2016年11月18日

米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.大統領・議会選挙結果

(1)選挙結果:事前の予想に反し、大統領、上下両院で過半数を確保する共和党の完全勝利
(図表2)大統領選挙結果 11月8日に投開票が行われた大統領、議会選挙では、事前のクリントン氏有利の予想に反してトランプ氏が勝利した(図表1、2)。また、同日実施された議会選挙でも民主党が上院で過半数を確保するとの予想に反して、共和党が過半数を確保した(図表3)。この結果、オバマ大統領が初当選した09年1月の第111議会以来となる、大統領、上下両院の多数党が一致する安定政権が誕生する見込みとなった。もっとも、上院ではフィリーバスターと呼ばれる議事進行の妨害を回避するのに必要な60議席には達しなかったことから、法案成立のために一定程度民主党に配慮する余地を残した。
(図表3)上院議員選挙結果/下院議員選挙結果
(2)大統領選挙結果分析:トランプ氏が勝ったというより、クリントン氏が負けた選挙?

大統領選挙の結果を振り返ると、全米得票率1ではクリントン氏がトランプ氏を0.8%ポイントほど上回ったものの、選挙人の獲得州ではトランプ氏がクリントン氏を大幅に超過する結果となった(図表1、2)。
(図表4)主要接戦州の動向 トランプ氏が勝利するには、支持率が拮抗している接戦州のほとんどで勝利することが唯一の条件とみられていたため、クリントン氏が有利であるとの事前予想が多かった。実際の選挙結果は、フロリダ州やオハイオ州などの重要州でトランプ氏が勝利したほか、クリントン氏の勝利が確実視されていたウィスコンシン州やペンシルバニア州もトランプ氏に奪われるなど、クリントン氏が接戦州で惨敗する結果であった(図表4)。

ウィスコンシン州やペンシルバニア州など5大湖周辺の州は、石炭や鉄鋼業などの製造業を抱えるラストベルト(赤錆地帯)と呼ばれており、これまでは民主党の牙城であったが、今回の選挙では米国製造業の復活を掲げるトランプ氏の支持が上回った。
(図表5)米大統領選挙出口調査結果 一方、出口調査をもとに性別や人種別の得票率をみると、今回の選挙でも、前回選挙(12年)同様、性別や人種によって特定の候補に支持が偏ったことが分かる(図表5)。

実際、性別ではクリントン氏が女性票の54%を獲得し、トランプ氏(42%)を大幅にリードした。しかしながら、オバマ氏とロムニー氏が争った前回選挙に比べて女性の投票率でオバマ氏を僅かに下回っており、女性初の大統領誕生の期待がかかった選挙としては、クリントン氏に対する同性からの支持は力不足であったと言える。

さらに、人種別の得票率をみても、投票者全体の7割を占める白人でクリントン氏がトランプ氏に大幅なリードを許した一方、白人以外の人種ではトランプ氏には大幅なリードを獲得したものの、前回選挙でオバマ氏が獲得した得票率を下回っており、トランプ氏の圧倒的な白人からの支持を跳ね返すほどの非白人からの支持は得られていなかったことが分かる。
一方、トランプ氏の勝利の要因として、オバマ大統領やクリントン氏が目指す民主党の政策が支持を失い、トランプ氏の政策が支持されたとの見方に筆者は非常に懐疑的である。確かにトランプ氏の政策公約は、ドッド・フランク法やオバマケアの廃止などオバマ政権の政策をひっくり返すような政策項目が多かったことから、トランプ氏勝利の事実と併せて考えるとそう解釈できなくもない。しかしながら、以下の3つの理由から、今回の選挙に限って言えば民主党の政策が否定されたというより、クリントン氏の資質が大統領として相応しくないと判断された結果と考えている。

第1の理由は、10月28日のクリントン氏メール問題の再燃で両候補者の支持率が大きな影響を受けたことである。リアル・クリア・ポリティクスが公表する全米平均支持率は、メール問題再燃を境にトランプ氏の支持率が顕著に回復していることを示している(図表6)。支持率調査は実態を反映していないとの批判もあるが、10月下旬にはクリントン氏有利が顕著であったことから、仮に、その時期に投票が実施された場合には、大統領選挙は違う結果となった可能性が高いと思料される。
(図表6)全  米平均支持率/(図表7)大統領支持率
第2の理由は、任期が終わりに近づいている大統領の支持率でオバマ大統領とブッシュ前大統領で対照的な動きとなっていることである。両大統領支持率の推移をみると、ブッシュ前大統領の政権末期の支持率が2割程度に低下しているのに対し、オバマ大統領は足元でも5割を超える支持率を集めていることが分かる(図表7)。オバマ大統領の高支持率はクリントン氏、トランプ氏ともに不人気の候補であるため、同統領が相対的に良くみえてしまうという点には注意が必要だ。しかし、民主党政策からの転換が支持されているとすれば、オバマ大統領の支持率は低下している筈である。

第3の理由は、トランプ氏の得票率の低さである。得票率でクリントン氏に負けているほか、最終的な得票数は確定していないものの、クリントン氏が2百万票近い差をつけているとみられていることから、00年選挙でゴア氏がリードした50万票に比べて大きな差となっている。

このようにみると、今回の選挙でトランプ氏や同氏の政策が積極的に支持されたというよりは、民主党候補であるクリントン氏に対して、メール問題やクリントン財団の問題などのスキャンダルから大統領としての資質が疑問視されたことが大きいと考えられる。
(図表8)連邦議会における民主党議員占有率 もっとも、より大きな流れでみると民主党の政策運営が支持されているとも言い難い。上下院における民主党議員の議会占有率をみると、下院では第112議会から来年1月からの第115議会まで、4期連続で過半数割れとなっているほか、上院でも第114議会から2期連続で過半数割れとなっており、民主党が過半数を確保できない状況が続いている(図表8)。

下院では、共和党に有利な選挙区割り(ゲリマンダー)の影響があることを考慮する必要があるものの、上院では今回の改選34議席のうち、共和党は24議席と多くなっていたことから、民主党に有利とみられていた。その有利な選挙で敗北したことは、民主党として重く受け止める必要があるだろう。2年後の中間選挙に向けて民主党は抜本的な出直しが必要とみられる。
 
 
1 11月17日時点でミシガン州の結果が未確定。
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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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