2016年11月25日

中国経済見通し~デレバレッジ 、住宅バブル崩壊 、トランプ・リスク と不安材料は盛り沢山だが、6.5%前後の経済成長を維持すると予想

三尾 幸吉郎

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2|投資
投資は引き続き減速している。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、1-10月期に前年同期比8.3%増と、昨年通期の同10.0%増を1.7ポイント下回った(図表-8)。業種別に見ると、全体の3分の1を占める製造業が前年同期比3.1%増と5.0ポイント低下、消費サービス関連も同9.0%増と5.3ポイント低下した。一方、不動産業は同6.6%増と低水準ながらも昨年通期の同2.5%増を4.1ポイント上回り、水利・環境・公共施設管理業などインフラ関連は同17.1%増と昨年並みの高い伸びを維持している(図表-9)。
(図表-8)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表-9)固定資産投資(除く農家の投資)の内訳
今後の投資動向に関しては、過剰設備・過剰債務を抱える製造業では、安価で豊富な労働力を求めて後発新興国へ工場を移転する企業が増えると見て、2017年以降も引き続き低位の伸びを予想している。但し、「中国製造2025」に関連する領域では中国政府の支援もあって積極的な投資が期待できるため、製造業全体では前年割れを回避し、低位ながら一桁台前半の伸びは維持できるだろう。

不動産業の投資に関しては、2016年は住宅サイクルが悪循環を脱したことを受けて前年を上回る伸びとなりそうだが、ここもとの住宅価格急騰を受けて中央政府と地方政府が一斉にバブル退治に動き出した(詳細は後述)。2017年以降の不動産業の投資は一桁台半ばの伸びに留まると予想する。

消費サービス関連に関しては、店舗販売から電子商取引(EC)へシフトするなど潮流が大きく変化する局面にある。中間所得層の増加傾向が追い風となる文化・体育・娯楽や教育、ECへのシフトで物流網整備関連(農村のサービス拠点、コールドチェーン構築など)の伸びは引き続き高い伸びを続けるだろう。但し、店舗販売の不振に歯止めを掛けるのは難しく、消費サービス関連全体では一桁台の伸びに留まると見ている。
(図表-10)固定資産投資(国有と民間)の推移 インフラ関連に関しては、2016年上期に景気テコ入れのために投資を加速させた反動で下期にはスピード調整しており、2017年以降は引き続き高い伸びを維持するものの10%台半ばの伸びに留まると見ている(図表-10)。但し、中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)3」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、来年の成長率目標を下回る恐れが出てきた場合は、長期計画を前倒して20%前後の高い伸びを維持する可能性もある。
 
3 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
3|輸出
輸出は不振が長引いている。輸出額(ドルベース)の動きを見ると、1-10月期に前年同期比7.7%減と、昨年通期の同2.9%減に続き2年連続で前年割れとなっている(図表-11)。ここもと先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)や貿易輸出先行指数(中国税関総署)がやや上向いてきており、2016年に関してはマイナス幅が若干縮小する可能性がある(図表-12)。しかし、米国では2017年1月20日にトランプ大統領が誕生する。同氏は選挙キャンペーン中に、中国を「為替操作国」に認定し45%の高関税を課すとの厳しい姿勢を示していた。現時点では、中国をターゲットにして、輸入全品に及ぶような広範囲に高関税を課すような深刻な事態に至るとは見ていないものの、中国にとって米国は貿易黒字の半分近くを稼ぎ出すドル箱だけに、対米輸出には減少圧力が掛かり、対米輸入には増加圧力が掛かることになるだろう。今後も輸出に大きな期待はできない。
(図表-11)輸出額(ドルベース)の推移/(図表-12)輸出の先行指標

3.金融政策は景気重視からバブル退治へ

3.金融政策は景気重視からバブル退治へ

(図表-13)金融市場の動き 2016年1-10月期の金融政策の動きを振り返ると、年明けに株価が急落し、人民元が資金流出懸念から売られる中で、中国人民銀行は3月1日に市中銀行から強制的に預かる資金の比率である預金準備率を0.5%引き下げた(図表-13)。過剰設備・過剰債務の調整を進める上で、その痛みを和らげるための措置とされた。また、ドル売り元買い介入が増える中で、金融市場に人民元建て資金を供給する必要があったことも背景と見られる。

また、中国人民銀行は貸出・預金の基準金利の引き下げを見送った(図表-13)。年明けの中国では景気が大きく下振れしたため、市場では利下げ期待が浮上していた。しかし、原油価格が底打ちしたことや春節(旧正月)に食品価格が急騰したため、消費者物価は上昇率を高めていた。また、住宅バブル懸念が強まったことも利下げを見送った背景のひとつと見られる。住宅価格の動きを見ると、今年7月には前回高値(2014年4月)を越えてその後も最高値を更新中である4。また、10月の住宅価格を見ると、70都市平均では前回高値を小幅に(約5%)上回ったに過ぎないものの、深圳市では前回高値から79.4%上昇、上海市では同47.0%上昇、北京市では同34.6%上昇するなど巨大都市では住宅バブル懸念が強まっている(図表-14)。すなわち、2016年1-9月期には、成長率目標である“6.5-7%”の達成にメドが立たなかったため、その達成に向けて景気を重視するスタンスで臨み、住宅バブルの膨張に関しては本格的な対策を講じなかったといっても過言ではないだろう。
(図表-14)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均) 2017年に向けての金融政策は、景気重視から住宅バブル退治に重点が移ると見ている。これまで景気対策としてインフラ整備を加速させてきたことや、住宅バブル膨張を黙認したことで住宅販売が急増したため、2016年の成長率目標の達成はほぼ確実となった。景気不安が薄れた中で、今後は将来に大きな禍根を残さぬよう住宅バブル退治に注力することになるだろう。実際、10月国慶節連休前後には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化する方向に動き出した。また、中国人民銀行は10月12日に、商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も、不動産融資を巡るリスク管理を強化する方針を明らかにした。中国の中央政府と地方政府は一斉にバブル退治に向けて動き出している。
 
 
4 住宅価格は、中国国家統計局が毎月公表する「70大中都市住宅販売価格変動状況」の中で、新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)を用いている。また、2016年1月以降の2010年基準指数及び70都市平均を定期公表されてないためニッセイ基礎研究所で推定している。
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三尾 幸吉郎

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