図表1)。また、その傾向は男性より女性の方が若干強いようです。
20代では利用機器の変化に伴い、インターネットの利用内容も変わっています。ランキングを見ると、2010年も2015年も首位は「電子メールの送受信」ですが、2位に「SNSの利用」、3位に「動画投稿・共有サイトの利用」が入るようになりました(図表2)。なお、選択割合は、「ホームページ・ブログの閲覧、書き込み」(△8.0%pt)や「商品・サービスの購入・取引」(△3.2%pt)はやや低下する一方、「SNSの利用」(+56.7%pt)や「動画投稿・共有サイトの利用」(+31.5%pt)、「オンラインゲームの利用」(+23.6%pt)は大幅に上昇しています。
図表2 20代のインターネットで利用内容の上位10位
つまり、利用機器がパソコンからスマートフォンへ変わるとともに、インターネット利用内容は、従来のインターネット行動で代表的なWeb閲覧などが減り、SNSや動画、ゲームなど、よりエンターテイメント色が濃いものが増えています。これは、端末の性能向上のほか、個人で携帯するというスマートフォンの端末特性、そして、パソコンでインターネットに接続する場合は、目的によらず基本的にWebブラウザ経由となる一方、スマートフォンでは目的別に作られたアプリ経由となることなどが影響しているのでしょう。

つまり、スマートフォンからのインターネット利用が増えたことにより、SNS利用が増えたために、SNSで話題になった商品が売れやすいということになります。また、SNSは友人・知人や自分の興味がある人(好きな芸能人など)を中心につながるため、流れてくる情報の信頼性や親和性が高く、影響を受けやすいという効果もあるでしょう。

そして、デジタル・ネイティブ世代の特徴も指摘できます。「インスタグラム」は比較的若い年代を中心に利用されています2。例えば、1990年生まれの26歳を想像すると、物心ついた頃からインターネットや携帯電話が普及しています。小学生になると、携帯電話で写真付きメールも送れるようになり、コミュニケーション手段は音声やテキストだけでなく、写真や映像にも広がっていきます。さらに中高生ではmixiやFacebookなどのSNS、成人する頃にはLINEも登場します。このような世代では、画像を使ったコミュニケーションに慣れ親しんでいることに加え、誰もが情報を収集・発信できるようになったために情報の流れも変化しています。

ひと昔前は、多くの情報を持つマスメディア(情報強者)から、情報をあまり持たない一般消費者(情報弱者)へというように、情報は「縦の流れ」が主流でした。しかし、インターネットの普及で、誰でも情報を収集・発信でき、さらにスマートフォンの普及でSNSとの接触時間が増える中では、情報の流れは、SNSなどでつながっている「横の流れ」へとシフトしています。

現在、幅広い年代でスマートフォンやSNS利用率が上昇しています3。世代によって、情報通信技術を用いたコミュニケーション手段との親和性に違いはありますが、若者で見られる状況は消費者全体にも波及する可能性が高いでしょう。

企業のマーケティング活動としては、情報の「横の流れ」にいかに入り込むかがカギとなります。
 
1 楽天株式会社「楽天市場 2016年 ヒット商品番付」の東の横綱が「#インスタ映え消費」。また、日経MJ(流通新聞)「品質・デザイン向上、広がる『100円経済圏』100均、ゴージャス、『インスタ』映えヒット生む。」(2016/11/28)など。
2 ニールセン株式会社「『Instagram』アプリの利用者数が2016年4月に1,000万人を突破 ~ニールセン、スマートフォンアプリの利用動向を発表~」(2016/5/31)によると、利用者の約半数が18~34歳。
3 総務省「通信利用動向調査」によると、2011年から2015年にかけて、60歳以上のインターネット利用者のインターネット利用機器としてのスマートフォン利用率は2.9%→27.4%へ、SNS利用率は14.6%→18.5%へと上昇。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2016年12月05日「研究員の眼」)

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