2016年11月29日

転換期を迎えた世界の不動産投資市場

加藤 えり子

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4――米・英・豪・日の不動産インカム・キャピタルリターン

不動産のトータルリターンは、賃料収益をベースにしたインカムリターンと、不動産評価額の増減ベースのキャピタルリターンに分解することができる。(図表7)は、各国の年率リターンの推移をインカム・キャピタル(棒グラフ)、トータル(折線グラフ)に分けて示しているが、2016年に入り、米・英・オーストラリアでキャピタルリターンが低下し始めている。英国以外ではキャピタルリターンはプラスを維持しており、不動産評価額はまだ上昇を続けているものの、上昇幅が縮小傾向にある。英国は、キャピタルリターンが2016年3Qに-0.6%となり評価額はマイナスに転じた。

各国のリターン増減を比較すると、米・英のリターンの増減幅が、オーストラリアと日本に比べて、かなり大きいことが分かる。インカムリターンは各国とも比較的安定しており、キャピタルリターンの変動が米・英で大きい。各国のキャピタルリターンの標準偏差(四半期、2002年3月-2016年6月)は、英国3.39、米国2.71、オーストラリア1.44、日本1.32となっている。なおキャピタルリターンに使用される不動産価格は評価額であることから、各国の評価システムにおける市況反映の迅速性、取引価格との乖離度などがキャピタルリターンの変動特性に影響を及ぼしている点には留意を要する。
図表7 米・英・豪・日 不動産インカム・キャピタルリターン推移(年率)
いずれの国もGFC後にキャピタルリターンの下落を経験しているが、米国についてはそれより遡った2002年にITバブル崩壊による価格下落もあった。また、英国はGFCからいち早く回復し、2010年にはキャピタルリターンがプラスに転じたものの、続く2012年にギリシャ問題を中心とした欧州危機が起こり再び下落、そして2013年以降プラスに転じたが、EU離脱国民投票を経た2016年3Qは、キャピタルリターンがマイナスに転じた。

日本についてはキャピタルリターンの下落幅はオーストラリアと同程度で米・英に比べると小さい。日本の指数算出の対象不動産には上場リートが保有している物件も含まれている。これらは長期保有を前提としているため売買されるケースは少なく、鑑定評価額は同一評価者による継続鑑定が多数を占める。こうした事情もキャピタルリターンの変動幅が小さい要因となっている。また、日本はキャピタルリターンが回復してプラスに転じるまでに時間を要したことも他国と異なる特徴となっている。

各国のトータルリターン(四半期毎)を2001年12月=100として累積し、(図表8)に示した。オーストラリアがGFC後は継続して最も高く、英米は拮抗しているものの2016年に入り英国は反転している。GFC後に底打ちした時点は、英国・オーストラリアが2009年6月、米国が2009年12月であった。日本は前述のように、GFC後にキャピタルリターンの小幅なマイナスが続いたことから底うち時点は2010年6月で、英国とは1年のタイムラグがある。
図表8 米・英・豪・日 不動産累積トータルリターン

5――投資用不動産の都市別シェア

5――投資用不動産の都市別シェア

こうした各国のリターンの変動特性には、リターン算出の対象となっている投資用不動産の地域構成(図表9)による影響もある。英国のリターン変動幅が大きい要因は、リターン対象不動産の資産価値のうち、37%を価格変動幅の大きいロンドンが占めていることにある。

英国よりさらに一極集中が著しいのが日本で、東京の資産価格が56%を占める。しかし英国と異なり、東京の物件でも価格変動は相対的に緩やかでリターンの変動も緩慢なものとなっている。

米国については最も資産シェアが大きいニューヨークでも14%で、ロサンゼルスが10%、サンフランシスコ・ワシントン・シカゴが8%と続く。リターン対象不動産が多数の主要都市に分散して所在していることが分かる。

オーストラリアについては、シドニーの資産シェアが39%と高めなものの、次点のメルボルン(24%)との差は小さく、少数の都市にバランスよく分散して投資対象不動産が所在している。
図表9 米・英・豪・日 地域別資産シェア(MSCIインデックスベース)
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加藤 えり子

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