2016年11月15日

CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向

平賀 富一

文字サイズ

2――CLM諸国の保険市場動向

図表-2 C L M諸国および周辺国の経済・保険の主要指標(2 0 1 5年)
3国では、上記1で概観した各国の政治体制の安定化傾向、外資の導入を含む経済発展への取り組みという状況の下、保険業も、民間保険会社や外資系保険外会社への免許の付与が増加するなど近年発展が加速しつつある。各国別の状況は、図表-2のとおりであり、保険市場として初期段階にある3国はいずれも、保険料収入3の規模・普及率ともに低水準であり、消費者による保険やそのニーズに対する認識・理解が低水準である。法制度の未整備や監督の不透明性等も指摘されている。

インフラや産業関連の建設、物流の活発化、モータリゼーションの進展等により、損害保険(火災・建設工事、海上・貨物、自動車、賠償責任、傷害等)のウェートが、生命保険に比べて、非常に大きくなっているのが共通点である。また販売網としては、今後、エージェントの増加が見込まれるものの人材不足もあり現状では大きなプレゼンスはなく、銀行系保険会社や銀行との提携によるバンカシュアランスや直販の割合が大きいのも共通する事象である。

以下には、3国の保険市場につき、保険会社(元受保険会社)の動向を中心に述べたい。
 
(1)カンボジア
損保7社、生保4社の11社が営業を行っている。損保では地場のForte社が約45%のシェアを保有する首位企業である。生保では、2012年に設立されたCambodia Life(カンボジア政府の過半出資で、Bangkok Insurance、Bangkok Life等との合弁)が嚆矢であり、Manulife(カナダ)、Prudential(英国)、Muang Thai Life(タイ)という体制である。加えて、Prevoirなどマイクロ保険専業の会社もある。近く、損保分野でタイのDhipaya社、信用保険で中国輸出信用保険公司(SINOSURE)の参入の予定が報じられている。同国では外資の全額出資も認められているため外資系企業の進出が多い。日系ではAsia Insurance(損保)にMS&ADグループが出資している他、損保ジャパン日本興亜と第一生命が駐在員事務所を設置している。
 
(2)ラオス
15社が営業免許を取得し事業活動を行っているが、損保が主体で、生保商品を販売しているのは2社のみである。業界首位のAllianz General Laos(1990年設立、Allianz(ドイツ)とラオス政府の合弁で2005年まで市場を独占した)のマーケットシェアは2013年で57%であり、2006年から他社が参入した。業界2位のLao-Viet Insurance(地場銀行とベトナム企業の合弁)のシェアは17%で、上位2社が市場を寡占している。外資系の動向としては、本邦MS&ADグループのMSIG Insurance (Lao)、中国系企業・韓国系企業・タイのMuang Thaiグループに加えて、シンガポール系企業も近々営業を開始予定との報道がある(アジア・インシュアランス・レビュー:2016年4月号)。
 
(3)ミヤンマー
市場で圧倒的なシェアを有する国営Myanmar Insuranceと、2012年に免許を与えられた地場12社の計13社がフルライセンスの保険企業である。それらに加えて、外資企業として初めて、ティラワ経済区で日系メガ損保3社の営業免許が付与された。外資系企業は20社以上が駐在員事務所を置いている。Prudential(英国)、Manulife(カナダ)、Great Eastern(シンガポール・マレーシア)、AIA(香港)、太陽生命(日本)などである。アジア・インシュアランス・レビュー(2016年7月号)の報道によれば、生保10社、損保7社に加えて、ブローカー7社が営業免許の付与を待っているとのことである。今後保険市場の自由化の中で、外資企業に全額出資を認めるか、地場企業との合弁形態とし地場保険会社への保護を行うかについて政府内で慎重な検討が行われている由である。
 
3 ラオス・ミャンマーの保険料は、GDPと普及率からの推定値である。
 

3――CLM諸国の保険市場の今後の展望等

3――CLM諸国の保険市場の今後の展望等

3国は、保険市場としては、現時点では発展の初期段階にあるが、政治体制の安定化傾向と、自由化や市場開放などの経済政策の実行、「アセアン経済統合」(AEC)や中国の一帯一路などにより、さらなる経済発展や消費者の所得水準や生活レベルの向上が加速化する可能性があり、その中で、現在はプレゼンスの小さい生命保険の急拡大も含めた保険市場の長期的な成長が予測される。保険の普及においては、低所得者層をメインターゲットとするマイクロインシュアランス(小口保険)も有効であると考えられる。この点に関し、アジア・インシュアランス・レビュー誌の2014年3月号では、マッキンゼー社の予測を引用し、3国の中で人口も多く市場の拡大可能性がより見込まれるミャンマーについて、2030年にGDPが2千億ドルに増加し、生損保合計の保険料収入が28億ドル(GDP比1.4%)に達するとの見方が示されている。

もちろん、各国ともに政治経済体制は未だ脆弱な面もあり今後の発展におけるリスクはあるが、長期的な保険市場の発展を予期して欧米日やアジア諸国の外資保険企業の進出が増加しつつある。近年の特徴としては、アセアン統合の動きの中、同域内の有力保険企業によるCLM市場への参入がある。その典型例が、タイのMuang Thaiグループによる、アセアン域内に広く展開する企業(Regional Company)を目指す戦略であろう。

CLM諸国においては、現状、保険制度・体制が未整備で、自動車保険の引受成績の悪化傾向、専門人材の不足、国民の保険への認識・認知度が不十分などという諸課題を有している。その克服には、各国の自助努力に加え、アセアン統合における先進アセアン諸国の協力・支援が寄与するものと考えられる。

我が国の保険会社を含む外資保険企業としては、その優れたノウハウ・知識・経験や人材育成の分野で貢献することが、CLM市場の健全な成長と発展をサポートすると同時に、政府・業界との関係の構築・強化、企業とブランドの認知度・信頼度の向上につながる。そのことは、拡大する各市場の中で、各社が、重要なポジションを占め、長期的に利益を獲得する上で大切で、タイムリーな市場参入と長期的視点に立った先行投資が重要であると思われる。また、日系製造業における「タイ・プラス・ワン」戦略のように、タイなどアセアン域内の既存拠点とCLMにおける各拠点の連携や、域内で相互の経済連携が進むメコン地域を面として捉えた戦略や展開も効果的であると考えられる。
<主要参考文献>
・IMF『World Economic Outlook Database』(2016年4・10月)。
・Ins Communications 『Asia Insurance Review』各号。
・同上『Insurance Directory of Asia 2016』.
・Swiss Re「Insuring the frontier markets」『Sigma No.2/2016』.
・同上「World Insurance in 2015: Steady Growth amid Regional Disparities」『Sigma No.3/2016』.
・Timetric 社データベース。
・東洋経済新報社『海外進出企業総覧(国別編)2016年版』。
Xでシェアする Facebookでシェアする

平賀 富一

研究・専門分野

(2016年11月15日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向のレポート Topへ