2016年11月15日

【アジア・新興国】タイの生命保険市場(2015年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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3販売チャネル別の販売動向 
販売チャネル別に新契約保険料を見ると、銀行窓販が前年比2.9%減の974億バーツ、直販が同7.8%の48億バーツと落ち込んだ一方、エージェントが同8.3%増の607億バーツと増加した(図表8)。2015年は低金利環境が続いたことから、貯蓄性商品が強い銀行窓販が負の影響を受けた格好だ。しかし、これまで好調だった銀行窓販の販売が落ちたといっても、銀行窓販が解禁された2002年以降、銀行窓販の新契約保険料がエージェントを上回る構造に変わりはない。銀行窓販は、銀行が有する堅固な顧客ネットワークの活用や貯蓄機能を有する保険商品の人気が高いことを主因に好調が続いている。

収入保険料を見ると、最大のエージェントは前年比5.7%増の2,748億バーツ、銀行窓販は同8.4%増の2,286億バーツ、直販は同2.8%増の157億バーツとなった。結果、収入保険料シェアはエージェントが51.1%と、引き続き最大の販売チャネルとなったが、前年から0.5%ポイント縮小した。一方、銀行窓販は42.5%と、前年から0.6%ポイント拡大した(図表9)。収入保険料のシェアは、徐々に新契約保険料のシェア(2015年はエージェントが35.0%、銀行窓販が57.0%)に収束してきている。
(図表8)販売チャネル別の新契約保険料/(図表9)販売チャネル別の収入保険料シェア
4会社別の販売動向
会社別に新契約保険料(上位8社)を見ると、Muang Thai Lifeが379億バーツ(前年比7.5%増)とトップに立ったほか、Thai Lifeが176億バーツ(同18.0%増)、Allianz Ayudhyaが64億バーツ(同5.1%増)とそれぞれ増加した。総じて各社銀行窓販が伸び悩むなか、これら3社は銀行窓販が堅調に拡大して新契約保険料が増加した。一方、その他の5社は銀行窓販が振るわず、新契約保険料が減少した(図表10)。

収入保険料シェア(上位7社)を見ると、2015年は最大手のAIAが全体の21.7%を占めたものの、前年から0.9%ポイント縮小した(図表11)。またBangkok Lifeも8.4%と、前年から1.9%縮小した。一方、Muang Thai Lifeが16.5%(対前年1.5%ポイント増)、Thai Lifeが12.8%(対前年0.2%ポイント増)、Krungthai AXA Lifeが10.3%(対前年0.5%ポイント増)、SCB Lifeが9.9%(対前年0.2%ポイント増)と、それぞれシェアが拡大した。なお、Allianz Ayudhyaのシェアは横ばいだった。

タイ生保市場のプレイヤーを大きく2つに分けるとすれば、AIA、Thai Life、Allianz Ayudhyaといったエージェント主体のグループと、Muang Thai Life(カシコーン銀行傘下)、Bangkok Life(バンコク銀行傘下)、Krungthai AXA Life(クルンタイ銀行傘下)、SCB Life(サイアム商業銀行傘下)といった銀行窓販主体のグループに分かれる。後者の銀行窓販主体のグループは、支店が1000店以上もある四大銀行傘下であり、銀行との協力関係を追い風に2000年代に入って以降、シェアを急速に拡大してきた。上述のとおり、2015年も銀行窓販の新契約保険料がエージェントを上回ったことから、銀行窓販主体の四社のシェアは45.1%と、前年から0.3%ポイント拡大した。一方、エージェント主体の三社のシェアは39.9%と、前年から0.6%ポイント縮小した。
(図表10)会社別の新契約保険料/(図表11)会社別の収入保険料シェア
5資産運用状況
まず2015年の投資環境を振り返ると、株式市場はタイ経済の伸び悩みや中国経済の減速、米国の金融引き締めなどネガティブな材料が重なって下落した。また国債市場についてはタイ中央銀行の3月・4月の利下げや株式市場からの資金流入などにより、タイ10年国債金利は2%台後半の低水準で推移した(図表12)。

タイの生命保険会社の運用資産構成割合を見ると国債が64.8%、社債が17.3%、株式等が9.6%、貸付が4.6%と、国債中心の安定運用を行っている(図表13)。従って、上述のとおり厳しい投資環境が続く中ではあるが、2015年の保険会社の運用費用を差引いたネット運用収益は916億バーツと、国債や社債の安定した利息収入を受けて前年の849億バーツから66億バーツ増加した。

こうした資産運用収益に保険料収入が加わった結果、生命保険会社の運用資産残高は前年比12.1%増の2兆4,410億バーツ(約7.1兆円)と増加した。
(図表12)タイ株価と10年国債金利の推移/(図表13)資産構成比の推移
6収支動向
2015年の生命保険業の収支動向を見ると、保険料等収入と資産運用収益が伸び悩んだことから経常収益は前年比6.3%増の6,172億バーツと、伸び率が2008年以来の一桁台となった(図表14)。しかし、経常費用の伸びも同水準に止まったことから、経常利益は前年比9.8%増の559億バーツと増加傾向が継続した(図表15)。
(図表14)生命保険業の収支動向/(図表15)生命保険業の経常利益の推移

3―おわりに

3―おわりに

上述のとおり、タイ生保市場は拡大傾向が続いているものの、2015年は景気伸び悩みや低金利環境などを背景に市場の拡大ペースが鈍化した。タイ保険委員会事務局(OIC)によると、2016年上半期(1~6月)についても2015年と同様に新契約保険料が伸びず、生命保険会社の収入保険料は前年同期比6.7%増の2,780億バーツに止まっている。

先行きについてはどうだろうか。ミュンヘン再保険の『Insurance Market Outlook』(2016年5月)によると、タイの2016年~2025年までの生命保険料の年平均成長率は前年比4.6%増(全40カ国中第11位)と予測されている。つまり、タイの生保市場は直近10年間の年平均成長率の12.4%増から減速し、緩やかな拡大基調となるが、同期間の世界の生命保険料の年平均成長率(同3%増)と比べて高い成長率が続くと見込まれている。

また足元ではサイアム商業銀行が傘下のSCB Lifeの事業拡大に向けて外国企業と提携する動きを示し、AIAやPrudentialなど複数の外国企業が名乗りを挙げているとの報道もあるとおり、タイの生命保険市場は中長期的な拡大が見込まれる市場であることには変わりないと言えよう。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年11月15日「保険・年金フォーカス」)

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