2016年11月15日

2016~2018年度経済見通し(16年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2016年度0.9%、2017年度0.9%、2018年度1.1%を予想

(先行きは国内需要中心の成長に)
2016年7-9月期は輸出が前期比2.0%の高い伸びとなったことがプラス成長の主因となったが、4-6月期には同▲1.5%と落ち込んでいたこと、輸出の押し上げに寄与した新型スマートフォン向け部品の好調が一時的に終わる可能性が高いことを考慮すれば、基調としては横ばい圏の動きが続いていると判断される。海外経済の低成長が続く中、2016年初からの大幅な円高による下押し圧力が残るため、10-12月期以降は輸出が景気の牽引役となることは期待できない。

一方、7-9月期の民間消費は弱めの動きとなったが、台風の相次ぐ上陸など天候要因で押し下げられた面も大きく、雇用所得環境の改善を背景とした消費の回復基調は維持されていると考えられる。足もとでは、夏場の天候不順を受けた生鮮野菜の価格高騰という新たな悪材料が浮上しているが、一時的な下押し要因がなくなれば、消費は回復の動きが明確となる可能性が高い。

また、公的固定資本形成は7-9月期には3四半期ぶりに減少したが、2016年度補正予算による押し上げもあり先行きは増勢ペースを強めることが見込まれる。2016年度後半は外需のマイナスを国内需要の増加がカバーする形となるだろう。

実質GDP成長率は、輸出、設備投資の低迷が続く2016年度中は年率ゼロ%台にとどまるが、2017年度入り後は円高の悪影響一巡に伴う企業収益の改善を背景に設備投資が回復すること、輸出が持ち直すことなどから概ね年率1%台の成長が続くだろう。実質GDP成長率は2016年度が0.9%、2017年度が0.9%、2018年度が1.1%と予想する。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(需要項目別の見通し)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2015年度の前年比▲0.1%から2016年度には同0.7%と3年ぶりの増加となった後、2017年度が0.8%、2018年が1.0%と底堅い動きが続くと予想する。

消費動向を左右する雇用所得環境の先行きを展望すると、2016年度中は一人当たり名目賃金の伸びが大きく高まることは期待できないが、企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数が増加を続けること、円高、原油価格下落の影響で物価上昇率が低下することから、実質ベースの雇用者所得は高めの伸びを続けるだろう。2016年度の実質雇用者報酬は前年比2.4%(2015年度:同1.8%)となり、1995年度(同2.7%)以来、21年ぶりに2%台の高い伸びとなることが予想される。今後も天候要因や株価下落による逆資産効果などによって一時的に下押しされるリスクはあるものの、2016年度末にかけては実質所得の増加を主因として民間消費は回復に向かう可能性が高い。

2017年度の消費動向の鍵を握るのは春闘賃上げ率の行方である。当研究所ではマイナスが続いている消費者物価上昇率は2016年度末にはプラスに転じ、その後徐々に伸びを高めていくと予想している。こうした中、賃金の伸びが高まらなければ実質賃金は大きく低下してしまう。
実質雇用者報酬の予測/春季賃上げ率と所定内給与
賃上げを巡る環境は厳しい。直近(2016年9月)の失業率が3.0%、有効求人倍率が1.38倍と労働需給は逼迫した状態が続いているが、足もとの企業収益の悪化、消費者物価の下落が逆風となりそうだ。

11/10に連合が発表した2017春季生活闘争方針(案)では、賃上げ要求水準が「2%程度を基準(定期昇給分を除く)」と前年と同水準となっていること、企業経営者が政府の賃上げ要請をある程度受け入れることを考慮し、今回の見通しでは2017年度の春闘賃上げ率を2.15%と2016年度(2.14%)とほぼ同水準と想定した。実際の賃上げ率が前年度を大きく下回るようなことがあれば、実質所得の低下を主因として消費が腰折れしてしまうリスクが高まるだろう。
 
設備投資は企業収益が大幅な増加を続ける中でも低い伸びにとどまってきたが、ここにきて海外経済の減速、円高の影響で企業収益が大きく悪化していることが、設備投資の抑制につながっている。

日銀短観2016年9月調査では、2016年度の設備投資計画(含むソフトウェア投資額、除く土地投資額)が前年度比4.6%(全規模・全産業)と、前年同時期の8.1%(2015年9月調査の2015年度計画)を大きく下回り、2012年度以降では最低の伸びとなっている。一方、経常利益計画が前年度比▲8.1%と明確な減益計画となっていることを踏まえれば設備投資が一定の底堅さを維持しているとの見方も可能だ。特に、製造業は経常利益計画が前年度比▲11.8%の二桁減益となる中でも設備投資は同6.0%の増額計画を維持している。

アベノミクス以降の大幅増益が設備投資の増加につながりにくかった理由のひとつに、企業収益の拡大が売上数量の伸びよりも円安、原油安を背景とした価格要因によるところが大きかったことがある。価格要因による収益の押し上げは一時的と認識されやすいため、リスクを伴う設備投資に踏み切りにくい。逆に、2016年入り後の大幅減益は円高の悪影響が大きく寄与しているが、売上数量は一定の底堅さを維持しているため、円高一巡後には収益の改善が期待できる。このことが設備投資の減速が限定的にとどまっている一因と考えられる。

設備投資が景気の牽引役となることは期待できないが、その一方で設備投資の急速な悪化によって景気が失速するリスクはそれほど高くないだろう。設備投資は当面低調な動きが続くが、円高の影響一巡、海外経済、国内需要の持ち直しから企業収益が増益に転じる2017年度には回復基調となるだろう。設備投資は2016年度が前年比0.3%、2017年度が同1.8%、2018年度が同2.5%と予想する。
設備投資計画(全規模・全産業)/設備投資に先行する売上数量の伸び(製造業)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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