2016年11月22日

欧州年金基金の投資方針原則に対するEIOPAの提言-8つの最善策と3つの勧告

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――EIOPAによる投資方針のピアレビュー

1背景
2016年10月21日、EIOPA(欧州保険年金監督機構)が「年金基金(IORPs)の投資方針原則に関するピアレビュー」を公表した1
(IORPs(Institutions for Occupational Retirement Provision):以降、年金基金とよぶ。)
 
保険会社と同様に、年金基金も長期投資家として厳しい環境下に置かれている。一つは引き続く低金利である。また人口構造の点でも長寿リスクというものが次第に大きな影響を及ぼすようになってきたかにみえる。こうした状況のもとでは、確定給付年金(あるいはハイブリッド年金)においては、決められた給付水準を保証するための年金債務が増加し、場合によっては資金不足という深刻な問題に直面することになる。また確定拠出年金にあっては、年金原資の積立・運用期間に加入者が完全に運用リスクにさらされており、今の低金利状況は大いに悪影響を与えることとなる。
 
年金基金の運営全般や監督に関しては、既に2003年に「IORP指令」(Directive 2003/41/EC)が施行されており、その中で、資産運用上留意すべき基本的な考え方が記載されている。

この中で、年金基金は、投資方針原則についての記述書(Statement of Investment Policy Principles ;プレスリリースや今般の報告書ではSIPPと略称しているが、馴染みがないので、以下この稿では「投資方針原則」と統一して呼んでおく。)を持たねばならず、少なくとも3年毎に見直さなければならない、とされた。さらに重要な変更があった時も遅滞なく反映しなければならないとも記載されている。
 
さて、この指令は近いうちに改訂される予定(IORPIIへ。詳しくは後述)なのだが、今回は、そうした改訂もにらみつつ、27の国・地域の監督者を対象に、

・投資方針原則が、監督ツール、あるいはディスクロージャーすべきものとして、どの程度使われているのか
・各国で、それに付随して、どのような規制がなされているか
・EU内で統一された監督方法はいかにあるべきか

といった問題意識のもとで、投資方針原則に関するピアレビューが2015年から行なわれた。
 
1 Peer Review of the Statement of Investment Policy Principles for IORPs Publication of outcomes 2016.9.30
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/EIOPA-BoS-16-170_SIPP_Peer_Review_Publication_of_Outcomes.pdf
2|8つの最善策
といっても、調査結果自体は、どの機関(投資部門、投資委員会、CIO、経営会議など)が、どんな頻度(年一度、2年に一度など)で、どのような点(運用対象、リスク選好など)について、投資方針を変更しているかなどについて、個々の国ではなく、アンケート集計の形で公表されている。国によって様々な状況があるという点はこれでわかるのだが、具体的にどの国かということは明らかにされていない。

EIOPAは、全体としては「投資方針原則は、日常の非公式な監督や正式な検査の際に、年金基金の投資方針やリスクの把握、あるいは法令順守状況をチェックするツールとして、主に使用されている。」と結論している。投資方針原則の内容に関する規制は国によって違いがあり、今のところ、IORP指令における基準への細則として、各国で定められた方針に拠るとのことである。

この実態の把握を受け、年金基金の実務負担を緩和する目的も含め、8つの最善策が提示され、3つの推奨アクションが各国監督者に提示されている。

まず、8つの最善策とされるものであるが、以下のようなものである。

【投資方針原則の内容に関する支援に関して】
1. 多数の年金基金や分離勘定を監督する際には、監督者のウェブサイト上に、年金基金がアクセス可能な、投資方針原則についての「よくある質問」(FAQs)を置いておくこと

【コンプライアンス検証のためのより効果的なプロセスに関して】
2. 通常の投資方針原則を提出する義務がある多数の年金基金をもつ各国監督者は、年金基金に自動リマインダーを発行することにより、適時に投資方針原則を提出するかどうか監視するのはもちろんだが、ウェブ上の一箇所に、投資方針原則とそれに付随する監督文書を厳重に管理・蓄積し、年金基金がアクセスできる方法を用いること
 
3. 監督にあたって投資方針原則を要求し、利用する時には、監督者は投資方針原則の定性評価の一部としてチェックリストを作成し、それを適用すること
 
4. 監督にあたって投資方針原則を要求し、利用する時には、オフサイトまたは正式検査の間、年金基金の投資プロセスのガバナンス上のチェックを実施すること
 
【リスクの特定に関して】
5. 定量的データを収集する多数の年金基金を監督する各国監督者は、投資上限、リスクの特定、正式検査への選択を確認する目的で、オンラインデータによるデータ収集を行なうことを投資方針原則の中におくこと
 
6. 監督における、部門別・テーマ別の分析において、リスクを特定する際には、投資方針原則の中にある定量的データを用いること
 
7. 定量的データを用いる監督者は、投資方針原則の中にリスクを特定する目的で、年金基金のリスクプロファイルにアクセスする権限をおくこと
 
8. 投資方針原則を、正式検査の選択基準のひとつとして使用すること
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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