2016年11月15日

2016~2018年度経済見通し(16年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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(円安でも円高でも横ばいが続く輸出数量)
7-9月期のGDP統計の実質輸出(財・サービス)は前期比2.0%の高い伸びとなったが、4-6月期には同▲1.5%の減少となっており、均してみれば一進一退の動きを脱していない。また、貿易統計の輸出数量指数(当研究所による季節調整値)は2013年頃から4年近くほぼ横ばい圏の動きが続いている。
円安でも円高でも輸出数量は横ばい圏の動き 輸出数量は長期にわたり横ばいの動きを続けているが、この間為替レートは大きく変動した。2012年末に80円台だったドル円レートは2013年4月の異次元緩和導入、2014年10月の追加緩和をきっかけとして円安が急伸するなど約3年にわたって円安基調が続き、2015年中は概ね120円台で推移した。しかし、2016年に入ると中国経済の減速懸念、世界的な金融資本市場の混乱に伴うリスク回避姿勢の高まり、米国の追加利上げ観測の後退などから円高が進行し、6月以降は100円台の推移が続いている。

為替レートの変動は輸出動向を左右する大きな要因と考えられるが、実際には円安でも円高でも輸出数量はあまり大きく変化していない。
為替レートと輸出物価指数(契約通貨ベース) 2013年以降の円安局面で輸出数量が伸び悩んだ理由として、世界的な貿易活動の停滞、情報関連分野における国際競争力の低下などに加え、企業が円安下でも契約通貨ベースでの輸出価格を引き下げなかったことが挙げられていた。通常、円安局面において、企業は契約通貨ベースの価格を引き下げて輸出数量を伸ばすことにより海外市場のシェア拡大を図る。しかし、生産拠点の海外シフトによって国内の生産能力が低下していることを背景に、輸出価格(契約通貨ベース)を据え置くことで金額ベースの収益を確保する傾向を強めているため、円安が輸出数量の拡大にあまり寄与しないというものだ。

確かに、2013年から2014年後半までは円安のスピードに比べ輸出価格の低下幅は小さかった。しかし、2014年終盤以降はむしろ円安の勢いを大きく上回るペースで輸出価格は低下した。円安傾向が長く続いたため、為替の動きに遅れる形で企業が値下げに踏み切ったとみることも可能だろう。しかし、輸出価格を契約通貨ベースで大きく下げても輸出数量は伸びなかった。
輸出の相対価格は安定的 価格競争力を見る上では輸出の競争相手国との相対価格をみることも重要である。そこで、先進国の輸出価格指数(日本除き)と日本の輸出価格指数(いずれもドルベース)の動きを比較すると、両者は連動性が高く、相対価格(日本の輸出価格指数/先進国の輸出価格指数)の変動幅は小さいことが分かる。たとえば、2013年以降の円安局面でも輸出の相対価格の低下幅は2%以内に収まっており、過去を振り返ってみても1980年代に相対価格が5%程度変動したのが最高で、それ以外はあまり大きな変化が見られない。つまり、日本企業の多くは為替レートの変動に応じて積極的に価格改定を行うのではなく、国際商品市況も含めた世界的な輸出価格の動向に応じて受動的に価格を変更している部分が大きいことが推察される。2014年後半以降は相対価格が若干低下しているが、低下幅は小さく円安に伴う価格競争力の上昇は限定的にとどまったと考えられる。
一般的に、海外経済の成長率(所得要因)、為替レート(価格要因)を説明変数とした輸出関数を推計すると、所得弾性値が価格弾性値を大きく上回る。実際、海外景気の代理変数と考えられるOECD景気先行指数と日本の輸出数量指数の関係を確認すると、OECD景気先行指数が若干先行する形で両者は非常に近い動きとなっている。円安(円高)が輸出物価の変動を通じて輸出金額を左右することは間違いないが、価格競争力の上昇(低下)を通じて輸出数量に及ぼす影響は世界経済の動向に比べればかなり限定的とみることができるだろう。
OECD景気先行指数と輸出数量指数の関係 OECD景気先行指数は2012~2013年頃は比較的堅調な動きとなっていたが、その後は低迷が続いており、輸出が先行きも低調に推移する可能性が高いことを示唆している。また、2016年入り後の円高の進展を受けて、2016年10月の契約通貨ベースの輸出物価指数は2016年2月のボトムから1%程度上昇している。このことも先行きの輸出の下押し要因となりうるが、ここまで見てきたように輸出数量への影響を判断する上では輸出競争国(海外)との相対価格を合わせてみる必要がある。

海外経済の減速による下押し圧力は今後も続くことが見込まれるが、現時点では円高による相対価格の低下はみられないため、価格競争力の低下によって輸出数量が急減少することは避けられそうだ。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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