2016年11月29日

転換期を迎えた世界の不動産投資市場

加藤 えり子

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6――長期金利の動向とイールドギャップ

現在の投資用不動産価格の上昇の背景には、各国の金利低下がある。GFC前の不動産市場の好調期に比べて各国とも現在の金利水準は低く(図表10)、不動産価格が前回のピークを上回っている要因にもなっている。低金利下では、不動産投資を行う際の資金調達が容易であると同時に、投資家の要求利回りが低下することで価格を押し上げる。

Real Capital Analyticsによる各国の実物不動産取引利回り平均値と長期金利を(図表11)に示した。両者の差が最も大きいのはドイツで、次いでカナダ、フランス、スウェーデン、次いで日本となる。スペインを除く西欧各国と日本は、長期金利が米・豪と比べ低水準となっており、取引利回りとのギャップが大きい状況にある。すでに、トランプ次期政権への政策期待から各国で金利上昇が見られる状況だが、この上昇が一時的なものではなく不動産利回りとのギャップ縮小が確実になった場合には、不動産への資金流入がさらに抑制される市場が現れると予想される。逆に金利上昇が抑制されるマーケットでは、ギャップが縮小するマーケットを避けた投資資金が流入する可能性がある。金利が上昇したマーケットでは一旦は期待利回りが上昇し価格が下落するが、その後インカムが成長していけば価格は調整され、また上昇サイクルに入ることができる。今後の不動産投資市場では、インカムの成長が注視されると思われる。
図表10 各国のリスクフリーレート(10年国債利回り)推移
          (出所)Real Capital Analytics www.rcanalytics.com
図表11 各国のイールドギャップ
          (出所)Real Capital Analytics www.rcanalytics.com

7――米・英・豪・日 上場リート市場の動向

7――米・英・豪・日 上場リート市場の動向

2009年以降、時折調整局面はあるものの各国の上場リート市場は、概ね上昇基調で推移してきた(図表12)。しかし、2016年12月に入って各国リート市場は価格が急落している。これは前述のトランプ新政権への政策期待による金利上昇を要因としており、上場リート価格には下落圧力が生じた状態となっている。

英国については、これより1年遡る2015年11月からの4ヶ月に上場リート価格が下落基調となり、EU離脱の国民投票後にさらに価格を下げている。また米国については、2015年に入った頃に利上げ観測を織り込み、大きく値を下げているが、実際に利上げされた2015年12月前には上昇に転じていたことがわかる。上場リートは、実物不動産より敏感に金利上昇に反応し、価格に下落圧力がかかるが、実物同様に、保有不動産の収益成長が伴っていれば、その後は価格調整される。米国リートの推移からはそうした調整のあと上昇基調に戻ったことがうかがえる。
図表12 米・英・豪・日 上場リート指数の推移

8――まとめ

8――まとめ

不動産投資市場にはサイクルがあるといわれる。その理由として、従来から挙げられているのは賃貸市場が好調期を迎え賃料が上昇すると、それを受けて新規供給がもたらされ、その後需給が緩んで賃料が下がるというものだ。不動産サイクルの好調期は、通常は好景気によりもたらされるため、景気サイクルと連動する。しかし、近年の不動産価格の高騰は、金融緩和による資金調達の容易さと低金利による投資先不足がもたらした側面の方が大きい。足元で各国の金利は上昇してきており、これまでとは異なる金融環境になりつつある中、資金フローの側面からは、多くの不動産マーケットで利回りが上昇する局面となると思われる。それに抵抗するのがインカムの成長であり、今後はそれが望める市場(都市・セクター)を選別し、投資機会を得ることが求められる。
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加藤 えり子

研究・専門分野

(2016年11月29日「基礎研レポート」)

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